ToKi

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小説、批評、詩の投稿などをしています。大学1年生。 ツイッターはこちら https://twitter.com/cIVx3nPo2zcWVBC?t=sBl7ItdPU3RyBEP6E6EEjA&s=09

最近の記事

ベヰジュ 3章「完成版」

 列が空いてきた。圭悟はリュックから静かに本を取り出し、ときの訪れに微笑んだ。立ち上がろうとしたが足がしびれて感覚がなかった。つらい、しかし、ここで足を動かさねば。またも微音にこだわりながら足を床にたたきつけた。歩き始めた圭悟の頭には、ナポレオンの肖像が浮かんでいた。理由は分からない。  数分後、井坂さんの前まできた。他人がちかいという感覚は通学の電車でいやほど味わってはいるが、見るというのは偶にしかなかった気がする。白髪交じりの髪。マジックペンのにおい、黒色なのにどこか朱色

    • ベヰジュ 2章「完成版」

       川端は、澄ました様子で、部屋に這入ってきた。手を後ろに組んで顎を上げながら、彼は役者を貫徹したのである。柔らかくも確りと張られた彼の躰はみるみる崩れて行き、声にも内声にもしたくないのだろうけれども、『疲れたよ』というふうに聞こえた。『疲れたか』と僕。『風に吹かれれば俺は生き返るはずだ』それなら何故外から戻ってきたのだろう。『暑いから、風もないし、うん』風が無かった、か。僕は窓から半身を出し、外の様子をうかがった。僕らはまだ何も話してはいなかった。「微風が吹いてる」と僕は沈黙

      • ベヰジュ 1章「完成版」

        Δεν εξετάστηκαν με μικροσκόπιο.               圭悟はブログを開いた。  僕は椎名さんという方のサークルに参加していた。今のところは、45人が参加している。今夜も彼は、サークル用の記事を投稿する。彼はいつも19時50分頃に現れる。圭悟は時々、プロフィール欄の、椎名 Shiinaという表示の左にあるアイコンを見る度に、夏の冷たさ冬の熱さというものを感じていた。何処にも疑わしいものなど無い、そのような感覚。そして、そういう言葉の、ある

        • 最近、思うこと。

           タイトルを決めるのに今のところ興味はない。明日には変わっているのだろうけど。最近、思うこと、とだけ書いておく。  現代人には、何処か弱さがある。そして、そこには、寄り添い、がある。最近の音楽を聴いていると、寄り添い系とでも言うべきものが多い。ここで、問題になるのは、弱さ其れではなく、弱さを作り出しているということだ。    ぼくは、自分が弱いと思っている人に言いたい事がある。あなたは弱くない。強いと思っている人に言いたい事がある。あなたは弱くない。  きのこ帝国は、ベーシ

        ベヰジュ 3章「完成版」

          風と塵

          細道を行くひとが居た。 雨は望んでもその通りには降ってくれない。私の只でさえ風にほどかれた髪なのに、それを今の言葉で表すのならば、盛る、なのでしょう。頭上にまで伸びた植物の葉が、私のそれらに触れるのですよ。思うことは、あります。あるのですけれど、あるのですけれど、ね。月が見えます。髪が数本どこかへ行きました。 細道を行くひとが居た。 等身程ある植物は、影を濃くつくっていました。 月が傾きます。 今は、あの位置にあります。 細道を行くひとが居た。

          風と塵

           夏が巡る、という事を意識しだしたのは、多分、小学生で高学年になってからだと思う。  日陰が生まれる。蝉が鳴く。コガネムシを心行くまで想い続けた、午後。そんな事を思い出す。八月も終わる。宿題をぼちぼちとこなしながら、開けっ広げた出窓から来る自然を聴いていた。15時。外に出て樹の下に行く。蝉が鳴いている。顔に用を足されないように避ける様に歩く。砂が崩れて蟻の行列に迷惑をかける。あつい。  「よおー。」 遠い声がして、僕は駐車場を見た。萩原さんだ。このお婆さんは家の祖母と昔馴

          焦げたトースト

           厚着の女性、いやそれは機械かも知れませんが、と言っても私はそうは思いません。とにかく彼女は、怒っています。おっと紹介が済んでいませんでしたね。私は、ハニー・パイと申します。では近況報告に戻りましょう。厚着の女性が怒っています。彼女はとても寒がりなのです。しかしそれに対して人々からは、避難の声が寄せられています。彼等はよく「無能」という言葉で、彼女を蔑みます。その発端となった出来事があるのをご存知でしょうか。地上波、という日本のメディア形態が、冬の日の朝、半袖半ズボンで、ピン

          焦げたトースト

           年末になると僕は紺色のジャンパーを燻臭くする。豆をにるのだ。三年毎に変わるサンダル。時折、足でリズムをとる。祖母と共に椅子に座る。幾度かまわってくる火の当番。ある年には、レジャー用の椅子だった為に、ズボンが汚れる羽目になった。重くなった。  火が弱ってきた。昔の家の敷居や使えそうもない材木やら竹やら。火に焼べる。白煙がおこる。豆のかたさを確かめる。二日目の昼過ぎ頃には、丁度良い。  僕は食べなかった。夜になり風呂に入る。シャンプーで髪を洗う。本当に飽きる。燻を感じる。

