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「愚行」を愚考してミル

「あの男は有能な人物だ。だが、いつも刑務所の塀の上を歩いているような危うい男だ」
    吉田茂(田中角栄を評して)
 

昨日、ABEMA Primeで興味深い動画を見ました。

食べ物を意図的に、粗末に扱う動画を作成する2人組がいるそうです。野球のバットでボールとして打ったりするようです。意図的に炎上させることで再生数を稼いで、それなりに儲けてるのだとか。

さっそく、Youtubeに動画が上がっていました。

若いユーチューバー2名の主張は、わりと明快です。

食べ物を粗末に扱う動画は、海外でも普通に行われているでしょ。パイを投げたり、ケーキに頭を突っ込んだり、ごくありふれた話ですよ。そこに犯罪性はないはずです。よしんば、それに不快感を覚えたとしても(公共放送ならまだしも)見なきゃいいでしょ。それだけの話です。

実際、彼らの動画はBANされていないようです。

アカウント凍結もない。それもそのはずで、海外のユーチューバーは、この手の動画でもっと大きな再生数を稼いでいるんですね。海外がOKで、日本がダメという道理はない。

再生数で収益が決まる以上(法に触れない範囲で)炎上させて、再生数を増やすのに、問題はない。

とまあ、こんな話でした。

スペインに「トマト祭り」という行事があります。バレンシアで毎年8月最終水曜日に開催される世界的に有名なイベントです。現地では「ラ・トマティーナ」と言うそうです。

そこでは、大量のトマトを参加者にぶちまけます。トマトを拾っては投げ、拾っては投げで、街はトマトだらけになります。動画を見るのが、手っ取り早そうです。

La Tomatina(トマト祭り)

この「トマト祭り」は、観光客に非常に人気があり、世界中から多くの人々が訪れます。バレンシア地方のひとつの名物です。

食べ物を粗末に扱う動画は、個人的には酷いものだと思います。

しかし「食べ物を粗末にするべきではない」という主張が「絶対不変の真理なのか?」と問われれば、ちょっと口ごもってしまいます。「じゃ、トマト祭りはどうなんだ?」と言われると、困ってしまいます。

「個人の自由を、どこまで制限できるのか?」というのは、悩ましい問題です。

学問的にはコンセンサスが一応あって「その行動が他人に害を及ぼさない限り、好きなように行動する権利がある」(ジョン・スチュアート・ミル)と、なっています。

ということは、裏を返せば、他人に害を及ぼすものであれば、規制を掛けられるということになります。

食べ物を粗末に扱うことで「直接的」に誰かに害を与えるでしょうか?残念ながら、これはなさそうです。一方で「間接的」な害を与えることはあるか?社会に悪影響を及ぼす可能性は、あるような気がします。少なくとも、子供の教育上は、良くないですね。どう考えても。

「愚行権」

間違ったこと、愚かなことをする権利、これを「愚行権」と呼ぶ人もいますが、これを規制するのは、なかなかハードルが高そうです。

法的には処罰の対象にならないけども、社会的な「規範」だとか「価値観」から外れた行為は、儲かることが多いです。リスクが高いから、みんなやらないんです。でも、やらないからこそ、やれば儲かる。なので、食べ物を野球のバットで打つ「愚行動画」が現れるわけです。

冒頭の言葉は、吉田茂が田中角栄を評したものです。

一部の人間は「法律に触れないけど、人がやらないこと」をやって実績をあげる。だから、いつも刑務所の塀の上を歩いている。田中角栄は仕事はできるけど、そういう人間だと。

愚行は世間から忌み嫌われて、バッシングされて仕方ないものです。

実際、社会から猛烈なバッシングを受けることが多いですね。愚行は法律よりも、世間の風当たりとバッシングが厳しいです。

しかし、完全に社会から抹殺するのも少し違う気もしています。

トマト祭りは、かつてフランコ政権時に、禁止処分を受けています、しかし、生き残ったんですね。そして、世界的に認知されます。人気イベントになるわけですから、愚行もあなどれない。愚行は生暖かく見守るしかなさそうです。

積極的に応援はしませんけどね。もちろん。


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