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スネークオペレーター〜特別諜報捜査官〜#5

前回までのあらすじ
 
ヤクザ時代の叔父貴分矢崎の経営する晴海運送に初出勤。大型トレーラーの運転に戸惑う元ヤクザのヤス。負けず嫌いのヤスは難しいトレーラーの運転をこなしていく。変わった同僚とも少しずつ打ち解けていく。そんな中でも合宿免許で知り合った今井ミミが気になって仕方ない。1日も早く仕事に慣れ自由時間が欲しいと願うヤス。そんな中、日本最大級の暴力団極桜組に帰参した花田誠は抗争を終結させた首謀者であるにも拘らずイライラしている事は知らない。


〈第二章〉
 
東京都港区麻布十番にある韓国焼肉屋である。
神戸極桜組組長木下雅也を暗殺させ、8年をも続いた抗争を終結させた首謀者である花田誠は現在、神戸極桜組から帰参してヒットマンを飛ばし、抗争を終結させたにも拘わらず、あれから一年まだ若頭補佐率いる桜生会の舎弟頭から動きがない。やはり組内でもカメレオンみたいに寝返っているために昇格人事に様子をみようと言うふしがあるのだろう。花田誠は、極桜組を割って神戸に行く前は極桜組の若頭補佐で長きに渡り、東京都内でシノギを削り政界財界芸能界などを掌握し、最近では海外進出にまで手が伸びている。花田自身も一年を経て、本体執行部が知らん顔をしているのが面白くないのである。

「くそー、何にもできなかった癖にこの仕打ちはなんだ?最近は堅気の方が根性あるわ!拳銃作ったり、火薬作ったり、名前だけのヤクザか?なぁ詩織そう思わないか?」

友禅の着物を慣れた着こなしで身につけた詩織は花田の情婦になって長く銀座で2店舗も大箱の高級クラブを経営するオーナーママだ。もちろん元金は花田のシノギからの貢物であるが。まだ30そこそこである。

「まぁ、パパ。そんな怒んないで。恐い顔が一段と恐くなる。今は辛抱時じゃないの?」

と花田の腕に手を回し、胸をツンツン押し付けて言うと、花田も

「詩織がそう言うんだったら、そうかもね。もう少し辛抱したら一気に答えが出るかも知れんなー」

と花田は着物の胸の間から手を入れ笑顔を見せた。

「あー、ん、もう、さっきしたばかりじゃない。着崩れするしぃ、もう。」

と言いながら、まんざらでもない。タイミング良く、フロア担当の焼肉屋の従業員がカシスソーダのおかわりを持って来た。花田を手で払って

「ありがとう!」

と、それを受け取る。

「詩織!もう一発花火を上げるからなー!!何でも欲しいもの買ってやるぞー!」

と花田が言うと、詩織は、

「欲しいものなんか、もう、無いわー、どっかリゾート地に飽きるまで居たいわー。」

と詩織は言いながら身支度をして、そろそろ行きましょうと促す。出勤の時間だ。

「そんな時間か、わかったわかった。」

と言いながら、入口で待機している若い衆に合図すると、インカムで高級ミニバンが店の入口に横付けする。花田が先に乗って、詩織がその後を付け後部座席のドアを締めてスタートした。入口にいた若い衆は助手席に既に乗っている。

「詩織、今日はいけないけど、店まで送るからいいだろう?」

と花田。

「あら、それじゃあタクシーで行ったのに。本部長とか迷惑かけるわ・・・。」

と詩織は言った。

「いえ、そんな事はありません姐さん!」

と助手席の男が本部長だと分かる。

「ん、もう、そういうの最初から言ってね。お客さんの同伴の約束何人でもいるんだから・・・。」

少しキレ気味の詩織。

「まぁ、そう言うなよー。」

と言うと、日比谷通りあたりで信号に止まり、

「帰りは迎えは大丈夫か?」

と機嫌を取りながら、カバンからスマホを取ろうと前屈ぎみになった時に左側道にいつの間にか、大型スクーターが止まっていたかと思ったら、拳銃で後部座席を撃って来た。

突然のことだったが、運転手はヒットマンと疑う余地はなく信号無視をして逃げる。だが、スクーターは左折し、慈恵医大の方向へ逃げて行った。それを確認すると、高級ミニバンを左に寄せ停止、後部座席を開けると、花田は背中を弾がかすっただけだが、手前の詩織は肩と頭を撃ち抜かれて即死していた。

「詩織ーーっ!!」

と言ったっきり、

「う〜っ」

と、低く泣き出し本部長に

「とりあえず、救急車と警察に電話しろ。あと、野次馬を追い払え!」

と言うと、花田は着ているスーツを脱いで、詩織に掛ける。たまたま前屈みになってなかったら花田も一緒にやられていた。当然、花田を狙ったものだろうが、スモークガラスで右に乗っているか、左か分からなかったのだろう。花田は考えた。

誰が自分を狙ったんだ?

