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今の円安で、日本は破綻するか真面目に考えてみた

為替市場で急激な円安が進んでいる。一時は一ドル160円台まで円安が進んだ。この急激な円安とともに”日本経済破綻論”が一部で注目をあびているようだ。最近もオリエンタルラジオの中田氏がYoutubeで円安危機説を煽っていた。
しかし”日本経済が破綻する”と言っている本人たちも、実際に何が起きるかとなると皆目見当がつかないようだ。
そこで今回は、円安で日本経済が危機に陥るかどうかを考察してみた。

円は暴落するのか?

まず初めに問題となるのが「円の暴落」だろう。この”暴落”という言葉も曲者で、一ドル200円とか300円とか、はたまた500円とかの極端な値を唱える人もいれば、今の一ドル150円台で十分暴落だと感じている人もいるだろう。
そこで過去に通貨危機と呼ばれた場合と比較してみよう。

1971年のニクソン・ショック

アメリカ政府が、プレトンウッズ体制から脱し、金とドルの交換を停止した有名なニクソン・ショックでは、一ドル360円の固定相場だったドルが、254円まで30%下落した。

1985年のプラザ合意

バブル経済直前の有名なプラザ合意では、ドルが主要通貨に対して50%近く下落している。最終的には105円台まで円高が進んだ。

1992年の英国ポンド危機

イギリスがユーロの前段階であったEMSから離脱を余儀なくされた有名な1992年の有名なポンド危機では、イギリス・ポンドが対ドルで20%程度下落している。この危機では、ヘッジファンドで有名なジョージソロスがポンドを売り浴びせ、数千億円の利益を得たといわれている。

1997年のアジア通貨危機

タイバーツなど東南アジア各国の通貨が50%近く下落している。この結果、タイヤ韓国などが対外債務の支払いが困難になり、IMFの支援を仰ぐ事態に陥った。
この危機で注目されるのが、不動産バブルに踊ったタイなどに加え、産油国であるインドネシアやマレーシアも通貨危機に陥たことだ。

今回の円安は立派な通貨危機

2022年を起点とする今回の円安では、すでに30%近く円が下落している。過去の通貨危機に照らして考えると、十分に通貨危機の名に値する円安といえるだろう。そう、ただの円安ではなく”立派な通貨危機”なのだ。

日本政府は破綻するのか?

では、この”通貨危機”とも言える円安を受けて、世間で言われているように日本政府が”破綻”してしまうのだろうか。
ここでは、”日本政府が破綻する”とは、日本政府が発行している国債などの利払いや元本償還が出来なくなる所謂”デフォルト”と呼ばれる事態としよう。
現在のところ日本政府の抱えている国債などの債務は、大半が”円建”であることから、最悪の場合には”日銀による引き受け”や”赤字国債で”つなぐ”ことも可能であり、破綻の可能性は低いだろう。
ただしこれには条件があり、国債の金利が上昇しない限りということだ。国債の金利が急激に上昇した場合には、日本政府の利払いが急増し、日本政府の財政は”自転車操業”状態に陥り、一気に支払い不能に陥るリスクがある。
逆に言えば「国債の金利が上がらない限り、日本政府の破綻(デフォルト)は、ありえない。」
という結論になる。
ただし、その場合には”更に円安が進む”だろう。

ドルが枯渇する

1997年に発生したアジア通貨危機の際には、タイなどの東南アジア諸国に加えて、お隣の韓国が通貨危機に陥った。その理由は、多くの韓国企業に加えて韓国政府もドルや円などの外貨で借り入れをしていたことがあげられる。通貨が急落すると、ドル建てでの返済額が急激に膨張することから利払いや返済が一気に困難になる。また、ドル建ての借金をもしデフォルトした場合には、追加の借り入れが不可能になり、外貨不足から輸入が実質的に止まることもあり得る。
このような危機の際には、通常IMFなどからドルを短期で借り入れるとともに、財政支出の削減などリストラを強烈に進めて国際収支を均衡させる。実際に20年前の韓国では、強烈な財閥の再編成と外資への売却、財政の削減などが行われた。このIMF主導の再建は今でも韓国人の心にトラウマを残すほど強烈なものだったようだ。
今回の円安を受けて、日本も韓国のような対外債務の危機に陥るのだろうか。

