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第4回:食とことばの建築〜ランチルームとライブラリーの可能性

2026年4月開校を目指して設立準備中の私立新留小学校(鹿児島県)。わたしたちが考えていること、思い描いている未来を毎日少しずつ言語化していきます。


これまでの記事 ▽
第1回:「ふつうの学校」作ります。設立趣意のようなもの
第2回:「小学校」の概念を見つめ直してみる
第3回:「食」と「ことば」とは



今回は、ランチルームとライブラリーを新たに建築することの意味についてのお話。



廃校を、開校する

本プロジェクトの舞台となる姶良市(あいらし)は、鹿児島県の中央部に位置する人口約7.7万人の自治体。
鹿児島市に隣接し、県本土で唯一人口が増加しているまちでもあります。

姶良市の龍門滝(出典:鹿児島県観光連盟)

校舎の立地する蒲生(かもう)地区は、姶良市の北西部に位置する人口約6,000人のエリア。
全国各地で起きていることと同様に、中山間地域は人口減少・高齢化が進んでおり、今回の校舎である新留小学校は2007年に休校、2020年に廃校となりました。

休校までの7日間を追った日立マクセルのドキュメンタリーCMは、当時全国で大きな反響があったといいます。

今回はこの小さな木造校舎をリノベーションし、「廃校を、開校する」予定です。

この校舎部分が小学校としての主要な空間となりつつ、今回はさらに、「ライブラリー」と「ランチルーム」を新たに建築することを考えています。

その理由として、一つは元々の校舎自体が極めて小規模であり、一定以上の生徒数で一条校としての認可を取得するにあたり、校舎面積を増やす必要があるためです。

もう一つの理由が、第2回の記事↓にも関連して、

学校は、地域という大きな生態系の一部であり、ハブである
学校は何歳になっても遊び学び続けられる場であり、関わる全ての人は共に学ぶ仲間である

というあり方を体現するため。

本記事ではその意味についてお伝えしたいと思います。

「食」と「ことば」という提案

前回の記事↓では、「食とことば」を学びの土台に据える、という話を書きました。

シンプルにいうと、食を象徴する空間が「ランチルーム」、ことばを象徴する空間が「ライブラリー」

もちろんここに留まらず、学校空間のあらゆる場所も、校舎裏の森林公園も、まち全体も、そこかしこが学びの場になっていきます。という前提で。
同時に、長い時間軸の中で、人が集い学び合っていく上では、象徴的な空間があることもパワフルです。

小学校に通う子どもたちが毎日を過ごす場所であり、地域に暮らす人たちも日常的に足を運んでしまう場所。
一人でもいられるし、誰かともいられる場所。自分の想像を越えた出会いがある場所。

誰もが心地よくいられる上で、美味しいご飯を食べたり、本に囲まれて過ごすことができることを大事にしていきます。

ランチルームとライブラリーは同じ棟を想定しているため、別個ではなく一体的なものと想定していますが、便宜的にそれぞれについてイメージを書いてみます。

まちに開かれたランチルーム

参考: そらのまち保育園のランチルーム

学校のランチルームは、子どもたちが給食を食べる場所であり、地域に暮らす人たちが食べに来ることのできる食堂としての役割も併せ持ちます。

年間を通じて地域の生産者と連携した旬の食材を活かすことで、子どもたちはもちろん、地域に暮らす人たち自身もローカルの豊かさを見つめ直す機会に。
学習の一環として子どもたち自身がレストランを開店し、お金を稼ぎながら学ぶ場にもなっていくでしょう。

子どもたちがまちの無線で、「今日のランチはとんかつです!残り10食、食べに来てください!」なんて放送していたら、なんだか暮らしやすそうなまちだなぁ・・・なんて思いませんか?

