テレビ局の“引っ越し”!~てんやわんやの8時間57分30秒~
突然ですが、みなさんが緊急時に目にするニュース速報やL字放送に、みなさんが住んでいる土地の道路や天気などの情報が出ているのを見たことがあるでしょうか。
実は、その部分は全国にある各NHK放送局の担当者が出しているんです。
ちょっと前の話になりますが、ことしの3月に松江放送局が新しい建物に移ることになりました。
私たち職員のオフィススペースやスタジオはもちろん、視聴者のみなさんに速報やお知らせを出すための重要設備も全て引っ越しです。
もしも、その引っ越しの間に事故や災害など「なにか」が起きてしまったら…。
数十年に1度の引っ越しであろうと、もちろん放送や速報に1秒でも影響を与えてはなりません。
いつでも緊急放送をできるようにスタンバイしながら引っ越しを完了させるまで、一体どんなことが起きていたのか。
私が見た、経験した「テレビ局の引っ越し」についてお話しします。
はじめまして!
松江放送局でニュースや中継の音声、緊急放送設備(特に気象や速報関係)の運用・整備など技術業務を担当している細川です。
実は、島根生まれ島根育ち!
島根県はどこに行っても穏やかな人が多く、豊かな自然も大好きです。
そんな故郷のもっと深いところを知りたい、何か恩返しがしたい。そんな気持ちでNHKに入局しました。
念願かなって松江放送局が初任、関わった中継番組やイベントでは友人とばったり会えたり、局内では地元の話題が最前線で入ってきたり…!
私にとっての幸せがいろんな所にかくれている仕事です。
そんな私が入局した松江放送局の建物、通称“会館”は当時すでに築50年超え!
また、最近全国各地で相次ぐ災害を背景に、地域の安全を守る放送を出し続けることのできる“災害に強い放送局”を目指し、新しい会館に引っ越すことになったのです。
しかし引っ越すと言っても、ほぼ毎日24時間電波を出している放送局なので、そう簡単にはできません。引っ越し当日は100人以上のスタッフがかかわる大規模なものとなりました。
※ちなみに島根県内で全国放送の番組を放送している時間も、電波自体は松江放送局を通して出ています。
島根県内のテレビに映る「NHK」の番組は、全て松江局を介した電波によって放送されているんです。各ご家庭のテレビが映るまでの流れはざっくりこんな感じです。
放送を続けつつ、何か起こった場合にも対応できるよう引っ越しを行うことが大事なミッションとなりました。
使えるものはできるだけ使う!
さらに、新しい会館には、できるだけ古い会館で使っていた機器を運び込みます。大切な受信料で購入した機器、「使えるものはできるだけ使う!」の精神です。
その中で私は、20近い機器の移設を担当することになりました。
・島根に関わるニュース速報を出すための機器
・地震速報を受け取ってスーパーするための機器
・地震発生時、即時に震源地と震度を含む静止画を作成する機器
・「L字」と呼ばれる、番組の映像を縮小し、常時文字情報を出し続ける機器
・緊急時、アナウンサーが読み上げる原稿を即時に表示する機器
・災害時の避難所やライフラインなどの情報を入力して放送する機器
・台風の進路をコマ送りで作画する機器
・天気予報で使用する気象画面を自動作画する機器
・これらの機器を監視し、異常を知らせてくれる機器
など、ずらずらっと列挙しましたが、どれもみなさんの生活を守るための情報を出す大切な子たちです。
(日々機器と向き合い続けるうちになんだか愛おしく思えてきてしまい、心の中では「この子たち」と呼んでいました)
これらの機器を、いつ取り外すのか。引っ越しより前に取り外すとしたら、その役割をどう他のもので補うのか。また、新会館にはどのような系統で設置するのかなど、計画を考えるのは、まだ経験も浅いわたしには大変なことばかりでした。
しかも、刻一刻とリミットは迫ってくるのですから…(>_<)
いよいよ引っ越し!
そしてなんだかんだありながら準備を進め、代替機に交換できる機器は事前に新会館へ運び…、そして、いよいよ引っ越し当日!
引っ越しは、旧会館から最後の島根県内向け放送「さんいんNEWS645」が終わる夜7時から、新会館での最初の放送が始まる深夜3時57分30秒までのわずか9時間弱!
それまでに、機器を運び込み、そして1つ1つの機器の接続や動作を確認して放送に備えるという作業を終えねばなりません。
限られた時間でわたしの担当部分の作業を終わらせるために力を貸してくれたのは広島放送局からの助っと・前田珠緒さん。
緊急放送設備を担当している大先輩です。
この日を迎える準備段階でも、幾度となく助けてくれました。
19:00
まずは旧会館での最後の島根県内向け放送「さんいんNEWS645」が終了。
これをもって引っ越し作業のスタートです!
19:30
県内向けの放送に使っていた機器は、旧会館での役目を終えました。
次は、ついにそれらを新会館へ運びます。
移設後はすぐに動作チェックをしなければ新会館での初放送に間に合わないため、それぞれ5~6キロある機器を、急ぎつつも、ていねいに、確実に運び入れます。
21:00
設置作業開始。ひとつひとつ前田さんと間違いのないように複眼チェックしながら設置し、ケーブルと接続していきます。
22:30
1時間半かけて設置は完了。
私が担当する20近くの機器が正常に動くか、チェックリストで(それぞれ20項目以上!)、ひとつひとつ確認します。
23:30
私が担当する機器のチェック完了!
一安心で気を失いかけましたが、休む間もありません。
次は、新会館に総勢100人以上のスタッフで設置した機器が連携して放送が正しく出せるか、これまたチェックリスト(30項目以上!)で確認です。
そして、ハッと気が付いたら・・・
24:22:40
旧会館から出していた放送が終了!😭
新会館では準備が整うにつれ緊張感が高まる中、
旧会館からの電波は役目を終え…
27:57:30
新会館から初めての松江放送局コールサインと県内向け放送!
初放送への緊張感で静まり返る中、新会館からの放送が無事スタートしました。
自然とわいた拍手、この日のために作成された開始映像(県内向け放送が始まるとき、最初に流す映像)は、今でもまぶたに浮かびます。
その後…
その後は今日に至るまで、毎日、「しまねっとNEWS610」など県内向けニュースや番組はもちろん、緊急速報も新会館から滞りなく出し続けています。新会館を使った公開番組も数多く収録し、たくさんの方に楽しんでいただくことができました。(これからも公開番組の予定はめじろ押しです!お楽しみに!)
わたしが移設に携わった「緊急放送設備」も、順調に日々稼働しています。今後も正確な情報をいちはやく皆さん届けるために、わたしはこの子たちと一緒に役目を果たしていきたいです。
このようにわたしにとって壮大で壮絶な経験となった会館移転。
放送を出し続けることの重要さやいろいろな放送設備のこと、深く身をもって知りました。
大変なこともたくさんありましたが、新会館への引っ越しのタイミングで松江局に配属になったこと、重要設備の移設に関われたこと、とってもいいチャンスをいただいたと思っています。
島根県は、山、海、湖、田んぼ、畑など、自然に恵まれた地域。
わたしが整備を担当している気象情報などは自然と向き合って仕事をする人たちに大きく関わることだと感じています。
地域の人たちにとっても、松江放送局からの情報が重宝されるよう、今後も確実な発信に取り組んでいきます!
島根県民のみなさまはもちろん、県外の方も観光にいらした際はぜひ、松江放送局にお立ち寄りください!(3階、展望テラスから美しい宍道湖も一望できます!)
松江放送局 細川 理紗子
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