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理想のハーレムもの


 神のみぞ知るセカイを読了。終始先が気になる展開で面白かった。やっぱり主人公が策士だと物語は面白くなるな。
この作品は今まで履修してきたハーレムものの中で最も理想的な作品だと思う。その理由は主に2つある。

 1つ目は主人公が非常に魅力的であることだ。まず大前提としてビジュが良い。でなきゃ最初の10巻全部(ビジュアルという点では9巻を除く)表紙イラストになったりしてないし。それでいて性格もさっぱりしていて、ギャルゲーマーとしてのプライドを失うことがない。軸にブレがない人間というのは現実になかなかいないからこそ、一本筋の通ったキャラが魅力的に映る。さらには、駆け魂退治をあくまで攻略と言いながら、彼はヒロイン一人一人に対して誠実で、愛情を持ち続けた。それはゲーマーの矜持でもあろうが、紛れもなく彼の人格だ。こういったとことん隙のないキャラだからこそ、ハーレムの説得力、というか納得力が増す。

 2つ目は、ハーレムがハーレムであることにきちんとした理由づけがあることだ。世にあるハーレムものの多くは、主人公に恋をしたヒロインが集まり、自然とハーレムが形成されていくが、この作品はそもそもの前提が違う。主人公は、ハーレムを作らなければならない状況に置かれているのだ。しかし、主人公はその状況を過度に悲観することも喜ぶこともなく、職人のように「落とし神」のプライドを貫き続ける。そうして芸術的なまでに完成された“エンディング”までのプロセスは毎回毎回ロジカルで、恋愛にしっかり説得力をつけることができている。恋は本能でするものとかはよく聞くけど、それは現実世界の話であって、フィクションでは理由がつくことで物語の観測者たる我々はヒロインの恋心に感情移入できて、物語に入っていくことができるのだ。

 思うに、ハーレムものに必要なのは、徹頭徹尾、説得力なのだ。よくあるハーレムものだと、だいたい「なんでこんなやつがモテてるの?」「なんでこんなやつをヒロインは好きになるの?」という疑問を抱くことが多い。そうなると、途端に物語が色褪せて見えるものだ。しょうもない男に群がる見る目のない女たちを、一体誰が見たいというのだろう。だから、まず第一にハーレムものが名作となるためには主人公が魅力的でなければいけない。そうでなければヒロインもろとも物語世界は輝きを失うのだ。

 しかし、主人公の魅力だけでは説得力を補強しきれない部分もある。人によって好みや思想があるだろうから、そこが主人公と合わなければ作品は魅力的になりえない。そういった一般的なハーレムものがぶつかってしまう壁を壊したのが神のみだ。そもそもヒロインを恋に落とすのが目的、落とさなければ死という条件なのだから、恋心に説得力が出るのは当たり前だ。そうすることで、たとえ主人公に魅入られなくとも、物語に没入することができる。そういった点で、この作品はハーレムものの隙間を埋めた、革新的なものだと思う。物語の中で桂木桂馬がエンディングへの最適解を求めたように、神のみぞ知るセカイという作品もまた、ハーレムものの最適解を求めたのだ。

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