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“のど自慢”撮影チームがコロナ禍で考えていたこと

日曜お昼は、のど自慢~!!

のど自慢は、70年以上続いてきた長寿番組です。
全国をくまなく訪ね、地元の視聴者に参加いただく日本の日曜お昼を象徴する番組です。

合格の鐘が鳴ると司会者に抱きついて喜ぶ出場者がいたり、憧れのゲストに握手を求める出場者がいたりと、人と人が直に触れ合う温かい場面がたくさんありました。

しかし、ここ数年で少し変化がありました。

以前からのど自慢は複数台のカメラ・複数のカメラマンによって撮影していますが、実はコロナを経てパワーアップして、今があります。
毎週お昼の生放送がどう撮られているか?
カメラマンの目線でお伝えします。


エンターテインメント番組のカメラマンになるまで

こんにちは。
カメラマンの佐近佳乃子です。
私は2022年度、のど自慢の撮影チーフを1年間担当しました。
コロナが流行してから2年が経ち、ちょうど毎週コンスタントにのど自慢を開催できるようになったタイミングでした。

画像 筆者

「目の前で起こっていることを、カメラを通じて視聴者に伝え、多くの人の心を動かしたい…」
そんなおもいから、私はカメラマンを志望して2018年に入局。
初任地の大阪局でさまざまなジャンルの番組を担当する中で、わたしが特に楽しさを感じたのは歌番組でした。

ロケ撮影は基本的に1人のカメラマンが1台のカメラで撮影していくのに対して、歌番組は複数人のカメラマンが集まり複数台のカメラで撮影していきます。

曲の世界観やアーティストの魅力、演出の狙いをより興味深く見せられるよう番組の流れに合わせた台本(カット割り)があります。
この台本に書かれたカット割りを各カメラマンの感性によって表現し、スイッチャーが切り替え、一連の放送映像にしあげます。

自分が担当するカットをどう描くか考えるのはもちろん、視聴者のみなさんに違和感無く見てもらえるように他のカメラマンが撮る映像も終始確認しながら撮影します。

「おっ、こんな風にズームするんだ!曲の流れが止まらないように、私もズームの勢いを合わせて撮ろう」

など他のカメラマンの画を見て次に撮る画を変えたり、それがまた別のカメラマンの画に影響を与えたり。
それぞれがそれぞれの発想と判断によって描いた画をつなぎ合わせた映像表現は、事前に用意していたカット割り以上の効果をもたらしていると思います。
これが、歌番組撮影の難しくて、おもしろいところです。

もっと経験を積みたい!と思い、2年前からは東京で歌番組を中心に撮影を担当しています。

「のど自慢」のカメラマンの仕事


目の前の感動をチームで撮影して届ける。
そんな私のやりたかったことが全部詰まっているのがのど自慢でした。

プロのアーティストが出る通常の歌番組と異なり、基本はアドリブ撮影です。
視聴者のみなさんが参加する番組なので、リハーサルと異なる歌・パフォーマンスになることが多く、カット割りを決めるより、本番で起きた一瞬一瞬のできごとに反応して各カメラマンが撮っていった方が魅力的に見せられるのです。

カメラマンがその時感じたものを瞬時に切り取り、その中からスイッチャーが選択し、一連の映像に繋いでいく。それがのど自慢の撮影スタイルです。
(ただし、ダンスやグループ出場者の歌い分けがある時などは、頑張って練習したであろうその様子を確実に届けるため、カット割りをして撮影することもあります。)

使用するカメラは5台、5人で操作します。
開催地によって担当する放送局が決まっており、私は関東甲信越で開催される際に撮影しています。

5人のカメラマンはのど自慢を何度も担当したベテランから若手まで、ふだんはドキュメンタリーなど他分野を担当しているカメラマンなどもいます。
ですので、若手やはじめてのど自慢を担当するカメラマンに基本的なノウハウから幅広いスキルまで伝えています。

