見出し画像

【読んだ】感染症の日本史

おすすめ度 ★★★★☆

磯田道史さんの話が面白い、と母が言っていたので、借りて読んだ。途中から、おや?とおもって調べたら、前に読んだ「災害の日本史」と同じ著書だった。マンガだったけどあれも面白かった。

今回の「感染症の日本史」は新型コロナのパンデミックが始まった2020年に出された本。
当時はまだ未知のウイルスで、ワクチンもなかったし、第2波がくるかも、強毒化するかも、など色んな憶測が飛び交っていた。
玉石混交の専門家が色んな説を述べていて、何を信じればいいのかわからず混乱していた。
今読むと、「あぁ当時はこんな風だったなぁ」という懐かしさと、「いやいや、こんなもんじゃ済まんで」という謎の未来人目線になってしまう。

あの時出版された書籍にしては、かなり冷静で客観的な書き方をされていると思う。
長い歴史の中で、人間が何度も疫病に襲われ、どう対応してきたか。
暮らしや政治や経済への影響、医学の対応など、膨大な文献から多角的に調べ上げられている。
文献を徹底して調べ上げて、今の教訓として落とし込む姿勢は「災害の日本史」でも感じた著者の並々ならぬ熱意によるものだ。

同じ過ちを繰り返してはいけない、歴史から学ばなければ、という熱意だ。


以下、面白かったところ備忘録

疫病の神との共生

まじないで疫病を封じようとしていた時代。神が疫病を左右できると信じて、その神に疫病から救われた男「蘇民将来」の子孫であれば救われるとして「蘇民将来の子孫」と書かれた御札を戸口に貼り、栗飯をお供えした。
お供えで疫神を歓待すれば、人間に感染免除してくれるという思想は、疫病を仇敵ではなく「共生」できるものと捉えている。
アイヌのカムイの捉え方に似ていて面白い。

疫病の名前

江戸時代に流行した風邪は、文献に名前が残されたものも多い。流行ったときに琉球から使節が来たという理由で「琉球風」と名付けられ、感染経路のように扱われ、差別に繋がったという。
新型コロナでも、当時米国が「武漢ウイルス」と名付けるべきだと主張し、中国が猛反発した。
疫病の名前は重い。責任のなすりつけ合い、差別を生む構造は今も昔も変わらないのか。

政治の対策

江戸時代の名君、上杉鷹山は当時の流行感冒に対して、あらゆる策をとっている。困窮者への生活支援、医師対策チームの編成、遠隔地への医師派遣。先進的な対策だったが、それでも感染を食い止めることは難しかった。鷹山は多くの領民が死んだことを悔やみ、翌年の正月の祝賀を取りやめ、被害の規模を詳細にきちんと記録に残している。

感染症流行時の「生活支援」「医療支援」は国民として当然、享受していい権利です。国民はそのために税金を払っています。観光キャンペーンに超単位の税金を使いながら、コロナ患者を診る看護師の困窮に無策、もしくは「遅策」なのは問題ではないでしょうか。医療現場の自己犠牲に頼るパンデミック対策であってはなりません。

このあたり、当時の情勢を思い出すとともに、作者のやるかたない想いを感じられた。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?