深夜日記:生声実況

 最近、落ち着いた声のゲーム実況を見ることが多くなった。夜の散歩や編集のときに、深夜ラジオの代わりに聞く。落ち着いた声が乾いた脳みそに染み込んでいくみたいで、自分には合っている。踏み入れたことのない道をゲーム実況と共に開拓する楽しみは、私の数少ない深夜の楽しみになった。

 私は最初こういう落ち着いた生声実況者になりたかった。今でこそゆっくり実況をしているが、初投稿の動画は生声だったし(今となっては黒歴史)、実況者を始めたきっかけの中に当然生声実況は含まれてる。しかし現実というのは残酷なもので、私には悲しいことに生声の才能がなかった。

 というのも、私は脳内の自分に話しかけるクセがこびりついており、口に出さずに脳内で会話が完結してしまう。俗に言う「何考えてるかわからない」ヤツだ。それをリアルに出力しようとするととんでもなく疲れてしまう。会話をしようとしても、話し相手がリアルじゃなく自分自身に向いてしまうので、うまく会話がかみ合わない。これも学校でうまくなじめなかった弊害なので全ては学校が悪い。うん。そうしたほうが心の健康的に良さそう。

 がんばって口に出して喋ろうと試みたこともあったが、私はエンジンが温まるのに時間がかかるタイプで、話し始めて一時間くらい経過すると、突如フルスピードでまくしたてる。とことん長距離型。しかもそのエンジンも古く、かかるかどうかは運次第。なので数分で見定められる世間話とか雑談と私はとことん合わなかった。考えることは今後のYouTubeとか作りたい映像とかシステムとか哲学が多く、薬膳料理みたいなもの。ジャンクフード的に視聴者に気軽に話すようなものは少ない。スーッとしみこむけど何だこれ、うっすみたいな感じ。

  しかし、この世界には数時間ずっと面白くしゃべり続けられる人がごまんといる。ハイテンションで爆笑をかっさらい、どんな人とも気軽に絡める。私からすると宇宙人だ。しかも厄介なことに私と同じような擬態をして近づいてくる。「私陰キャなんです~」とか配信で言ってるVtuberを見ると殴りたくなる。なんだよそれ。ふざけんなよ。喋れてる時点で陰キャじゃないじゃん。お前は画面に向かって喋れてるし、それで視聴者が笑って満足してるじゃないか。何話そうかわからなくて「好きなプロレスのシーン」の話をしてドン引かれた私と同じくくりにすんなよ。

  ふと「生声実況」の思いも捨てられずやってみたこともあった。だが結果は散々。黒歴史として闇に葬りたいくらいの出来だった。ネットで「声のトーンをあげてハイテンションでいくと楽しんでもらいやすい」とあってやってみたこともあった。けど私がヘバってしまった。空元気は短期的には良いが、それがキャラになると精神がねじれてしまう。

 だからこそ、私は「生声実況者」に最大の敬意を払っている。喋り一本で視聴者と戦う姿に。自分をさらけ出してでも楽しんでもらおうとする精神に。そして何よりも楽しんでいる精神に。

 この文章もウンウンうなりながら家のキーボードで打ち込んで書いているのだが、実況者だとスマホの音声入力でパパッと済ます人もいるのだろうか。最近友人で打つのが面倒だから全部音声入力してると言うのも聞いた。もしかしたらキーボードでカタカタタイピングするのはもう時代遅れで、もはや音声入力の方がスタンダードなのかもしれない。

 せっかくなので、私も音声入力で書いてみようと思った。

 スマホのメモ帳を起動し、音声入力のボタンを押すと声に合わせて波形が動く。これだ。これが私の求めてたスタイルだ。

これなら私もいける。

このマイクのボタンから、私の新たな一歩が始まるのだ。


 って思ったけど、10分経っても「あの~」くらいしか出なかった。

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