日曜日の本選(生放送)に向けて、土曜日に予選会が行われ、出場者が決まるとその日の夜に、撮影チームでは検討が行われます。出場者一人一人をどう描くか?
それぞれの出場者の魅力・見せ方を、撮影チーフを中心に、チーム全員で検討し、最終的に皆の意見をチーフがまとめて日曜日に備えています。

画像 撮影の様子

のど自慢は、歌唱とMCを通じて、出場する皆さんの想いや個性、開催されている地域の魅力などを伝えることを目指しています。
出場理由はさまざまです。
単純に歌がうまくて合格の鐘を鳴らしたい人、想いを歌で伝えたい人、ゲストが大好きでゲストに会いに来た人…

私たちは、本番前に応募履歴にある年齢・職業・出場理由を撮影チーム全員で熟読しながら撮り方を話し合います。
例えば、出場理由が「テレビの向こうにいる故郷の両親に感謝を伝えたい」という時。
私たちは、歌(歌詞)を聞き、メッセージ性の強いサビ部分はカメラ目線になる正面のカメラのアップで伝えたいなどイメージ共有します。

他にも、親子や兄弟、親友同士で一生懸命練習した歌や踊りで出場する方々の時。
2人で息を合わせるタイミングは2S(ツーショット)で見せたいよね、とか。
地元の農産物を育てる農家さんが出場した時は、農作物を大事に手で持っている様子が分かりやすいこのアングルの画を大事に見せていきたいね、とか。
90歳のおじいちゃんが歌う時は、元気な立ち姿が伝わるよう全身が映るカットをいれよう、とか。

どう描いたら出場するみなさんはうれしいか?想いが伝わるか?を検討し、本番その瞬間に感じたことを映像化しています。

のど自慢は、歌や踊りのパフォーマンスがあるため、エンターテインメント性の強い番組に見えますが、実はそれだけでなくドキュメンタリーの要素も強いのです。
出場者にとって一生に一度の思い出。
その重みを常に感じながら撮影をしています。

コロナ禍の「のど自慢」


そして、去年1年間、私は撮影チーフとしてカメラマンの意見をまとめる役割を担うことになりました。それまでのさまざまな試行錯誤により得たノウハウを引継ぎ、よりブラッシュアップして、“コロナ禍”のど自慢のベストを追求したいというような想いで臨みました。
そして、人と人との距離があっても、これまでと変わらない「のど自慢」のぬくもりを、視聴者の皆さんに画面を通して届けたいと思っていました。

新型コロナが流行し始め、始めの2年間は、そもそも番組の開催自体が厳しく、中止が相次ぎました。
が、徐々に「コロナ禍ののど自慢」として演出を工夫しながら開催できるようになっていきました。

出場者がステージ上に全員並ぶと密になるため、出番までは間隔をあけて客席に座ってもらうことになりました。
また、出場者・アナウンサー・ゲストそれぞれディスタンスを確保しながらステージに立って歌唱とトーク。

さらに客席も満席にはできず、人数をしぼってお客さんに来ていただくようになりました。

画像 客席

これまで通りに撮影しようとすると、人と人との距離ばかりが目立つ、なんだか寂しい印象の画となってしまう…出場者にとって一生の思い出となるのど自慢を温かい映像で記録するために、試行錯誤を始めました。

そこで、まず私たちが始めたのが「のど自慢」を担当するスイッチャー・撮影担当者による継続的な意見交換です。
実はこれまで全国で統一したノウハウはなく、各地で試行錯誤しながら取り組んでいた のど自慢の撮影。
初めてそれを共有して、みんなで映像表現について考えるようになったのです。

局内チャットツールには、担当者により意気込みなどが毎週書き込まれるようになりました。
そして、放送を見た全国にいるスタッフが気軽に感想を送り合うようになったのです。