          Xへの贈り物・第一章~第四章

           第一章  寝心地がやけに悪かった。人工的な明かりの存在感の大きさ、窓から差し込む光。それらが混ざり合い部屋を満たした。布団から出ると少し寒い。歩きたがらぬ足を引きずる。男は階段を降りようとしたが、左手を手すりの先端に置いて何も夢想せず、暫く立ち竦んだ。男は床の質感の方を向いている。気が済んだら、顔をあげ目を泳がせ、階段を降りた。勿論、裡には何も起こっていない。洗面所に闖入《はい》り歯ブラシを手に取る。青い歯ブラシ。もうそろそろ替え時だ。そう思った。次に洗顔だ。特に眼の辺り頬

          Xへの贈り物・第一章~第四章

          Xへの贈り物・第一章

           寝心地がやけに悪かった。人工的な明かりの存在感の大きさ、窓から差し込む光。それらが混ざり合い部屋を満たした。布団から出ると少し寒い。歩きたがらぬ足を引きずる。男は階段を降りようとしたが、左手を手すりの先端に置いて何も夢想せず、暫く立ち竦んだ。男は床の質感の方を向いている。気が済んだら、顔をあげ目を泳がせ、階段を降りた。勿論、裡には何も起こっていない。洗面所に闖入《はい》り歯ブラシを手に取る。青い歯ブラシ。もうそろそろ替え時だ。そう思った。次に洗顔だ。特に眼の辺り頬をよく触っ

          Xへの贈り物・第一章

          白堊 短編小説 https://estar.jp/novels/26190025 #エブリスタ

          白堊 短編小説 https://estar.jp/novels/26190025 #エブリスタ

          青い暁暗・第二章一時連載再開

           由美子さんに会えることになった。それでも、何を話したら良いのかは、分からなかった。宮倉の通夜を、ついさっきまで独り執り行っていた僕が、彼の事を乗り越える事が出来たのかすら分からない僕が、何を話せば良い。そうやって幾ら頭の中で悩みを大きくしても、僕の乗る車は、由美子さんの家まで、刻々と近づいている。アクセルを踏む足は重いんだ。僕は口をすぼめ息を吐いた。今までよりも、ハンドルを握る指の感覚が冴えてきた。人差し指でハンドルを叩いた。偶に少し長めの爪に目をやった。レンガ造りのアパー

          青い暁暗・第二章一時連載再開

          魚たちの沈黙#9第一章完

          「なあ、マーニー。サルバはまだ帰ってないのか?」 「ええ、まだ帰宅なさっておりません。」 「サルバは今どこだい?」 「調べたところ、まだ美術館にいらっしゃるみたいです。」 「もう、19時だ…。タルカスの連中が徘徊し始める時間だぞ。」  「ええ、よければ私が様子を見に行きましょうか?」 「いいのかい?ありがとうマーニー。君も気を付けるんだよ。」 「大丈夫です。私にはまだ心がありませんから。」 マーニは車を出し、CGAへと向かった。 速度を上げるためになるべく高く

          魚たちの沈黙#9第一章完

          魚たちの沈黙#8

           僕はベンチに座り、薄らと顕れた星々を眺めていた。鼻呼吸の音だけが鮮明だった。 サルバドール。 サルバドール。 僕を呼ぶ声がした。エレノアが起きたようだ。僕は「はい」とだけ返事をして、家の中へ這入った。すると、僕を探すために眼を忙しくさせている彼女がいた。 「あっ、サルバドール。さっきは御免なさい。」 「いえいえ、人間の体です。いつ何が起こるかなんて、分かりませんから。」 「本当にありがとう…。」 「もう、大丈夫なの?」 「ええ、もう落ち着いたわ。」 「いつも、あ

          魚たちの沈黙#8

          魚たちの沈黙#7

           僕はさっき一瞥したピアノの事が気にかかっていた。ピアノからは、よく熟れた果実のような感覚がしていた。獅子柚のようにどっしりと…。僕はそんな事を考えていたのです。少し気抜けし、背もたれながら伸びていると、茶色い葉が舞っているのが覗えた。滅多に吹くことの無い風が、窓ガラスをガタリコと揺らす。暫くして、薄暗さの中から、彼女が紅茶を持って戻ってきた。天井に毀れ陽がちらつく。その光は紛れもなく隣室のピアノからであろう。 「お口に合うか分からないけど…。」 「いえいえ、あっ、それで

          魚たちの沈黙#7

          TARKUS#6

           僕は芝を踏みしめながら、歩みを進めた。向こうからは、柔らかい、窮屈そうな風が吹いてくる。爽やかな樹皮を携えた樹は、いつしか倒れてしまうことに、何の不満も無いようだ。そして、突き抜けた空に、蒼緑(りょくりょく)とその照りを捧げている。  「おお、お前さん何所のもんだい…」 僕は何処からかする老人の声を聞きつけた。 「お前さん、こっちだ、こっち…。」 僕は樹のある家の二階の窓を見た。そこには、70代くらいの老人がいたのだ。 顎髭をのばしており、どこか、ヘミングウェイの面持ち