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障害のある子どもへの防災教室で、わたしたちアナウンサーが教わったこと

災害時、命を守るために最も大切なのは安全な場所にいち早く避難することです。
でも、それが難しい。「大丈夫だろう」と思ってしまったり、情報が届いていなかったり。中には、空振りは嫌だと考える人もいるかもしれません。

ただ、私がこれまでに取材した東日本大震災や関東・東北豪雨、熊本地震、九州北部豪雨などの被災地で何度も耳にしたのが「まさか」と「避難や備えが大事」という言葉でした。
「避難に空振りはなく、いざという時のための素振りだ」と強調する方もいました。

では、被災経験がない人に、どうすれば危機感をもってもらい、行動してもらうことができるのか。
その背中を押すのは、“身近な人が発することば”だと私たちアナウンサーは考えています。
そこで、大切な人への“呼びかけ”を考えてもらう防災教室を、全国の学校などで行っています。

今年度、初めて聴覚や視覚などに障害がある子どもたちに向けて教室を開きました。私たちは講師として学校を訪れましたが、実際に多くを教わったのは私たちの方でした。
その学びや気づきをぜひお伝えしたいと思い、記事を書き始めました。

アナウンサーの瀬田宙大ちゅうだいです。
長崎局、「たっぷり静岡」キャスター、「あさイチ」リポーター、「ほっとニュース北海道」キャスターを経て、現在は福祉番組「ハートネットTV」の司会などを務めています。

番組写真
11月放送の特集「認知症と行方不明」ご出演の皆様と

「ハートネットTV」は、病気や障害、LGBTQ+、生活困窮、生きづらさを抱える人など、すべての人がありのままで幸せに暮らせることを願い、月間特集やフクチッチ、虹クロ、私のリカバリー、#ろうなん、手話で楽しむみんなのテレビなど、多種多様なコンテンツをお届けしています。

防災教室で話す様子
「#ろうなん」司会の中山アナとリポーターの池間アナ

私のほかにも「ハートネットTV」には、中山果奈アナウンサーと池間昌人アナウンサーも携わっています。

今回はこの3人で、ろう学校・特別支援学校・盲学校での防災教室を行いました。

「NHKアナウンサーの防災教室」とは

防災教室で軸になるのは、避難を後押しするために私たちがテレビやラジオで行っている「命を守る呼びかけ」です。
事実を淡々と伝えるだけではなく、落ち着いて、確実に命を守る行動をとってもらったり、緊急度が高い時には強く避難を促したりするために私たちが発する言葉のことです。

例えば、巨大な津波が迫っている場合は強い口調でこのように呼びかけます。

「今すぐ可能な限り高いところへ逃げること!
近くに高台がなければ高いビルや、海岸から遠く離れたところに逃げること!」

声のトーンや語尾から、緊急性を感じ取ってもらい行動に移してもらおうというものです。アナウンス室では、取材や勉強会を重ねて、災害ごとに「呼びかけ集」を策定。
放送だけではなく、地域の防災・減災にも役立てていただこうと、ウェブサイトでも一部公開しています。

防災教室では、参加者のみなさんに、呼びかける人(保護者・友人など)を具体的にイメージしてもらった上で言葉を考えてもらいます。
もちろん誰かに呼びかけるためには、自らの安全が確保されていることが大前提となるので、周囲に避難を呼びかけながら自ら率先して避難することで周りにいる人の行動を後押しする率先避難の重要性なども一緒に学んでもらい、防災意識向上を目指しています。

生徒たちが置かれている状況を知ってほしい

今年度、全国の学校に実施希望を募りました。
すると、ろう学校・特別支援学校・盲学校からも応募が。
これが、全ての始まりでした。

これまで防災教室では、障害がある児童や生徒に向けて本格的に授業を行ったことがありません。
実施可能なのか。実施する場合にはどのような準備が必要なのか。
ことし5月、私が事務局となり模索が始まりました。

