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じっくり解説! 共通テスト初年度第二日程小説(1)~大学受験国語コラム12月

まずは前半設問から


’** 0 はじめに ***

今回から、共通テスト初年度(2021年度、コロナ禍のさなか行われた)の小説を取り上げます。この年は二つの日程が設けられていましたが、第二日程の問題「サキの忘れ物」です。まずは前半の典型問題の解説から入ります。なお、問一の語句問題は省略します。

’** 1 問二 ***

傍線部Aのときの主人公・千春の状況や心情を答える問題です。答えは②。解説は本文と正解との比較に留めます。

状況=主人公・千春は高校中退。アルバイト先の喫茶店で常連の女性と話している。千春はその女性と会話しているが、千春にとって客と話すのは初めてのことだった。

出来事、きっかけ=
本文:女の人の「それは幸せですねえ」という言葉
選択肢②:女の人が自然な様子で千春の境遇を幸せだと言った

認識=
本文:他の人に「幸せ」なんて言われたのは、記憶の及ぶ範囲では初めてだ
②:人から自分が幸せに見えることがあるとは思っていなかった
*幸せに見えない人に対して自然に「幸せですねえ」とは言わないはずなので、内容的には②と本文は因果関係のある関連情報と考えられます。

心情=
本文:少しびっくりする
②:意表をつかれて
*意表を突かれるからびっくりするわけで、これも因果関係のある関連情報に言い換えられています。

言動=
本文:傍線部A
②:その後の会話を続ける言葉が思い浮かばなかった
*これまた、思い浮かばないから何も言い返せないという因果関係のある情報に差し替えられています。

このように、言い換えはなされていますが、本文と選択肢はきれいに対応しています。

’** 2 問三 ***

傍線部Bのときの主人公・千春の心情を問うています。情報整理しましょう。

状況=女の人が読んでいた文庫本がどうしても気になった千春は、仕事帰りにわざわざ書店に立ち寄り、本を探すことにした。

出来事=女の人が読んでいた文庫本を購入した。文庫本なんて初めて買った。

認識=「この本がおもしろいかつまらないかをなんとか自分でわかるようになりたい」、傍線部B「この軽い小さな本のことだけでも、自分でわかるようになりたい」

心情=認識中の「~たい」という表現から、意欲が読み取れる

これらの情報が書かれている選択肢は、⑤「女の人と会話をするきっかけとなったこの本のおもしろさやつまらなさだけでも自分で判断できるようになりたいと思った」しかありません。

にもかかわらず、⑤を選べなかったとしたら、それはおそらく、⑤のこの一節が関係しているのではないでしょうか。

「何かが変わるというかすかな期待をもって」

なんじゃ、これ? こんなの書いていないじゃん。。。という感じでしょうか。

これは本文のテーマに関係しています。テーマについてはこれまでも書いてきましたが、主人公に大きな変化をもたらすものや出来事がテーマと関わっています。今回であれば、喫茶店に文庫本を忘れた女性の存在が該当します。

実際、この女性の存在が主人公・千春を大きく変化させます。このことを選択肢に書き込んだのが、先の一節になると考えられます。

小説の問題演習では、しばしば「正解の選択肢のこの一節は、本文のどこに書いてあるのか?」という質問を受けます。答えはこれだろう、しかし、この一節は書いていない。だから選ばない…そしてそこから迷走が始まり、とんでもない誤答を選択する。よくある話です。

小説問題で消去法を使う場合に特に気をつけなくてはならないのは、このような場合です。

基本となる考え方は、本文に照らして確実にウソが書かれている選択肢を切ることです。

逆に、本文に書いていないという選択肢は要注意なのです。それは書いていないのではなく、自分が読み取れていない可能性があるのです。この点に注意して演習に当たってほしいと思います。

今回はこれで以上となります。残りの設問はまた次回に。


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