医者が病院を辞めた日⑨

大学の講義を聞いていて、「あ、自分のことだ」と思ったんです。

ナルコレプシーと診断された女子大生の言葉より

今の僕の生活は、週に数時間非常勤(いわゆるバイト)の医者の仕事があるだけで、ほとんど自由時間です。
大半の時間は、物思いに耽ったり、運動と読書と勉強と散歩しながら、人生のパートナーである鳥と過ごしています。
この生活になってから2年になります。

僕が病院を辞めるにあたって、考えていたことをシリーズで率直にお話ししています。


医者は、大学を卒業して、国家資格を取ると、患者を診察するようないわゆる一般的なお医者さんになるために、2年間の研修が課せられています。

司法修習生と同じようなものですね。

そこでは、1〜2ヶ月程度の期間で、さまざまな診療科で仕事をします。
短い期間しかいないので本格的な診療まではできない場合は多いのですが、概要を掴むくらいはできます。自分の希望もある程度反映されて、スケジュールが決められます。

人間なんで、それぞれの職場で合った合わないがあるんですが、
ドラマのように、下僕のように扱われるというのは僕はありませんでした。

ただ、僕の場合は、回る診療科によって、めちゃくちゃ褒められたり、最低の評価だったりと、一定しませんでした。

後輩を見ていると、だいたい一定するんです。ちゃんとしている人は、ちゃんとしてるし、そうでない人はそれなりです。

なんでこんなに変わるのか、後から調べてみて、朧げながら理由がわかってきました。

勤務時間が夜遅くまであった診療科は、ミスも多く、評価が悪かったです。

頭が回っていなかったんですね。
今はトレーニング毎日やって、食事や睡眠も自由なので元気ですが、
当時の僕は、とても疲れやすく、昼くらいでもうフラフラでした。
肉眼でわかるくらい電池の減りが早い、初期のスマホみたいでした。

だいたい、昼くらいから眠たいし疲れてきて、認知機能が低下してきます。
18時過ぎると、もう帰ることしか考えていませんでした。



研修医を終えてからも、長時間労働はありましたが、いずれも仕事がうまくいきませんでした。
さらに、出勤する時間と起床時間が自分の体に合っていないことに薄々気づいていました。


合った職場環境や仕事は、集中力が高まり能力も発揮できるのに、合わないと、別人のようにパフォーマンスが落ちる、



初期研修での一番の収穫は、さまざまな職場を短期間で、たくさん体験したことで、自分自身がわかったことですね。

少し極端ですが、自分が外れているのではなく、社会の方が間違えていると思っていました。


何も周りが自分に合わせろという意味ではないです。
人によってパフォーマンスが発揮されるコンディションはバラバラであることは、すでに研究でも明らかです。



なのに、一律同じ時刻から始業とか、日が落ちてまで仕事とか、人間の生物学的な特性に合わないシステムになっているわけですね。



投資ファンドの会社ならいざ知らず、人体に一番詳しい知識を持っている人が多い医療機関でです。

さらに、残業がなくても、週5日働くと、認知機能や処理が落ちるので、休みが2日では全然足りない。一日当たり3時間くらい集中してあとは何もしない、くらいがちょうどパフォーマンスを発揮できるとわかりました。



自分と社会システムに大きなズレがあるわけで、職場の人事や規則などは組織の都合で変わるし、自分では決められないです。したがって自分に合ったものを探すこと自体が一時的で運の要素が強く、不毛です。



他の人が普通にできるような状態で、努力してもできないのであれば、
周囲の期待に応えて、フィッティングしようとするのは大いなる人生の無駄と思います。

さっさと降りて、自分の環境を勝手に作って、好き勝手生きた方が手っ取り早いし、いいに決まっていると考えて、虎視眈々とその時期を待っていました。





続く