狙うんだったら、身内しかいないと思うが。一体どこの組なんだ?
俺が誰に何をしたか、良く考えても思い当たらない・・・。そう考えると、皆んな敵に見える。誰なんだ・・・。


晴海運送に入社して2週間が過ぎようとしている。今日は矢﨑ではなく、希江ちゃんが助手席に乗って朝から

「おはようございます。出発してください」

以外は言葉を発していない。
今日も乙仲〝三協〟の当配と言って当日配達で通るルートである。
当日配達とは、その日の朝に実入り(コンテナの中に何か入っているコンテナをいう)コンテナを、有明でシャーシを連結して大井2号ヤードに取りに行き、そのまま直接配達先に持って行く。コンテナの中身を全部下ろしてもらい、空になったコンテナを大井2号ヤードに返して終わりと、海上コンテナ輸送の仕事の中では一番簡単な仕事だ。有明でシャーシを連結して出発する時に

「内藤さん、上手くなったわねぇー。運転は問題ないみたい。あとは、ヤードとバンプール、配達先を覚えるだけね。」

と笑顔で返されたが、ヤードは何回か矢﨑が入ったことがあったが、バンプール?とか配達先が何とも・・・。と思いながら、希江ちゃんに

「覚えること多すぎっすね。この仕事。」

と軽く言うと、大きな目をさらに大きくして、

「何言ってるの?まだ10分の1も覚えてないよ。社長っは、内藤さん他の人より覚え早いから、運転ができるようになったら、あとは、一人で地図渡して人に聞きながらやらせろって言われてます。ということで、今日で同乗は終わりとなり、明日から一人立ちしてもらいます。分かりましたか?」

えー!まじか!と思いながら、希江ちゃんを見ると、

「大丈夫、私が分かり易く作った全ヤード、全バンプールと、良く行く配達先を見取り図から住所から、備考に対応の仕方まで書いてありますから恐がる事はありません。あっ、書いてある地図以外を走ろうと横付けすると、大型進入禁止だったり、通れなかったり、はたまた高さ制限があってスーパーロングバックを余儀なくされますからご注意くださいね。事務所で今日渡しますね。」

うわー、まじかー。心細いなー。本当恐いって感じだわ。でも元気良く、

「はい、大丈夫です。何とかがんばります!」

「これまで、会社や警察に助けを求めた人も少ないので、社長に笑われないよう注意した方が良いです。分からなかったら私に電話下さい。」

「了解しました。でも、今の所はバックに苦労するだけで問題ないです。」

「余裕が出てくるとヤードの人たちと一度はやり合うことになると思いますが、内藤さんは大丈夫そうだから、本当あとはバックですね。何回でもいんで無理しないでね。切り返しをして当てないように安全にお願いします。」

と話していると、大井2号車ヤードでコンテナテナーからスピーカーで

「希江ちゃん、今日は新人さんかの教官かい?いつも綺麗だね。」

って、どっから聞こえてきたのか分からずキョロキョロしてると、希江ちゃんが

「上よ!今、コンテナ載せたテナー(上に運転席があるコンテナ用のクレーン)よ。足ばっかり見るから新人教育のときはパンツスタイルよ。」

と言いながら、中指立てて窓の外に出す。

「昔みたいに上がってきてサービスしてくれよ。がんばれよ!」

と訳わかんないこと言って去って行った。

「さぁ、コンテナチェック0UTゲート行って、ツイストロックしてないからゆっくりね。」

と言われ、車を出してコンテナチェック0UTゲートへ向かう。

「さっき、あいつ昔みたいに・・・云々って言ってたけど、何ですか?」

「あー、昔乗ってた時に、女子がドライバーと思って意地悪するの。〝デッコ〟って言って、コンテナをドスンってびっくりするくらい急に落とすように載せたりしたから、怒ってテナーのコンテナ用のクレーン運転手までタイヤれんち持って上がって行ったことがあるの」

笑いながら希江ちゃんが言った。

「なんか、それが広がって誇張したのよ・・・。実際はビクビクしてあっちが〝すいませんせんでした〟って謝ってきたんだけどね。」

と話しているうちにコンテナチェック0UTゲートのVANチェックだ。何人かの男がコンテナを見回したり、後ろの観音扉の封印であるシールの確認している。ここでも希江ちゃんは有名らしく男たちと話していた。E・I・R(このコンテナの車検証みたいなもの)を受け取ると、

