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思い込みの断捨離

私の家には、炊飯器がない。

ある時までは、あった。
ずっと長い間、さも当然という顔をして台所で鎮座していた。
あまりにも当たり前すぎて、風景と同化していた。
でも、保温したご飯の味には常に不満を抱えていて、
これは一体どうしたものかといつも考えあぐねていた。
炊きたてのご飯は美味しいのに、数時間保温をしただけで
なぜあんなに美味しくなくなってしまうのだろう。
美味しくないばかりか、色も真っ白ではなく、
生成りのようなベージュのような汚れた色に変色してしまう。
私は一人暮らしのため、1回の消費量も少ない。
保温すると美味しくなくなってしまうのだったら
保温しなければいいかも、と
1回に炊く量を1合に減らして炊いてみると、
今度は炊飯量が少なすぎて美味しくならない。
かと言って、美味しく炊けるという触れ込みの炊飯器は
異常に値段が高い。

その時の私は、完全に炊飯ジプシーであった。
保温で美味しくなくなったご飯はふりかけで誤魔化したりしながら
自分の舌を騙し騙し過ごしていた。

なんのきっかけだったか……。
もはや思い出すことができないのであるが、
私はふとある時から鍋でご飯を炊くようになった。
ネットの記事だったかもしれない。
土鍋や鉄鍋で炊いたご飯はとても美味しいということを知った。
私は結構思い込みの強い人間で、
ご飯を炊くことは、炊飯器か飯盒炊爨でしかできないと思っていた。
その頃、うちにはあまり登場する機会のないストウブの鉄鍋があった。
恰好良さに惹かれて買ったものの、ほとんど使いこなせずにいた鉄鍋。
あれはまさに鉄鍋じゃないかと引っ張り出し、
炊き方をネットで検索し、書かれているとおりにご飯を炊いてみた。

!!!!!
めちゃくちゃ美味しいではないか!!!
もうそれは感動級の美味しさであった。
ご飯の色は見たことがないほど白く、ツヤツヤと宝石のように輝いている。
そして、一粒一粒がふっくらとまるまるしている。

これなら、ちょっと苦手だった玄米もいけるかもしれない。
そう思って、玄米も試してみた。
とても美味しかった。

炊飯器のように、保温はできない。
けれども、炊きたてのご飯をラップで包んで冷凍すれば問題はない。
温め直せばいつでも炊きたてと遜色ないご飯を食べることができる。

炊飯にかかる時間も、炊飯器となんら変わらない。
なぜ私は今まで炊飯器でなければいけないと思っていたのだろう。
炊飯器だけでなく、思い込みで使い続けているものは
意外とたくさんあるのかもしれない……。

すっかり味をしめた私は、
次に、ご飯を温め直すのに使っていた電子レンジが気になり始めた。
そうだ、蒸籠で温めてみよう!
結果は大正解であった。
とても優しい温かさになる。
そして、電磁波を浴びていないという安心感も、そこに加わる。

パンを焼くためのオーブンはどうだろう。
魚焼きグリルで十分焼けるし、直火のぶん、味も格段に上がった。

ふと台所を見渡すと、電化製品が減ってとてもすっきりしていた。
広くなった分、作業もとてもしやすくなった。

台所から一歩外へ踏み出し、他に見直せるものはないかと物色する。
あった、あった。
なぜ掃除機じゃなければいけないと思い込んでいたんだろう。
箒で掃き集めれば良いじゃないか。
掃除機は近所迷惑にならないように、かける時間に気を使っていたけど、
箒なら音がしないから、早朝でも使うことができる。

テレビは今やPCで見ることができる時代。
これも要らない。
ついでにDVDも要らない。

こうして私は、電化製品を断捨離することで
長年の間にこびり付いた思い込みも一緒に断捨離することができた。

このスタイルになって数年経つが、
日々の暮らしにはまったく困っていないどころか、
生活の質が数段上がったことを実感している。

そして、電気代が安くなるという、想定外のおまけまでついてきたのであった。

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