日本の経常収支は黒字

日本がドル不足に陥り輸入が困難になり、日本人が飢えに苦しむような事態が実際に起きうるのだろうか。以下にその可能性を検討してみたい。

日本の輸入額は60兆円

日本は無資源国であるため、石油や食料を海外から輸入する必要がある。また最近はスマホなどの電子機器や家電製品も輸入している。それでは、日本が生きていくためにどれぐらいの輸入が必要なのだろうか?直近の国際収支を確認してみると、円建てで60兆円台の輸入がある。逆に言えば一年で60兆円程度の外貨があれば日本人は輸入ができることになる。

経常収支は20兆円の黒字

日本が外国から稼ぐお金の額は経常収支という指標をみればわかる。直近の2023年は、なんと年間20兆円もの黒字となっている。もう一度繰り返すが”黒字”だ。ちなみに未だに勘違いして”もの作り日本”とか”貿易立国”とか言っている人も居るようだが、貿易収支は6兆円強の赤字だ。
また輸出を完全にストップした場合でも、配当や米国債からの利子などの所得収支が34兆5千億円強もある。
もちろん経常収支の黒字額のすべてが、円に替えられるわけではない。最近になって一部の識者から指摘のある通り、日本企業が稼いだ外貨のかなりが、そのまま海外で再び投資に回されている。
しかしそれでも所得収支だけで34兆円もの黒字があるのは事実だ。
さらに、危機の際には、石油などの輸入を抑制するために”原発の再稼働”が行われるだろう。これだけで4兆円から5兆円程度輸入が減少する。また輸入依存度が高い食料に関しても、実は三分の一程度が、廃棄されているとの話もある。国民的な食糧の無駄を減らす努力をすれば食料の輸入も相当減らせそうだ。また日本は、加工貿易国であるため、輸出が減少すれば、同時に輸入も減少する。
色々書いてきたが、ドル不足となり輸入が不可能になる事態は、戦争で海上封鎖でもない限り考えにくいだろう。

キャピタル・フライト

今回の円安を受けて一部で心配されているのが、”キャピタル・フライト”だ。日本には、個人金融資産が2000兆円以上、円の預貯金だけでも1000兆円を超える。この預金の一部でも円からドルに変換されたら円の暴落は避けられないだろう。

フラッシュ・キャピタル・フライト

以前と比べてスマホのネット・バンキングで外貨預金、外貨投資ができるようになっていることから、一種の”フラッシュ・キャピタル・フライト”が起きるリスクは確かになる。ある日突然、スマホ経由で巨額の円預金が外貨に替えられる事態だ。2023年にアメリカで起きたシリコンバレーバンクの破綻では、僅か数日でネットバンク経由で巨額の資金が引き出され、対応する間もなく同行は破綻に追い込まれた。日本でも同様の事態が想定される。
しかしこの場合でも、大半が、せいぜいメガバンクなどの国内銀行でドル預金をする程度だろう。そうなると日本のメガバンクや地銀に数百兆円のドルが滞留することになる。外貨を預かっているメガバンクでは、ドル預金を運用する必要がある。米国債に投資することも考えられるが、商社などの輸入業者が、ドルの借り入れを求めてきたら貸し出すだろう。本格的なドル不足は想定しずらい。

国内金利急騰

キャピタル・フライトが起きた場合には、国内銀行の円預金が急激に減少する事態が想定されることから、一部で日本円の貸出金利が急騰するかもしれない。しかし今のところ日本の大半の銀行は、大幅な預金超過だ。日本一の三菱UFJでさえ預金と貸し出しの比率である預貸率は50%程度だ。わずかな付利を求めて日銀に600兆円もの巨額の当座預金が預けられている状況を見ても国内が資金不足に陥る事態は想定し難いだろう。

海外脱出は少数

もし日本の富裕層が、挙って海外に脱出した場合には、ドルが海外に完全に移動することになる。この場合には、通貨危機の可能性が急激に高まる。しかし英語もまともに話せないのに個人の何割が海外に移住するだろう。一部の富裕層やインフルエンサーなどが流行のドバイなどに脱出することも考えられるが、日本の金融資産の大半を握る高齢者が、挙って海外脱出するとは思えない。