「ツイストロックのやり方は、もう社長に教わっていると思うから、ここでは必ずEIRを見て、ダメージチェックをあの子らが書くからそれを確認すること。」

と言って、EIRを持って

「ほら、ここに〝✖️〟と書いてあるでしょう。これはここがへこんでいると言うと証拠。レンタカー借りたことあるでしょう。あれと一緒で、中身を下ろして空コンテナで帰ってきた時、状態が一緒か確認するのよ。」

加えて、

「ぶつかっちゃったりしたら、すぐばれちゃうわ」

とも言っていた。なるほど・・・と思いながら、OUTゲートを出て今日はこのコンテナを茂原に持って行く。(運ぶ)

「この前、社長と行ったと思うけど、覚えてる?」

と希江ちゃん。

「何となく・・・。16号線をひたすら千葉方面に走って行ったような。」

「分からなかった。これ、大型用のカーナビが一応あるけど、茂原の現場はナビなんか要らないはずよ。国道沿い出し・・・。入口も広いし、中も広いから、初心者向けね。」

と言い続けて、

「私を会社で降ろして行って、今日から一人よ。」

会社の向かい側にコンビニがある。そこで降ろしてくれと言う。道が広いから余裕だが、これから一人は心細い。

「それじゃー、気をつけて!現着、出発(デッパツ)は無線か端末に入力して下さいね。」

と言って、横断歩道が青だったので走って会社へ帰って行った。まぁ、いつかは一人でやらなきゃならないし、でも早くね・・・。社長もいつも俺は誰からも教えてもらえなかったーとか。そんなことあるんだろうか。でも、このボルボさすが高級車だけあって、中は広いわ運転しやすいわって言っても他の運転してないけど、そう思うってことは、やっぱ高級車なんだろう・・・。
確かにその道の普通乗用車より格段に乗りやすいのは事実。ただ、後ろにこんなデカい箱が着いてるから考えて走らないとなー。とブツブツ呟きながらFMラジオでも流し茂原へ向かう。もう2回くらい行ったので、大丈夫とは思う。手の汗が乾かないから、首から巻いてるタオルで何回も拭く。快適に走るとスマホが鳴り出した。ボルボとブルートゥースで繋がってるので、ハンドルのボタンで着信できる。
スマホを見ると舎弟分の守。

〝早川守〟

と表示されていた。ん、珍しいなと思いながら、着信を受ける。

「もしもし、兄貴っすか。お久しぶりです。」

と守。守は、六本木で風俗のキャッチをやってるボス格だ。もう23才くらいではなかったか?

「おう、守。久々じゃねーか。俺のこと忘れるほど儲かっているのか?」

とヤス。

「いやー、そっちの方はボチボチです。それはそうと兄貴、花田の野郎、ヒットマンに撃たれたの聞きました?」

と守が言う。

「えっ!!何だよそれ。守、花田の野郎って言うけど、元俺の親父だぞ。他に言い方無かったのか?で、容態は?」

とヤスが機嫌悪そうに言う。

「あ、すいません。んーっと花田さんは無事ですか、詩織さんが殺されちゃいました。」

と守は、殺された時の様子や現場の場所、様子などを伝える。

「詩織がか・・・。でも誰が狙うんだ?真っ先に疑われるのは俺じゃねーか?でも、堅気にこうしてなってるし、組織どうしならどこだろう?」

守が声をひそめて言う。

「兄貴、最近きな臭い話がありまして・・・。」

信号待ちからスタートしながら、スピーカーマイクで

「お前、誰がやったか知ってんのか?」

と守に聞いてみた。守は、

「いや、それは分かりませんがね。兄貴は最近歌舞伎町や六本木、銀座でもキャバ嬢たちの間でコカインが流行ってるの知ってます?」

んーっと唸った声を出して

「最近出てないから知らねーなー。」

とヤスが言うと守が間髪入れず

「そうなんですよ、昔は、Sとかアイスとか言ってシャブを炙って吸ったり、あそこに塗って遊んだりとか流行ってたけど、今じゃコカインなんですよー。昔はコカインって言ったら高くて手が出なかった。シャブみたいに副作用があんまり無いみたいで最近シャブと同じくらいの値段で売ってるらしいんです。キャバクラ行ったら必ず一人は鼻の穴の回白くなってる女が居るって聞くくらい流行っている。で、そのコカインの元締めが花田の野郎、あ、いや花田さんって噂なんです。」