また、数か月に一回、全国にいる担当者をオンラインでつなぎ、各地域放送局の独自の制作ノウハウ、新たな映像表現手法について議論するようにもなりました。

例えば…

議題(1)複数人の出場者のグループショットをなるべくタイトに撮りたい

2人組の出場者がいた時。
両者の距離は、今までののど自慢と比べて離れています。
今まで通りの位置(下図②)から撮ると、両者の距離が目立ってしまいます。

カメラと撮影対象の図式

しかし、①のハス(斜め)から撮れば、人と人の距離を感じさせないタイトめの画作りが可能になります。

比較画像

ただ、①のカメラで撮ると、手前にいる司会者が前に乗り出した時に出場者とかぶってしまうことが多くありました。

番組画像 出場者と司会者

なるべく被らないようなカメラポジションで撮る必要がある…出場者がしっかり見えることを優先し、被る時は②で見せる…といった議論をしながら、寂しい画にならない工夫を重ねていきました。

議題(2)より温かい画が撮りたい

一生懸命歌う出場者を舞台上のほかの出場者が暖かく見守る…というカット、コロナ前ののど自慢あるあるでしたが、前述の通り撮れなくなりました。
代わりに画面上で見守って応援する役目を果たしてくれたのが毎回のゲストです。
この2人をできるだけ画面に多く入れ、温かい印象を作るために、さきほどと同じ理屈で①の位置から狙うようになりました。

カメラと撮影対象の図式

①のようにハス(斜め)から撮ると、②の位置から撮るより、後ろにゲストが多く映りより温かい印象の画になります。
ただ、出場者は基本的に客席を向いて歌っているので、①から撮ると横顔になってしまうことが多いのです。
横顔だと髪型によっては目が隠れてしまったりして、表情が見えづらいことがあります。

比較画像

でも逆に、横顔が素敵すてきな出場者もいますし、①の方が外側に座っているゲストの表情も見えやすい画が撮れるので、ゲストが好きで出場している方には喜んでもらえるかもしれない。
などと、①の画を活かせる効果的なタイミングを探っていくようになりました。

このように、当たり前のことではありますが、出場者 によって何を見せたいかを考え、一つ一つ使い分けていくことが大事でした。

全国で意見を出し合ってみんなで番組づくりをしているうちに感じたことがあります。
それは、出場者に寄り添い、出場者に喜んでもらえる映像を追求し、本番その瞬間に感じたことを丁寧に映像化していくということ。

結局は、これまでと変わらないそのマインドが、長年親しまれてきた番組の魅力に繋がっていました。
全国のカメラマンが同じ方向を向き、のど自慢ひとつからたくさんの意見が生まれたことで、コロナ禍で物理的な距離こそありましたが、新たな手法によって人と人の心のつながりや温かさを届けられたと思っています。

家族や友達同士で楽しそうに歌う出場者、伝えたい想いがあふれ出て涙ぐむ出場者、憧れのゲストを前に興奮する出場者、気持ちよさそうに歌う出場者、照れながら客席ご家族に感謝を伝える出場者…
私自身、1年間いろいろな出場者を撮影していて感じたこと。
それは、この番組があるからこそ伝えられる想いがあり、それによって人と人の心の距離が縮まっている。
また、たくさんの夢を叶えられる場でもある。
ということです。

コロナで、人と人との距離が生まれ、希望が見えない日々を過ごしていた視聴者が元気をもらえた番組だったと思いますし、これからもそんな番組であってほしいと思います。

「のど自慢」の次なるチャレンジ

そして今。
コロナが落ち着き、再び出場者はステージ上に並ぶことができるようになりました。
コロナを機に始まった全国的な議論は今も継続して行われていて、みんなで意見を出し合いながら、視聴者の皆さんに何ができるかを追求し続けています。

全国のカメラマンで一丸となって、これからも日曜お昼に温かい番組を届けていきます!
今後も「のど自慢」をよろしくお願いします !

カメラマン 佐近佳乃子

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