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自作小説

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体の中に耀る月 エピローグ

体の中に耀る月 エピローグ

秋が深まってまいりました。

ここまで読んでいただけた方は、ありがとうございます。まだの方は、一話から読んでいただけると嬉しいです。

※この話を書いた頃、息子はまだ産まれていなかったので、発達障害を思わせるキャラクターはあまりよく描けていないと反省するところです。

 いくつかの表現は気に入っており、そのまま掲載しております。ご容赦ください。

体の中に耀る月 エピローグ



 深夜、血相を

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体の中に耀る月 第6話「胸中」

体の中に耀る月 第6話「胸中」

 今より昔、当時、なんとなく書いていた部分が、今では意味が変わっていることもあります。
 そういうとき、単純な拙さとは別の読みづらさがありますが、やっぱり小説を書くことを、まだやめたくないですね。

第6話「胸中」

睦は電車を飛び出してから、途方にくれて佇んでいたが、まず敦子に返事をすることにした。

「大丈夫?」

と。それに対する返答はなかった。何コール待っても、電話への応答もない。5分・1

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体の中に耀る月 第五話「睡余」

体の中に耀る月 第五話「睡余」

第5話 睡余

 情はどこから沸いてくるんだろう。源泉はどこにあるんだろう。知らず知らずに溢れ出るものであれば、枯渇を自覚できないのも然り。満たされた時間は一瞬で、それに気づくのは過ぎたとき。振り返って懐かしく思う。虚しいものだ。

楓は家族を愛していた。両親を、娘を、そして、もちろん妹を。彼女の良いところは、家族を恨み妬んでも、彼らの愛によって育まれ、満たされた日々の全てを嘘だと思わなかった事

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体の中に耀る 第4話「腔」

体の中に耀る 第4話「腔」

第4話 腔



それから夏休みまでは、穏やかに過ぎていった。校内で、睦と南戸、春は、一緒にいる時間が増えた。睦の退院後、春は、病院で敦子と何を話したか、聞き出そうとしたが、「秘密だ」と言って答えてくれない。実は、敦子と睦はほとんど何も話していない。春が出ていってから、敦子の気分は幾分和らいだようだが、睦に「大丈夫?」聞き、睦が「大丈夫」と答えたあとは、しばらく沈黙が続いた。敦子の頬にキスした後

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体の中に耀る月 第三話「肚の中」

体の中に耀る月 第三話「肚の中」

第3話 「肚の中」

斑で不均一の粒から、白く柔い生物が体節をくねらせてモソモソと這い出してきた。明朝。眩しそうに身をこごめた幼体だが、慌ただしく塀を登り始める。背中に暖かい朝日を浴びて微睡み始める。彼は、その一生を歓喜の唄だけで終えらせる。

夏がきた。晴天の下、体育の授業だった。暑気は爽やかと感じられる程度だが、生徒は不満たらたらである。マラソンの授業で校舎の周りを三周走らなければならない。

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体の中に耀る月 第二話「脣」

体の中に耀る月 第二話「脣」

※このnoteは、所事情により予告なく削除する可能性があります。詳しくは第一話の但し書きをご覧ください。
 楽しんでいただけると嬉しいです。

第2話「脣」



暗がりの中に、音が響いていた。モーターと、冷却ファンの音。無機物の出す音には、秩序がある。途切れなく続いていたかと思って安心していると、ある日突然弱々しくなりこと切れる。苦しみも足掻きもない。

春(ハル)は、モニターをぼんやり眺め

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体の中に耀る月 第一話「腕」

体の中に耀る月 第一話「腕」

※約一週間に渡り、拙作全部を公開してみる試みです。(前回はぶつ切りの上にnote用のコラムめいたものの間に挟んで公開していたので、わけが分からなくなりました。ごめんなさい)
※素人につき、賞応募や管理優先のため、予告なく削除することがあります。

第1話「腕」



誰より、僕が傷だらけであることを、誰に知ってもらえば良いだろう。

睦(あつし)は、教師に指定されたページを正しく開いて、テキスト

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隣のネズミ-7

隣のネズミ-7

拙作短編「隣のネズミ」はこの回で終了です。
イイネで応援してくださった方、読んでくださった方、誠にありがとうございます。

創作を「晒す」のは、レスポンスをいただける可能性とを天秤にかければ安いものと考えつつも、けっこう恥ずかしいものなので、ほんのちょっとのお気持ちが全て励みになっています。

昭和産まれの人間より、今の人達の心が弱く幼いのは、どうしょうもない事なんだろうか。



 高瀬さんが

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隣のネズミ-6

隣のネズミ-6

 水島さんの隣人は、一体何を考えているのか?
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 隣に越してきた水島さんを初めて見たとき、地味な人だと思った。前髪をセンターで分けて、髪を一つに縛っている。小学生低学年くらいの男の子がいて、「大変だから」で、オシャレの優先順位が低いらしい。そういう人を見ると、子供好きながら自分の選択肢は正解だと再認識せざるを得ない。オシャレする間もなく、見た目から疲れてい

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隣のネズミ-5

隣のネズミ-5

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創作 小説 5話です
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それで二週間ほど、あの坂田さんに子どもを任せてみることにした。もしかしたら息子のことを、ある事ない事つぶやきに書かれるかもとは思ったけれど、自己イメージが大事らしい彼女は、クレーマー気質では無かった。その自己イメージの中に、「子供好き」というのがあって、多少のことがあっても息子に目くじらを立てることは無いだろう、と、甘く見ていた。

 知

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隣のネズミ-4

隣のネズミ-4

 私には、ある光景が脳裏にこびりついている。直観的にネズミを可哀想だと思ってしまう。祖父母の農家で、ネズミが殺されるところを見たことがあるのだ。トラウマというほど大したものではないが、寡黙な祖父が、上がり框にうろついていたネズミを叩き殺し、ささくれ立った無骨な手に、ハンカチ一枚だけを乗せ、お腹が破れて赤黒い内臓がはみ出ている死体をつまみ上げ、ぽいっとゴミ箱に捨てていたのだった。

 その頃、豚やウ

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隣のネズミ-3

隣のネズミ-3

7月、旦那の担当する巨額の融資がうまくいき、賞与とは別の報奨金が出たというので、ご馳走でも食べに行こうか、ということになった。あれ以来私は坂田さんを出来るだけ避けるようになった。けれど、意識とは別に、坂田さんと何らかの波長もとい生活リズムが合うらしく、近所のスーパーやマンションの度々出先でバッタリ会った。その頃はようやく新型ウイルスの流行による自粛ムードも収まりつつあり、せっかく満を持して久しぶり

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隣のネズミ-2

隣のネズミ-2

全7回の短編小説です。
隣人が嫌いで苦悩する主婦の話

もう少し、「坂田さん回顧」を続けてみることにした。



「へえ、なるほど」

と、夫は言った。

「だからね、いつからキライになったか、そういえばよく思い出せないなって」

「そういうこと、あるよね」

「・・・」

 夫は穏やかな性格で、私の話の腰を折ることはなく静かに聞いているが、どうも相槌が無難過ぎて、夫との会話それ自体が虚しく感じ

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隣のネズミ-1

隣のネズミ-1

(全7回短編小説、隣人に悩まされる女性の話 背景として現在の社会状況が一部反映されています)





 私の物語を、何もこんな冴えないところから始めなくても良いのではないか、とも思う。私と夫、それから発達障害の息子と三人の慎ましやかな生活。

 夫や小学生の息子の関心は、必ずしも家庭には向いていない。夫はそこそこ優しいが、やはり仕事が第一で、息子も不器用ながら学校生活を楽しんでいる。

 

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