と一息話してヤスの様子を見る守。

「ということは、敵はシノギの邪魔をされてる奴らということか。」

守はそう考えて間違いないと言ういうことを話した。ヤスは守に

「じゃあ、シャブ売ってるとこ全部敵になる。関東の組織どころか関西も居ると思うけど、関西はシャブは御法度なんで、関東か?・・・でも木下の親分の暗殺でカメレオンみたいに行ったり来たりを良く思っていない西の極桜組も一年以上も花田の親父を昇格させてない。これもおかしな話だと思わねぇか。守はどう思う?」

と守に問うと、面白い返事が返ってきた。

「これは噂なんですがね。8年の抗争を一気に花田さんが片付けてとりあえず抗争は終結しましたけど、西の極桜組の執行部は知っての通り、その間、関東の組織から九州や全国の組織と仲良しこよしの行脚しましたよね。多分、全国共存共栄を目指して、みんな老体に鞭を打ってアピールしたんですよ。木下に見せるように。でもそれを何の連絡もせず、まぁ連絡なんか要らないかもしれませんが、空気を読めって話ですよ。まぁ、どんな形でも抗争は終結しました。そこまでは良しとしても、その上、コカインですから極桜組も顔が無いでしょう。なので、俺は身内の極桜組がこれ以上、アイツに暴れて欲しく無いんじゃ無いかと思うんですが、どう思います?兄貴は・・・。」

なるほど・・・。

守はヤクザでも無いのにそのあたりの筋は知っている。確かにそれはあるが、誰しも今のヤクザじゃ食っていけないので新しいシノギを考えて、組に上納する。生き残りゲームだ。なのに、あの全国組織の挨拶行脚はかえってシノギの足枷になっているような気もしなくない。まぁ一度、どのくらいコカインが蔓延しているか六本木に偵察に行って、本当に花田氏が元締めなのか突き止めないと・・・。しかし、そのコカインどうやってどこから仕入れてるんだろう。まずそこも探らないとだ。何とか、茂原に到着した。

また、何かあったら連絡してくれと電話を切った。
受付に行くと3番ホームに付けてくれ出番は昼からになるよー!
と言われたので、右バックでバックも切り替えしたが言われる通りにつけることができた。デバン(中身を出すこと)を待つことに・・・。

もう昼頃なので、近くのうどん屋さんへ行く。この前社長がここのうどんは美味いんだと言っていた。入ったら、ほぼ満員だったが半分ぐらいは柄の悪い手首から刺青が出てたり、目つきが悪かった。ヤスもチラ見されたが、見えてないフリをしながらカウンターで天ぷらうどんを食べた。
食べ終わって外に出たら喫煙所と言うか灰皿を置いてあったので何人かタバコや加熱式タバコを嗜んでいた。ヤスもポケットから加熱式タバコを出して吸い始める。後から出てきた奴らも加熱式タバコを手にこっちへ近づいて来た。さっきの柄の悪そうな奴らだ。
無言で加熱式タバコを吸いながら、気まずい空気が漂う。
何だろうか、この違和感と言うか・・・。考えてみた。
奴ら4人以外は作業服を着ている。もちろん俺も作業服だ。4人はブランドのデニムや時計、服まで全てハイブランドで倉庫にいるような奴らではない。この辺にそんなこいつらが来るような事務所とか全くない。違和感だらけだが聞くわけにもいかず、ボルボトレーラーまで戻って来た。
まだ、コンテナの扉が開いてないので、作業も始まっていない。
スマホチェックだ。最近は知らないメールやラインがたくさん入っている。アダルトサイトの広告だったり、ラインは知らない奴からの友達承認を募るアダルト広告だろうと思う知らないアイコンなので、すぐブロックする。たまに、電話番号で知ってる奴からラインで承認だったりするけど、承認は本人の目の前でやるか、事前に申し合わせた奴としか承認しないことにしている。
今日もミミからラインが来ている。あれから時間があるとミミとラインをしたり、ライン電話で話をする。たまには、ミミからラインのテレビ電話で掛かって来ることもある。可愛いので相手することにしている。近々、会う約束をしている。その日の為に仕事を頑張っているような日々だ。

ガチャガチャっと音がしてコンテナの扉が開くのがバックミラーで見えた。作業服を着た男がフォークリフトのエンジンをかけて作業を始めた。30分もかからずにデバンが完了した。さっきの作業員がわざわざ運転席まで受領書をEIRを持って来てくれた。

