略すなら「ヘビメタ」よりも「メタル」がいい だけど好きならそれでいい
「ヘビメタ好きのアナウンサーって内容で、書いて欲しいんですよ」
…いったい何を言ってるんですか、広報局。
あまたのアナウンサーの中から、私を選ぶことはないんじゃないですか?
いいんですか?けっこう面倒な内容が続きますよ?
あとそもそも「ヘビメタ」じゃないんですよ。
「ヘヴィメタル」せめて「ヘビーメタル」。略すなら「メタル」ですよ。(※)
ね、めんどくさいでしょ?割と終始こんな感じですよ?
そんな記事を書いて広報になると思っているんですか?え?いいの?
…こんにちは。アナウンサーの吉田一貴と申します。秋田局でアナグループのチーフをしております。
ハードロックとヘヴィメタル(以下、HR/HM)を愛して四半世紀。日々爆音を聴きながら、時にはHR/HM絡みの番組も担当してきました。
今回、改めてメタルと仕事について振り返ってみたのですが、実はそれぞれがつながっているかも?と思うに至っております。
少々面倒な内容が続くかもしれませんが、お付き合いいただければ幸いです。
(なお、専門用語が多いため文末に脚注としてまとめておりますが、あくまで個人の意見です。)
はじまりはガンズとアングラ
出会いは、高校1年の時。
そのころの私は、一部の同級生たちとの人間関係がうまくいかず、もやもやした気持ちを抱える毎日を送っていました。思春期ゆえに、何か世界が薄暗くなってしまったような感覚。ちょっと暗い気持ちで登校する日々。
そんな時出会ったのが、「ガンズアンドローゼズ」(※)でした。
ある日友人がCDを貸してくれたわけですが、ドクロのCDジャケットといかにも不良っぽい見た目のバンド写真に、何か「イケナイ物」を手に入れたような緊張感を今でも覚えています。
ドキドキしながら再生させると、今まで聞いたことのないギターの音色と、激しいリズム、そしてボーカルのシャウト…頭を揺さぶられるような衝撃。
この音楽って、ひょっとして自分の暗い気持ちを吹き飛ばしてくれるのでは…?
私は友人にさらなる音色を求めます。
手渡してくれたのは、ブラジルのメタルバンド「ANGRA(アングラ)」(※)。
普通、ガンズから入ったなら次はボンジョビ(※)とかヴァンヘイレン(※)とか、もう少し分かりやすいところに行くもんでしょ、と今なら思いますが、ANGRA聞かせたかったようです。
そしてこれが、私をHR/HMの深い世界から離れられなくしてしまいます。
ツインギター(※)の高揚感、ハイトーンボイスの多幸感、そして独特の世界観を醸し出すサウンド。これがヘヴィメタルというものか!!
こうして私はHR/HMの深みにのめり込んでいきます。しかし、これで薄暗い世界からも開放!…とはならず、相変わらずもやもやも暗い気持ちも持ち続ける高校生活を送るのですが、そんな時寄り添ってくれるのもメタルという音楽でした。
突き抜けるから寄り添える。
あくまで私見ですが、HR/HMはとにかく「突き抜ける」音楽です。
どこまでも激しくもすれば、繊細にもする。
底抜けに明るいメロディ、谷底のような暗いメロディ。
人間業と思えないようなギターの早弾き(※)。
ドラムのブラストビート(※)。
どうやって声出してるの?と言うようなハイトーンボイスやデスボイス(※)。
とにかく突き抜けているからこそ、多様な世界を作り出すことができます。
だからこそさまざまな感情に寄り添うことができるのではないでしょうか。
気持ちを高ぶらせたいときには、雄々しいクラシックメタル(※)を。
パーティー気分ならLAメタル(※)を。
失恋したならメタルバラードを。