まちに開かれたライブラリー

参考: 国際教養大学の図書館(出典:秋田県)

学校の図書室でもあり、まちの図書室でもあるライブラリー
お昼休みや放課後に本を読んだり、授業の教室にもなったり。
たまたま本を読んでいた近所の人が、子どもたちと会話したり、そのまま授業に巻き込まれることなんかもあるかもしれません。
遊びに来た人が自分のおすすめ本を置いて、そこから自然とコミュニケーションが生まれていくかもしれません。

何歳になっても遊び学び続けられる場ということで、「年齢問わず、小学校の学生証をゲットできる」なんてのも楽しそうです。小学生と80代のおばあちゃんが同期で、友達のように一緒に学び合っていたら、なんだかステキ・・・

五城目小学校の場合

五城目小学校の中にある地域図書室「わーくる」(出典:五城目町)

共同代表の丑田が暮らす秋田・五城目町では、小学校の統廃合によりまちで一つとなった五城目小学校(町立)を建て替えるにあたり、3年間の住民参加型ワークショップを経て、小学校をつくっていきました。

ワークショップの中で生まれたコンセプトは「越える学校」。
学校と地域の境目を越える仕掛けとして、学校と地域のライブラリーを兼ねた図書室棟を新築しました。

学校敷地には塀がなく、誰もが小学校の中にあるまちの図書室「わーくる」に訪れることができます。
本を読みに来ることに加えて、wifiやコンセントもあるため、ノートPCを持って仕事にくる町民もいたり。
町内外の色んな人が先生になる学び場「みんなの学校」もここを舞台に行われています。

そらのまち保育園の場合

そらのまち保育園1F「そらのまち総菜店」(開園当時)

共同代表の古川が運営するそらのまち保育園は、鹿児島市の商店街の中に位置しています。
ビル一棟をリノベーションして保育園をつくる際、1Fには惣菜店をつくりました
給食で出る料理を総菜店で買うこともでき、商店街の人たちが子どもたちと「スタミナレバー美味しかったね!」なんて会話を自然とするシーンも。

保育園という学び場、その入口にある惣菜店の存在が、まちの日常にゆるやかなつながりを生み出していく
結果として、今まで以上に安心安全なまちとなったり、人が歩くことで商いが生まれていったり(保育園の近隣は空き店舗がゼロに!)。

現在は、総菜店から、卒業した子どもたちも含めたまちの居場所へと変わり始めています。

そらのまち保育園の人気メニュー「スタミナレバー」

一緒に妄想しましょう!

これら二つの事例からも、ランチルーム(食)とライブラリー(ことば)という場の持つ可能性を感じることができるのではないでしょうか。

実際どんな場所となってくかはまだまだこれから。
「食とことば」の力を最大化するうえでも、どのような空間がよいか、目下建築チームとも打ち合わせを進めています。

だいぶ妄想が膨らんでいますが、もしかしたら、ランチルームとライブラリーをまちに開くということが、これからの各地の小学校の基本形になっていくかもしれません。

よろしければ読んでいただいた皆さまからも、こんな事例があるよ!こんな空間だったらいいな!なんて話も、お聞かせいただけたら嬉しいです。

ちなみに、今回は新築することで一定以上の予算がかかってしまいますが、
他の地域で実践する場合は、廃校や遊休施設など既存のハードを活かすことで、より小規模な予算で実現することもできるかもしれません。

こうしたアイデアも含めて、ご一緒に妄想していきたいです!


第1回:「ふつうの学校」作ります。設立趣意のようなもの
第2回:「小学校」の概念を見つめ直してみる
第3回:食とことば とは
第4回:ランチルームとライブラリーの可能性(今回の記事)
第5回:学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン〜保育園編〜
第6回:学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン〜小学校編〜
第7回:「ふつう」という言葉のこそばゆい感 〜これであなたもふつう通!〜
第8回:ご存知ですか、教育基本法?
第9回:小学校とは地域にとってどういう役割の装置か?
第10回:【インタビュー】なぜ、このドキュメンタリーを撮るのか
第11回:「これが教育の未来だ」というコンセプトを手放してみてもいいのかもしれない
第12回 まちづくりは人づくりから
第13回:ことばによって世界の解像度を高めよ 〜国語の先生との対話から〜
第14回:第14回:早期外国語教育は必要か?
第15回:第15回:子どもたちの「やりたい!」を実現できる学校を、地域とともに創る
第16回:学校をめぐる地の巨人たちのお話〜イリイチ、ピアジェ、ヴィゴツキーなど
第17回:コンヴィヴィアリティ、イリイチの脱学校から
第18回:これまでのプロジェクト「森山ビレッジ」
第19回:現役中学生たちの、理想の小学校
第20回:理事紹介1・このプロジェクトにかける思い

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