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自分を整えることは、周囲への静かな贈り物。

30歳の誕生日旅行として、彼がイタリアに連れてきてくれた。

美味しいシーフードや、海沿いの景色を堪能し、のんびりとイタリアの夜道を歩いた。

久しぶりの2人の旅行は、やっぱり楽しい。私たちはもともと旅人として意気投合をしたので、旅はかかせない。

2日目、彼の提案でアーティストの村に行くことになった。

それは山の上にあり、150年ほど前の地震以来、立ち入り禁止区域となったところにヒッピーたちが住みだしたらしい。

彼らは政府に度々でていくように警告されてきたけれど、粘り強く勝利を勝ち取ったのか、あきらめられているのか、今ではアートな空間になっているという。

なんだか面白そうなにおいがする。

人通りの少ない山道をくねくねとのぼり、車を停めた。村へ辿り着くまでの歩道に、初めて見る花が咲いていた。

そこだけぽつんと光っているみたいだ。魔法のお花のような存在感を放っている。

得体の知れない場所へ、好奇心がムクムクと膨らむ。

村へ着くと、どこかから陽気な音楽がきこえてくる。ところどころに、小さなアートの個展があり、それはプロとは言えない出来栄えだけれど、各々好きなように存在している。

小さな模型の鉄道が走っている部屋や、オーガニックのレストランもあった。

寂れているようで、少数の人が生活を楽しんでいるギリギリのライン。

崩れた教会には緑が生い茂り、その中には信じられないほど可愛い仔猫がいて、あどけなくジャンプしながら近づいてきた。

一通り村を見て回り、一番気になる場所へ。

まるで子供が描く海賊船の入り口。使われなくなった道路の標識がアートになっている。ここは、食べ物、飲み物、ベッドまで無料の場所だという。

中には、ありとあらゆるガラクタ兼宝物がつめこまれていた。ボートや、車、巨大なぬいぐるみ。家具や食器。子供の秘密基地がそのまま大人に成長したみたい。

色々なものが散らばっている下で、ニワトリが2匹歩き回っている。

このカオスでヒッピーな感じ。自由だなぁ。


6、7人のメンバーがワインを飲みながら楽しそうに談笑している。みんなイタリア人ではなく、海外から来ているようだ。

フレンドリーに歓迎され、ワインを強くすすめられたけれど、車の運転があるからとやんわり断り、中を見学させてもらった。

崩れている建物はところどころ修復され、とてもユニークな場所となっている。

ここを仕切っているのは1番大柄の男性だった。肩につくほどの髪はもさもさとカールし、なにより、すごく大きな鼻が印象的だった。

どしっと椅子に座っている、その男性は目が合うや否や、話しかけてきた。

「アメリカ人はこうやってすぐ話しを遮るんだ!!みたか?話していたのに、勝手にもっていきやがって。」

本気で怒ってるのか、ジョークなのかわからない。

そういう彼の目線の先には、そのアメリカ人らしき女性と、それまで彼と話していたのであろう他のメンバーたちが談笑していた。

共感のつもりで、軽く苦笑いを返すと、大柄のおじさんは、私たち2人をまじまじと見つめ、突然、私の彼にこういった。

「彼女が君からもらっているよりも、君が彼女からもらっている方が多い。」

「…え?」

彼が聞き返すと

「10年すればわかる」

と、それだけ言った。

唐突な言葉に圧倒され、私たちは唖然としながらも、この場所を後にした。

私には、この人が、何か普通の人には見えないものを見ている気がした。ガネーシャのような印象だった。

ところで、もらっている、とは何のことだろう?

彼はレストランも、ホテルも含めて、今回の誕生日旅行をプレゼントしてくれた。そして、特別なときでなくても、常に愛情いっぱいに尽くしてくれる系の彼なのである。

彼は私から何を多くもらっているのだろう?

「もしかして、10年以内に私が大金持ちになって、いろんなものをプレゼントするってことかな?」

「いや、あんなヒッピーな人が、お金や名声の話をするようには思えないよ」

「もしかして、私は10年以内に死んじゃうのかな?それで、優里が残した思い出はとても大きかった、と思うのかな?」

「いやいや、未来のことじゃなくて、今現在のことを話しているように思うけどな。エネルギーのことじゃない?」

「エネルギー?」

などと、私たちはおじさんの一言を解明するためによくわからない会話を繰り広げながら、山道を下って行った。

いまだに真意はわからない。ただ酔っぱらって適当なことを言っただけなのかもしれない。

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人から何かをもらう、与える、とはどういうことだろう。

それが物理的なプレゼントやお金でない場合に、何ではかるのだろう。

この人といると、学びになる。成長できる。有意義な気分になる。と、確かにそういう感覚を与えてくれる人はいる。

癒される。満たされる。ほっとする。そんな安心感をくれる人もいる。

それって何だろう。

彼が言ったようにエネルギーの問題なのだろうか?

私にはまだ言語化できない。

でもエネルギーときくと、一つ大切にしていることを、思い出す。

それは、「自分を整えることは、誰にでもできる静かな贈り物。」という言葉。

食事・睡眠・運動はもちろん、瞑想や内省などを通して基本的なコンディションを整えることは、エネルギーを高くキープすることにつながり、周りへの言葉や行動の余裕として現れる。

イライラポイントが10でMaxだとしたら、「眠い」「お腹がすいた」「肩が凝った」など、自分のコントロール下における加点を可能な限り減らし、常に0の状態に戻しておく。

そうすると、他人の失言や、想定外のトラブルといった、外部要因で加点されても、そう簡単に10まで達することはない。

相手の話を聴き、優しく笑いかける余裕を保てる。

私は、心が広いという自負はないからこそ、人一倍、コンディション作りに励むようにしている。

それくらいかな、私が彼より気をつけていること。

さて、おじさんが意図したこととは、全くの検討外れな気もするけれど、覚えておきたい不思議なイタリア旅行でした。













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