鬱々とした気分の時にはブラックメタル(※)を。
少なくとも私はそうしてメタルに寄り添ってもらってきました。
それで現実が変わることはなくても、気持ちを和らげてくれる何かが生活の中にある、というのは救いになってきたと思います。そう、デスメタルで救われる気持ちも確かにあるんです。
こうして私は、メタルを多く扱うCDショップに通い、HR/HMの専門誌を買いあさり、"日本のメタルゴッド“伊藤政則さん(※)のラジオを聞き続け、常にメタルに寄り添ってもらいながら青春時代を過ごしてきました。
そんな私がNHKでアナウンサーをすることになるわけですが、それも音楽とは無縁ではありませんでした。
メタルと司会とアナウンサー
そもそもアナウンサーを目指そうと思ったきっかけは、小学4年生の時に地元ラジオに出演したことです。
自分で何かを伝える面白さを知ったことがその後に続いています。
一方で、どんな仕事をしたいのかを明確にしたのは、大学時代に打ち込んだバンド活動です。(もちろんHR/HMバンドで、私のプロフィールにある「ペインキラーを原キーで」というのもここで培ったものです)
そこで味わったのがMCの面白さ。
いかにお客さんを乗せて、楽しんでもらうか。自分の言葉運び一つで、演奏への観客の入り込み方が変わってきます。
それを目の当たりし、MC・司会の醍醐味を知ることになりました。
「アナウンサーになってステージ司会をしたい」
その思いを就活でも熱弁し、NHKに入局。その後、念願叶い、「MUSIC JAPAN」や「BS日本のうた」「紅白歌合戦ラジオ実況」などで司会を担当。
音楽のジャンルは色々あれど、どの番組においても、メタルバンドをしながら感じたMCの魅力が、自分の原動力になってきました。
一方で、HR/HMへの思いを隠しきれず、様々な形で仕事にも昇華していきました。
富山局時代に担当したラジオ番組では、「ジングル」という、コーナ-を切り替えるための短い音楽に、こっそりセパルトゥラ(※)を使ってみたり、京都局で立ち上げた音楽コーナ-では、日本メタル界が誇る・THE冠さん(※)をゲストに呼んだりと。
いや、もちろんただの趣味というわけではなく、ジングルに関して言えば、切り替えにふさわしいシャープさを持った曲を選んだだけで、THE冠さんに関しては、地元出身のこんな素敵な方がいる、ということを京都のみなさんにもっと知って頂きたい!という思いからのもので決して私欲からというわけではない、とも言い切れないところがあるので心よりおわび申し上げます。
また「おはよう日本」では当時世界を席巻し始めていたBABYMETAL(※)のみなさんを特集。これはあまりメタルには詳しくないディレクターと二人、本当に楽しい企画でした。
当時のやりとり、以前おはよう日本のブログにも載せた記憶がありますが、再掲いたします。
…CARCASSは叶いませんでしたが、朝からヘヴィメタルがお茶の間に響く喜び。NHKって結構色々できるんだな、と感じたものでした。
そんな私にとってなんと言っても特別だったのは、
FM「今日は一日、ハードロック・ヘビーメタル三昧」です。
三昧はフェス
NHK-FMで不定期に放送している「今日は一日○○三昧」。一つの音楽ジャンルをとことん掘り下げ、1日たっぷり堪能してもらう番組です。
HR/HMをテーマにした「今日は一日ハードロック・ヘビーメタル三昧」は、2007年が初回放送。これまでに何人ものアナウンサーが担当してきましたが、私も2015年、第6弾の放送から携わることに。
その時はとにかく楽しくて、色々なメタルに触れながらさまざまなお話を伺えるのがうれしくて。