ありがとうございます・・・

と挨拶すると

「あれ、今日は社長は一緒じゃないんだ?!とうとう一人立ちだね、おめでとう。でもここの倉庫は広いからバックは簡単でいいじゃん。頑張ってね。」

と笑顔で激励された。

「よろしくお願いします。」

と言いながら、ドアを開けコンテナの中の確認と扉を閉めるのは、俺の仕事だ。コンテナの中に入る必要はなく空になったことだけ確認して革手袋をして手荒に扉を閉める。結構力が要るがこれも要領だと言う。閉められない時もあった。その時はハンマーを持って来て閉めたり、諦めてロープで会社まで行って誰かに閉めてもらったり、ロープで閉めたまま返却したこともあった。今日は大丈夫だ。時計を見るまでもなく、この時間から空バン返却(コンテナのことをバンともいう)して、18時くらいには帰宅できそうだ。

自宅もだいぶ片付いて、生活用品も全て揃って、快適な生活ができている。テレビはあんまり見ないが、テレビにインターネットの動画や映画が見れるチャンネルが付いているので、Netflixや映画サイトでゆっくり楽しめる。だが、一回見始めると次から次へと続きを見たくなるので厄介だ。最近はわざとテレビは電源を入れないようにしている。会社に帰るとやはり俺が一番乗りで皆んなに悪い気がする。点呼の時、希江ちゃんに

「早かったですね。茂原だとバックは2〜3回くらいでしたか?」

「はい、3回くらいでした。」

とヤス。

「凄いじゃ無いですか!新人の人ってあそこでも10回くらいかかる人がいるのに・・・。」

と希江ちゃんは言いながら、続いて

「明日は内藤さんの扱うコンテナ、税関の抜き打ちのレントゲン検査になっていて、今日みたいにヤードからコンテナ取れたら、ここに寄って検査受けて茂原行ってください。たまに当たる人ですよ。レントゲン検査。勉強して来たらいいわ。コンテナの中が外からスキャンされて中が見えるんです。何か不正な物が入ってないか見るところがあります。」

と言いながら、事前に各運送会社に配布されている地図と進入経路が書いてある書類を渡される。
 
「東京国税局通関レントゲン場」

「へぇー、そんな事するんですね。EURに中身書いてあるだけで、船から下ろされてそれをヤードから俺らが出しているからシール(封印)を開けるのかと思っていたら、開けずに荷主まで持っていくので不思議と思っていたんです。」

とヤスが言うと、希江ちゃんが

「日本で中身を税関が開けていちいち確認してたら大変なことになっちゃうので、中身は積み込み先を信用しているのは逆に輸出だって積む方にお任せだから、何でも入れて封印しちゃえば外国に持って出せるってこと。よっぽど、悪いことしない限りはバレないわ。でも、こうして抜き打ちにレントゲンあるの。」

なるほど・・・積み込み任せか。
ヤードの人間に聞いた話だと、現在、コンテナの数に対して運送会社(海上コンテナ専門の事業者)が足りないらしい。運ぶ会社が少ないのにヤードに山ほどコンテナが置いてあるけど、船から降ろして1週間はヤード内に置いとくのは無料だけど、8日目からは1日1個3〜4,000円置き場所代金を取られるらしい。それをデマレージと言って、長く置いてあるコンテナをヤードから早く出せないのは、運送会社まで手配から中身の置き場所など全てが揃わないとヤードで止まってしまって、デマレージを課金されることになる。海上コンテナは色んなメリットもあればデメリットもある。それはまたおいおいお話することにしよう。
 
翌日、いつもの時間に会社に着き、まだ薄暗い朝焼けが見えて来た。
サニトラをアイドリングにして、ブルートゥースで繋いだオーディオからR&Bの音楽が流れている。まだ5時間前なので、しばらくYahooニュースやSNSをサーっとネットサーフィンする。ラインでいつも5時くらいにミミに朝の挨拶を送っとくと、起きたころに返信がある。昨夜もスピーカーホンにして家の片付けをしながら話していたのに、いくら話たって話足りないお互いが言う。さぁ、そろそろ点呼に行こうかなと加熱式タバコを灰皿に捨てようとした時、ブルートゥースに繋いだオーディオが一旦止まり、着信音が鳴り出した。
あれ?誰だ?

と思ってスマホを見るとミミからだった。
えっ、こんな時間に起きていたんだぁと思い電話をオンにする。

「おはよう。もう会社?今少しだけ話してもいい?」

ミミが俺が仕事と分かってて直接電話掛けてくるのは珍しい。何かあったのか心配する。

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