見出し画像

「ときめき」/ショートストーリー



「ねえ、全然理解できないんだけど。」
「離婚したい理由がはっきりしていない。」
言えば、きっと驚くと思う。

「理由もそうだけど、離婚してこの家から出てほしいって、何?」
そこをうまく伝えられる自信がない。

「不倫とかお互い、ないと思うし。」
いっそ不倫なら、良かったのかもしれない。

「お金のことでもないよね。共働きで、お互いの財布が別々でもやっていけるぐらいの収入。」
そう。お金じゃない。

「セックスレスだから。」
そこも関係するのかな。よくわからない。

「ずっと、黙っているけど。それでは先に進めない話なんだけど。」

おうち時間なんてもが、なかったら一生気づかなかったのかな。
この際だからと、リモートワークの日々普段できなかった断捨離をする、片づけることがなかったら、こんなことにはならなかったのかもしれないのかな。頭がぐるぐるし始めた。

「本当にいつまで黙っているわけ?」
想定内の、当たり前の反応だ。だけど、答えようがない。逆だったら、こんなに冷静に対応できるか自信はない。

「今日はもう無理。きちんと説明できるようになったら、話し合うことだと思う。」
半分泣き顔だ。罪悪感しかない。
説明しても、多分すぐには理解できないと思う。

家の片づけでものを捨てるか、捨てないかの基準を決めてどんどん片づけて
床やらピカピカに磨いて家具とかのインテリアも好みに合わせてチェンジしたら、二人とも気持ちよく幸せになるのだと思っていた。

いろんな雑誌で断捨離とか片づけというものが特集されていた頃、そこで目に飛び込んだのは「捨てる基準を決めましょう。決めたら実行して幸せになりましょう。」だった。

僕は「ときめき」を基準に決めたのだ。

断捨離が進み、二人の家は素敵な心地よい家になり、僕は満たされていった。

だから、久しぶりに君の手を握ったら全然ときめかないので、頭の中に?マークがいっぱい表示されてしまった。

そんな自分の反応に心底驚いて、愛犬のしーちゃんの頭をなでて確認したぐらいだ。しーちゃんにはときめくになぜかと正直、絶望さえした。

ときめかないなら、片づける。君はいつの間にかこの家にはいらないものになってしまったので、申し訳ないけど離婚してこの僕の心地よい家からでていってほしい。この説明を聞いて君は納得できるのだろうか?

二人の共通の親友にだけ、相談したら真剣に誠実に話しを聞いてくれた。カウンセラーを紹介してくれたり、リモートワークについてアドバイスもくれたのだけれど、僕の気持ちが変わらないと知ると彼女は怒った顔で言った。

「あなたって頭がおかしいのよ。だれも理解できないわよ。」
それっきり、連絡関係はブロックされてしまった。

やはり、僕が馬鹿なんだろう。きっと、頭がおかしいのだろう。僕は君のことは好きだだから傷ついては欲しくないと心から思っている。

好きだけど、ときめかない。ごめんね。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?