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星はあなたを知らなくとも

 私、かわいいから男の子にモテて嫉妬されていじめられるのよ。と5歳の従姉妹の女の子が言う。かわいい…?というかかわいい服…ではなかろうか。
今日は私も入れて女子3人でお人形ごっこをしながら遊ぶ日だった。

 5歳でも嫉妬、男の子、いじめられる、という女子ヒエラルギー三種の神器が発動するのか。と個体によって社会を受け入れる早さが違うのね。と姪に耳打ちする。姪は個体って何?と聞くので、あなたや私は個体なのよ。と説明する。姪は6歳でいつもジーパンに毛玉だらけの薄めのスパンコールがキラキラしているセーター、手首が薄ら黒くなった赤いジャンパーばかり着ている。

「あなたはどうなのよ?」
「男子はちょっとうるさいからどうでも良くて、ちえりちゃんはクラスで一番頭が良くて、絵が上手いさきちゃんといつも喧嘩しちゃうの。」
「なんで?」
「どっちが上手いかで喧嘩になるの。私の絵を皆見に来るから嫌なの。」
「絵は勝ち負けじゃないよ。私はあなたの絵が好きだよ。」
「どこが?」
「頭がとんがってるところと色が綺麗なところ。」

 姪はとてもいい子で頭とんがってないもん!とまあるく髪の毛の線を足し始めた。彼女たちの勝ち負けへの執念は深い。トランプなんか始めたら勝った時の嬉しさの表現たるや胸がキュンとする仕草と鈴が転がるような笑い声をあげる。

 姪の両親、私の妹夫婦はある日仲良く揃って車が炎上してしまった。こんな事って自分の人生にあるのね。と見送って1時間やそこらで姪の人生は変わってしまった。私と姪が暮らし始めてまだ2年。

 ママは梅干し好きだったから食べて。嫌だ!おうどんは大好きだったよ。食べる!最近ようやくママの話が出来るようになってきた。

 パパはプロポーズの時、日本で一番高い梅干しでプロポーズしたんだよとか早く言いたいな。変なパパでしょう。また2人の写真を見るのは辛くて神棚の扉の内側に飾っている。

 生きていくのは辛いことばかりだ。それにこだわり続ける間は。だっていつか誰も彼も必ず死ぬ。死が怖いと言うよりは、残される側が辛いのだ。

 そして私はメンタルが中々浮上せず働けなくなった。姪に向き合う時間を人生のほんの少し社会から離脱して自分を癒しながら取ってもいいじゃないかと、自分を許した。

 でも社会ってなんだろう。生産性がない物を異物としてみなすシステム?お金を使ったり稼いだりというのが本質になりつつある今、この世界って生きにくいなぁ。みんな知ってるし思ってるのにもうこのシステムはどうにもなりそうもないなぁとかぶう垂れながら、ツナパスタと中華卵スープを作った。

 これ美味しい〜と大袈裟に言ってくれる姪は本当にいい子。でももし、嫌な事とか悲しい事があったら、すぐ言ってね。とパスタを食べる姪に言う。
姪は星を見上げて、あれはママの星!とか言う。

 1番キラキラ輝いている星だ。満月にも関わらずその星は真っ直ぐ明の指先の向こうで私たちを見つめている。それは幸せとか不幸とか個体で見える世界ではなく、いつの時代もどこの国でも長く続けられた小さな営みで感情なんてものはどうでも良く、ただ星が美しいという事実だけで成立する世界。

生きとし生けるものが平等に目にすることが可能な世界。流れるままに生命は滑り落ちるし、何処にも止まることなく形を無くす。それは意味がないことでもあるけれど、時より立ち止まってじっくり観察してみるのもいい。なんにしろ全ては一瞬で過ぎ去り、いつの時代のあなたがただ星を見ているだけなのだから。


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