まず連絡をとったのは、愛知県立名古屋ろう学校。
対応してくださったのは中学2年生担当の伊関佳枝さんです。

カメラの前で話す伊関さん
名古屋聾学校 伊関さん

私は伊関さんと話をしながら、「必ず実現させる」と心に決めていました。
大きな理由は、電話で伺った応募動機にあります。
当時の取材メモにはこう記されています。

★生徒たちには守られるだけ、待つだけではなく、災害時でも自ら主体的に情報を獲得し、行動できるようになってほしい。
★災害時に情報弱者とされる人たちの思いを伝え手の人たちにも知ってほしい。

「私たちでお役に立てるのであれば、ぜひ」。
そう強く思ったことを覚えています。

“情報保障”を学ぶことからスタート

生徒の皆さんは、人工内耳や補聴器をつけて会話する人もいれば、手話でやりとりする人もおり、聞こえの程度はさまざまです。
そこで課題となったのが“情報保障”――。
障害に関わらず、その場にいる人が同質・同量の情報を受け取れるように準備をすることです。
今回の場合、音声で会話する生徒には、分からない部分を補う字幕表示が。手話でやりとりする生徒には、字幕に加えて手話通訳が必要です。

生徒たちにきちんと情報を届けるためには、私自身が理解を深めなければ…。
そこで、あるNHKのイベントにスタッフとして参加させてもらいました。

イベントの様子
「NHK手話ニュースキャスターがやってきた!in府中」

6月に東京・府中市で行われた「NHK手話ニュースキャスターがやってきた!」です。
私は会場に行くまで、字幕や手話にばかり意識がいっていました。その浅はかさを痛感することになります。
スタッフは、お客様が入る前に全ての席からステージを見て、画面が見えにくくないかを確認。直前まで椅子の配置を変えていました。
同質・同量を強く意識して会場設営にあたっていたのです。
さらに、会場の音声司会者と手話通訳者が息を合わせる打ち合わせやリハーサルを入念に行うなど、事前の確認が欠かせないこともよくわかりました。
まさに百聞は一見にかずです。

学んだことを実直にやってみた

筆者と生徒たち
名古屋聾学校での授業の様子

およそ4か月の準備を重ねて迎えた、授業当日。
私たちがまず行ったのは“情報保障”の確認でした。

  • 手話通訳者の立ち位置はアナウンサーの隣とモニターの右隣のどちらがいいか

  • 説明する音声の即時字幕は画面の上下どちらに表示するのがいいか

  • 話者や手話通訳者、モニター画面と生徒との距離感が近すぎないか

  • 私のしゃべるスピードは速すぎないか など

その結果…

  • 字幕は慣れていることを理由に画面下に表示を希望

  • しゃべるスピードは問題なしだが、大きな声でお願いしたい(人工内耳や補聴器を利用する生徒)

この2点はすぐに合意がとれました。
一方、手話通訳者がどこに立つのかや、机の配置は意見が分かれました。
手話を特に必要とする生徒の声を大切にしながら、半円状に並んだ机や手話通訳者の立ち位置を微調整。生徒全員の納得を得ることができました。
私たちにノウハウがないからこその確認だったのですが、「こうだろう」と決めつけたりマニュアルに頼りすぎたりせず、その場に集まったメンバー構成で最もよい環境は何かを話し合うことから始めることの重要性を強く感じました。

今回の防災教室では、スマートフォンを一緒に操作して、ハザードマップの確認も行いました。
事前に先生方に伺った「生徒たちには守られるだけ、待つだけではなく、災害時でも自ら主体的に情報を獲得し、行動できるようになってほしい」という、防災教室への期待に応えるためです。

スマートフォンアプリの手元
ハザードマップをスマートフォンアプリで確認

自治体のホームページや国土交通省のウェブサイトなど、ハザードマップの調べ方は複数ありますが、今回は「NHKニュース・防災アプリ」を活用しました。
全国の洪水や土砂災害のハザードマップやNHKのニュースを映像や文字で確認できるほか、避難情報などをプッシュ通知で受け取ることができるアプリです。

