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精油ものがたり~序章~

私は東京の下町に生まれ育ちました。
町工場がひしめく地域でしたが、家々の軒先に植えられた木々や草花、そこからほのかに漂う香りに季節の移り変わりを感じたものでした。
春の訪れを告げる沈丁花の香り、道端にはタンポポやドクダミが咲き、夏には朝顔がにぎやかに顔を出し、秋には金木犀が香る…。

子供の頃は、風邪をひけばくず湯を飲まされ、夏にはあせも予防の枇杷の葉風呂、火傷や切り傷にはアロエをべたッと張られる…そんな思い出があります。昭和30年頃は、東京の下町でも薬草が身近にあり、普通に民間療法で利用されていました。時代は高度成長期となり病気の治療は西洋医学が主流となり、民間療法は少しづつ色あせていったように感じます。

そんな時代の移り変わりも、植物たちはずっと同じ場所で人間たちの営みをみてきました。

動物たちと違い、移動せずに生きる道を選んだ植物は、生育環境に応じて生きる知恵や能力を身に着けてきました。その中でも香りは子孫を残すため、また害虫や害獣から自身を守るために、身に着けた特別な能力なのです。

その香りに含まれる様々な化学成分が、複雑に混ざり合った有効成分を利用した療法が芳香療法(アロマセラピー)です。芳香療法に使用される精油(エッセンシャルオイル)は、私たちの心や脳、身体に直接働きかけ、癒しの効果を発揮してくれます。

植物には精霊が宿っている…そんな話を聞いたことはありませんか?
沖縄ではガジュマルにはキジムナーという精霊が宿っていると言い伝えられています。

そんな精霊たちが、精油の一滴一滴に不思議な力を与え、私たちの内なる霊域にも働きかけてくれるのではないか…と思うことがあります。

これから少しづつではありますが、比較的入手しやすい精油にスポットをあてて、心へのアプローチを中心に、植物がもつスピリチュアルな世界や物語を綴っていこうと思っています。

最後にネイティブアメリカンの植物学者、ロビン・ウォール・キマラーさんの著書「植物と叡智の守り人」の序文をご紹介したいと思います。

両手を出してくれたらその上に、摘んだばかりの、洗い立ての髪のようにさらさらしたスィートグラスを乗せてあげよう。~中略~ その束を鼻に近づけてごらん。川の水と黒い土の香りの上に、ハチミツを垂らしたバニラが重なった香りを嗅げば、その学名が納得できるはず……「芳醇な、聖なる草」を意味するHiero-chloe odorataという学名が。~中略~ その香りを吸い込めば、忘れてしまっていたことさえ知らなかった、数々の思い出が蘇ることだろう。

植物と叡智の守り人
ロビン・ウォール・キマラー著
三木直子訳 築地書館



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