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【短編小説】ホワイトデーに欲しいもの(真相)

2月7日。
「どうしたらいいのー!?」
私—友紀は過去最大級の難題にぶち当たっている。
「っとに初心だねぇ、あんたは。」
親友の美里が呆れたようにこっちを見て言う。
「そんなに好きならさっさと告ってしまえばいいのに。」
そう、私は初恋真っ最中だ。相手は蓮という幼馴染だ。
美里の言葉を思い描いてみる。
「む、無理無理!恥ずかしすぎて死んじゃう!」
私がそう叫ぶと美里はハァ、とため息をつく。
「...やっぱこれしかないかー。」
「え?なんか案あるの!?」
私が反応すると、美里は
「バレンタイン」
とボソッと呟いた。
「...え?」
私が硬直するのを一瞥すると、美里は立ち上がり、
「これ以上は言わない。後は自分で決めな。」
美里はそのままサッサと行ってしまった。

私は美里に言われたことをずっと考えていた。
もうあと1週間でバレンタインデーになる。もう腹をくくるしかない。

チョコづくりの練習で、あっという間に日が過ぎる。

「で、できた...」
2月13日の夜、ようやく納得のいくものが出来た。
綺麗にラッピングをして、冷蔵庫に入れて、自分の部屋へ向かう。

目が覚めたのは7時43分だった。
「やばっ遅刻する!」
飛び起きて昨日作ったチョコレートを鞄に入れ、家を飛び出す。

ギリギリで学校に間に合った。
朝のSTが終わった後、すぐに蓮のいる教室に向かう。
教室前で深呼吸。
「蓮おはよ~」
                                                                              「ん?おお友紀、おはよう」
私は事前に考えておいた言葉を頭の中で反芻する。
「今年こそはチョコもらえた?(笑)」
  聞きながら机の中を覗き込む。
「ふむ...そうか...」
「またもらえなかったんだな~。そんなかわいそうな君にプレゼントしてやろう~!」
そういいながら完成したチョコを渡す。
                                                                          「あ、ああ。ありがとう、。」
「ん~。じゃあね~」
教室を出て、ホッと安堵のため息をつく。
ちゃんと受け取ってもらえてよかった...。
「渡せたみたいだな」
「わっ!?」
急に美里が出てきた。
「親友の恋が進展して喜ばしいばかりだよ」
「そして頑張ったご褒美に新たに仕入れた情報を教えてやろう。」
そう言って美里は顔をグッと近づけて耳打ちした。
「...蓮には好きな人がいるらしいぞ?」
「ちょっと!今それ一番聞きたくないよ!相手は誰!?」
思わず大きな声を出してしまった私に向かって美里はニヒルに笑って言う。
「聞きたくないんじゃないのかい?」
「うう...」
美里は笑みを深め、去っていった。
意地悪な奴だ。

                                                            『チョコおいしかったよ。ありがとう』
LINEでそんなことが送られてきた。
よかったー、と返信してスマホを投げ出す。
これで第一関門はクリアだ。
後は蓮がどう反応してくれるか...。

3月9日。
これまで何の音沙汰もない。美里は何を聞いてもきちんと答えてくれない。
放課後。日直の仕事で1人教室に残り、掃除をする。

                                                                                     「ちょっと失礼するぞ」
蓮が教室に入ってきた。
「あ、蓮じゃん。どうしたの?」
心臓はバクバクだけど、何でもないように聞く。声裏返ってないかな。
                                                                                                    「なあ、友紀」
「うん?」
                                                        「バレンタインのお返し、なにがいい?」
一瞬、思考停止した。
「え~何でもいいよ~」
                                         「それが分からないんだよ、頼む、教えてくれ!」
本当は蓮に決めてほしい。でも、私が喜ぶことを考えてくれることが嬉しかった。自分の気持ちが、好きでいっぱいになるのが分かる。
「ん~、じゃあ...」
距離を詰めて、顔を近づけて...
                                                    ♥ チュッ ♥
                                                                「は、え、え?」
戸惑っている蓮に笑いながら問いかける。
「私がなんでチョコあげたと思う?」
その一言で蓮は黙った。ちょっと気まずくて、とりあえず言葉を続ける。
「はい、何か言う事ー!」
                                                    「...俺と、付き合ってください...」
その言葉で今度は私が戸惑った。でも余裕をかまして、
「私でよければ、喜んで。」

その後、一旦離れた。
告白する方向に誘導してしまった。蓮の気持ちを無視して差し向けるなんてなんてことをしてしまったんだろう...。
「おい、友紀」
「わぁ!?」
相変わらず、美里は神出鬼没だ。
「いやぁ、成就してよかったじゃないか~。」
どうやらさっきのは全部見ていたらしい。
「よくないよ!誘導尋問みたいなものじゃん!」
ニヤニヤしていた美里が不思議そうな顔をする。
「ん?あんた、蓮が誰を好きなのか知らないのか?」
「聞いても教えてくれなかったんでしょ!」
思わず突っ込んでしまった。
「そうかそうか...。なら教えてやろう。蓮が好きだったのは他でもない...」
ここでビシッと人差し指を向けてきた。
「あんただよ。」

こんなに幸せな気持ちになったのは生まれて初めてだった。

この幸せがいつまでも続くことを祈ろう。

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