出国税

もし個人が海外の銀行に大金のドルを送金しようとすると、銀行で送金の際に様々な書類を要求される。また2500万円を超える金融資産を海外に持っている場合には、税務署に報告義務がある。また国内に多額の株などの資産を持っている個人が、海外移住をする場合には、含み益に対して”出国税”が課される。
あまり知られてないが、実は日本の金融・税務当局は10年以上前から着々とキャピタル・フライト対策を進めているのだ。
つまり仮に円預金が大挙してドルなど替えられるキャピタル・フライトが起きたとしても、日本が外貨不足に陥り、輸入が途絶するような事態は考えにくい。最悪、せいぜい物価が数倍になる程度だろう。

多額の外貨収入

ちなみに個人金融資産のうち預金の半分程度の500兆円がドル預金や米国債に投資された場合、今のドル金利を前提にすると、年に20兆~30兆円の利息や配当収入があることになる。外貨保有者が日本国内に居る限り、食費や光熱費の支払いのために、多くの利子が円に両替されるだろう。すでにある一時所得収支と合算すると日本の輸入量全額を賄えることになる。

政治的対立

これから予想される”超円安””超インフレ”で一番問題になるのは、経済的な側面ではなく”政治面”かもしれない。
仮に超円安と物価が数倍になる超インフレが起きた場合、外貨資産を持っているか否か、輸出系の大企業に勤務しているか否か、都市に住んでいるか否か、若者か老人か否かなどで、国民の間に”超格差”が出現する可能性が高い。

田舎の地主の没落

地方の地主や中小企業の経営者、自営業など、今まで富裕層だったもの中からも”没落”する層が出てくるだろう。彼らの富の中心である土地に関しては、東京やニセコ、熱海などブランド価値のある土地を除き、インフレ下でもそれほど上昇しないだろう。一方で超物価高から生活に困窮する”田舎の地主”や”中小企業経営者”などが増加するだろう。この層は自民党の岩盤支持層であり、その没落は、まるで明治維新の際の士族階級の没落を想起させる。この没落地主層を基盤に、一種の”ネトウヨ政党”や”ナショナリズム勢力”が登場するかもしれない。

新興富裕層

逆に最近流行のFIREなど積極的に外貨投資を行ってきた層などの中から”新興富裕層”が出現することも考えられる。巨額の外貨資産を保有するようになった彼らは、割安になった国内の不動産や企業を買収するなど、派手な動きをする者が登場するかもしれない。ちょうどITバブルとその後に派手に活動したライブドアのようなイメージだ。そして、その一部は、資金力を元に政治に参加するようになる可能性が高い。当然ながら彼らは、外貨資産へのキャピタル課税に反対し、庶民に対しては”自己責任”を主張するだろう。

庶民の生活は困窮

一方で多くの庶民が、超物価高から生活苦に陥るだろう。もし、これ以上の超円安となった場合、物価は数倍になる。一方で給料の引き上げが物価上昇に追いつかないことから庶民の生活は苦しくなる。特に公的年金頼りの高齢者の多くが生活に困窮することになるだろう。この層を基盤として、一種の世直し政党、または新種の共産主義勢力が起こるかもしれない。既存政党だと、れいわ新選組が一番近い。

ファシズムと共産主義

円安と物価高から国内では、ファシズムと一種の共産主義が勢力を増すことになるかもしれない。例えば日本保守党や参政党のような勢力が拡大し、一方でれいわ新選組のような左翼政党の勢力も伸長するかもしれない。両者の間では、超円安と超インフレの責任と対処の仕方を巡って激しい政治対立となる可能背もある。また外貨投資で”濡れ手に粟”の利益を手にしたとして、富裕層に対するキャピタル課税を求める声も高まるだろう。

まとめ

以上を纏めると以下の通りだ。

  • 今の円安は”通貨危機”クラスだ

  • 長期金利が上昇しない限り日本の財政破綻はない

  • 低金利の継続が予想されることから更に円安が進行する可能性が高い

  • キャピタル・フライトが起きるかもしれないが、大きな問題にはならない

  • 円安を受けて物価が更に上昇すると多くの国民が生活苦になる

  • 国民の間で政治的対立が激化する、ファシズムや新手の共産主義が勢力を増す

  • 富裕層に臨時のキャピタル税をかけて、給付金などで国内の格差を調整する

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