何せ司会をご一緒したのは”メタルゴッド“伊藤政則さん。青春時代、伊藤さんのラジオに没頭していた自分が、共に番組ができているなんて…。
プロフィールに変なこと書いたせいで、生放送でメタルゴッドの目の前でペインキラーを歌唱するハメにはなりましたが、ああ、この音楽を聴き続けてきてよかったと思ったものでした。
「今日は一日○○三昧」は本当に特別な番組です。
一つのジャンルを9時間~12時間にわたって、同じ趣味のリスナーと共に、分かち合う。
司会をするアナウンサーの力量もそりゃ問われるわけですが、時間が経つにつれ、だんだんとそのことも忘れ、ラジオの向こうの皆さんと一つになっていく感じ…。
これって何かと似ているんですよ。「フェス」です。
2021年2月、第7弾のオンエアでそのことに気づきます。
(※8月3日修正。第7弾のオンエアは2021年12月ではなく、2021年2月でした。記事をお読みいただいた方からご指摘いただきました…!ありがとうございます。)
コロナ禍で、ライブハウスは営業できず、海外アーティストは来日できず、もちろん音楽フェスは軒並み中止…。
こんな時だからこそHR/HMの突き抜けた響きが必要、と数々の名曲をお届けしていたのですが、番組に寄せられるSNSを追っていると、多くの人がこんな言葉をつぶやいていました。
―――「まるでフェスみたい」――――。
そうか、「三昧」は、「フェス」なのか。だから番組という形で音楽を共有し、一体感を感じられるのか。
リスナーに気づかされました。
しかも、これは本当に私の臆測に過ぎないのですが、HR/HM好きとして、同じような経験をしてきたみなさんが、ひとつになっていたと思うのですよ。
これまでの三昧のプレイリストはこちらから
「マイノリティー」であることが広げる世界
「どんな音楽聴くの?」
「ハードロックとかヘヴィメタルとか…」
「え、ヘビメタ(笑)」
何度繰り返してきたやりとりでしょうか。
何なんだ、その(笑)は。あとヘビメタじゃない、ヘヴィ(以下略)
…とにかく、メタルが好きというと、なんとなく世間一般の趣味とは違うのかな?と感じるような反応を受けることがあります。
音楽の好みとしては多数派ではないのかもしれません。まあ少数派ですよね、恐らく。
ひょっとすると「メタルは古い」とか「ダサい」とか、そのような印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし現在進行形のメタルはあまた存在していて、今の若者が聴いても「かっこいい!」と思える音はきっとあるはずです。
一方で、仮に「古くてダサい」部分があったとしましょう。でもね、そのダサいことも含めて愛おしいのです。
ヒットチャートにも上がってこないし、カラオケで歌ったら引かれることもよ~く分かっています。
でもね、いいじゃないですか好きなんだから。
「古い」ことも「ダサい」ことも構わず内包して、どんな感情にも寄り添い、少数派であることを堂々と受け入れる。この懐の広さと言ったらどうでしょうか。
それこそがHR/HMの魅力なのではないか、そして三昧では、そんなメタルを愛する人たちが集う場を提供することに、微力ながら携われていたのかなと感じています。
一つのジャンルを愛し、誰に何を言われても「好き」を貫いて、分かち合える仲間は多くなくても、時には仲間なんて1人もいなくてもやっぱり「好き」。
そんな人たちが集う「フェス」として「三昧」が機能していたのならば、実にうれしいことだと思うんです。
(誤解が無いようくり返しますが、古くもダサくもないメタルは無数に存在しています。ぜひ聞いてみて下さい!)
