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【読書記録】ごはんぐるり

おすすめ度 ★★★★☆

「西加奈子さんのノンフィクションは好きだけど、小説は苦手派」にちょうどいいのがエッセイ。軽やかな文章と、美味しそうな食べ物で息抜きできて、とても良かった。


食べ物の話を読むのが好きだ。
小説でも好きだし、グルメ漫画も好きだ。
同じようなことを西さんも書いていて、嬉しくなった。

頭の中は、恋焦がれた桃色の「?」で、口の中は、透明のよだれでいっぱいになる。グルメ番組を見るよりも、よほど、胃袋を刺激する、文中の食べ物たち。

活字のごはん

そう、時に活字のごはんは、本物のご飯よりも美味しそうに感じられる。
外国の、聞いたこともない食材や料理に憧れてヨダレが出る感覚、わかる。
「パンプティング」に憧れ、実物を口にした時の西さんの気持ち、わかる。

パンプティングは、もっと大きくて、ふわふわして、(中略)とにかく、こういうのではない。だって「パ」とか「プ」とか、「ディ」とか、「グ」とか!


その活字のごはんを楽しませてくれる、後半の各国の料理エッセイも良かった。
トルコ・セネガル・ベネズエラ・フィンランドの4カ国。知らない食材、知らない料理ばかりなのに、なんだか胃がむずむずするほど、美味しい感じ。

オニオンとガーリック、パプリカで炊く白いごはん、トストネスと呼ばれるプラタノ(青バナナ)のフライ、牛肉やブラックビーンズの煮込み、とうもろこし粉でできたパンのアレパス、ユカというキャッサバに、アボカド、玉ねぎ、トマトのワサカカソースをかけたもの。(中略)
米をパプリカと玉ねぎ、ニンニクと一緒に炊く。揚げ焼きにした青バナナを、専用の器具で潰す。茹でられていた大きな塊の牛肉を、手で細かく細かく裂く。

たまらない。さっきお昼ご飯にラーメン食べたのに、なぜこんなにそそられるのだ。みたこともない食材や料理が、脳内に色鮮やかに盛られていく。たまらん。


食の表現というのは、一つの文学ジャンルにしてもいいんじゃないかと思う。あらゆる本の、美味しそうな表現だけを集めた本があったら、家に置いておきたい。食欲のない時に読みたい。

あとがき、にも書いておられるが、この本は西加奈子さんのエッセイの中では比較的「上品」で「素敵」な部分に寄っている。でも西さんの独特の文体はそのままなので、まさに「美味しいとこどり」の作品じゃないだろうか。

「ごはん」という言葉には、何かしらこちらを漂白する「キラキラ」が宿っている気がする。やはりそれは「命のこと」につながっているからだろう。


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