そしてこれは、「メタル」や「三昧」に限ったことではないのかもしれません。
ジャンルは何だっていいんです。
どんな番組でも可能だと思うんです。
同じものを好きなアナウンサーとして、みなさんに情報を提示し、一緒に楽しみ、寄り添えることがあるのだとすれば、それは自分たちの役割ではないか、大げさなことを言ってしまうと公共メディアとしてできることの一つなのではないかとも最近感じています。
それは管理職として、色々な「好き」に向き合ってきたからです。
管理職として見てきた、「好き」の大切さ
そう、恐ろしいことにこんな文章書いていても、私、管理職なんです。大丈夫ですかね色々と。
…ともかく、秋田局で部下として出会った若い仲間たちを見てきて、それぞれの「好き」は、多くの方と分かち合い、寄り添える物なのではないかと感じつつあります。
例えば、秋田局の大谷昌弘アナウンサー。
夕方のニュース番組「ニュースこまち」でキャスターを務める彼は、アイドル好きで、ラジオ番組ではアイドルのコーナ-を企画し、アイドルTシャツを着てくる人です。ラジオなのに。
特に乃木坂46のみなさんの熱烈なファン。
その思いがどこかに響いたのでしょうか。ことし2月に放送した「今日は一日“乃木坂46”三昧」の司会に抜てき。
多くのリスナーが注目する中で、乃木坂のみなさんのおしゃべりをサポートしました。好きな曲を選ぶのに丸2日かけていたのはやり過ぎだと思いますが、その愛がファン(オタ)にも伝わったなら嬉しいです。
(当日の本人の思いはこちらのブログに)
新人として秋田に赴任した浅田春奈アナウンサー(現・名古屋局)。
アニメが大好きで、いつかアニメに関わる仕事をしたいと言っていた浅田アナは、入局3年目にその思いを実現。
NHKが誇るアニメ作品を活かした「アフレコ」のイベントと番組を企画(2021年6月25日の欄が当日の様子です。) 高校放送部や声優志望の若者たちを集めて、プロの声優さんとともに開催。
本人が若手の仲間を集めて「やりたいんです!」と言ってから、ゲストのブッキングや権利関係の処理など、大変だったと思いますが、好きだからこそ熱意を持ってやれたのでしょうね。
何よりありがたかったのは、イベントに参加した高校生たちの反応です。
「地域にいるとなかなかこんな体験出来ないので本当によかった」「声優になる夢、がんばってみようと思えた」など。
誰かの「好き」を後押しする力になれたのではないかと思います。
そしてこの人。宮﨑慶太アナウンサー。
今は夕方の「ニュースLIVE!ゆう5時」のリポーターを務めておりますが、先ほどの記事にもある通り、無類の昆虫好き。
局内のみならず、ニュース番組でも虫への愛を熱く語るその姿、初めて目にしたときには驚きましたが、そこにあるのは確かな「愛」でした。
ああ、1ミリも理解できない話だけど、本当に好きなんだな、と秋田局みんなが感じていました。
でも本気の「好き」はきっと他の誰かに届くはず。
だからこそ多くの賛同者を得て、昆虫の番組やイベントを開催でき、こども達にも喜んでもらえたのだと思います。
今は渋谷の代々木公園でも虫を探しているみたいですが、いつか「香川照之の昆虫すごいZ!」に関われるようにがんばって下さい。
誰かの「好き」に寄り添って
管理職だーなんて言っていますが、別に私が何かしたわけではありません。
それぞれのアナウンサーが、他の人より「好き」なことを何かの形にした。
同じものを愛する人たちに届いた。
私は、はぁ色んな興味があるものだねえ、と見ていただけです。
ひょっとするとかつての私の上司たちも、メタルメタル言う私をこんなまなざしで見ていたのかもしれません。「あ、こいつセパルトゥラ使ってるな」ってバレていたのかもしれません。
でも、そんな仲間達を見ていて一応の管理者として思うことは、「好きな気持ち」を大切にした上で、そこから何かに貢献出来ることもあるのでは、ということ。
だって「好き」って最強の感情ではないですか?
「好きなこと」で日々の生活が少しだけ彩られます。
触れることでもうちょっとだけ頑張ってみようかな、と思えることもあります。そんな存在があるって実に素敵なことですよね。
一方で、これだけ趣味も嗜好性も多様化している時代。分かち合える仲間がそばにいないかもしれない。
でも全国、全世界を見渡せばきっとつながれるはずです。ネットに書き込むのもいいでしょうし、SNSでつながるのもいいでしょう。
そこにできることならNHKも寄与できれば。
そんなつながりに、我々NHKアナウンサーも携われたら。
全国には数多くのアナウンサーがいます。色んな「好き」を持った人材がいるはずです。
そんな私たちの趣味や興味や個性が、誰かに寄り添う手助けになるのであれば。
そんなことを若い部下達から教えられた気がしております。
みなさんの好きなものはなんでしょうか。そのどれかと私たちがつながる日が来ることを心から願っております。
というわけで、どなたかまずはスラッシュメタルでつながってみませんか。
吉田 一貴
▼NHK秋田放送局の情報はこちら▼
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