※ハザードマップは絶対ではありません。
危険が示されていない地点でも災害が起きることがあります。その点はご留意ください。

呼びかけを考える生徒たち

その後、友だちへの避難を促す“呼びかけ”を考えてもらったのですが、まだスマートフォンを見つめているグループが。
聞くと、「ハザードマップで危険性を確認しながら呼びかけを考えていました」とのこと。頼もしいです!
こうして出来上がった“呼びかけ”。その一部をご紹介します。

【生徒たちが考えた“呼びかけ”】

▼みんなへ。卓球部と美術部にいたよね。もし土砂災害が起きたら大好きな卓球や絵を描くことができなくなってしまうかもしれないよ。いま、この瞬間、災害が起きてもおかしくない状況だよ!自分の命を守る為にも、今すぐ逃げて!!

▼〇〇君、一緒に買い物に行くって言ったよね。もし被害にあったら買い物ができなくなるよ。街の水が流れてきたら家の二階や屋根に逃げてください。

▼〇〇くんへ。サッカーなどが上手で、サッカー選手になりたいって言ったんだろう。あなたの活躍を期待したいから、早く命を守ろう。共に生き抜けよう!

発表する9人の生徒たち
考えた呼びかけを発表するろう学校の生徒たち

自分をよく知る人からの呼びかけということもあり、呼びかけられた生徒は「避難しようと思った」など行動につなげたいと感じたと話していました。
関係性が強い相手の言葉は避難の後押しにつながるということを改めて強く感じました。

“呼びかけの呼びかけ”をより重視していきたい

私たちも、もっともっと放送における言葉を探さねばならないと思いました。

中山アナウンサー

そう話したのは、日曜・祝日の正午ニュースなどを担当する中山果奈アナウンサーです。
短時間で、相手に届く言葉を紡ぐ生徒たちを目の当たりにし、そう感じたといいます。
その上で、このように強調しました。

身近な人に危険を知らせてもらう“呼びかけの呼びかけ”をもっと重視していきたい。

災害時、私たち報道機関や自治体、気象庁などは命を守るための情報をお伝えしています。しかし、必要な人たち全員に必ずしも伝わっているとは限りません。
“呼びかけの呼びかけ”は、情報をキャッチした人が、知人・親戚などに気持ちを込めて情報を伝えることで一人でも多くの人の命を守ろうという考えです。

正しい情報で、みんなで命を守る。
誰もが発信者になれる時代だからこそ可能かつ重要だと再確認していました。

それを実現させるためには、防災教室のような取り組みを通じてひとりひとりの防災意識を高めることが欠かせません。
画面に映るアナウンサーが、放送も防災教室も担う意義をこの時、感じていました。

熟語に頼りすぎていたかもしれない…

“呼びかけの呼びかけ”を広げる上で大切な気づきが、横浜市立上菅田特別支援学校での防災教室にありました。

上菅田特別支援学校は、主に肢体不自由のある子どもたちが通う学校です。肢体不自由と併せ、そのほかの障害や病気がある児童生徒も多く、体調面に配慮しながら学習に取り組まれています。

私たちが授業を行ったのは中学1年生から3年生までの7人です。
実施希望を寄せてくださった中本尚子先生は、防災教室への期待をこう話していました。

特別支援学校には肢体に不自由がある生徒が多く、避難するにもリスクを伴う生徒たちも通っています。
ふだんの体験も制限されがちな生徒たちに災害の怖さを正しく理解してもらい、防災を自分事として捉えるきっかけにしたいと考えています。

並んで話す様子
防災教室に応募した中本さんと中山アナウンサー

そこで私たちは、情報量たっぷりの教材をもって打ち合わせに臨みました。実際の授業がイメージできるようプレゼンしていると、中本さんの表情が曇っていきます。

熟語やなじみが少ない用語が多いと感じました。
生徒たちは知的な遅れ、生活体験(実体験)の不足などから、語彙力に大きくばらつきがあります。
正しく怖がり、理解を深めるためにも言葉ひとつひとつ、もっとかみ砕いて表現してもらえるとイメージしやすく、記憶に残ると思います。

確かに、熟語に頼りすぎていたかもしれない…。

その反省から、用語の意味を分かりやすく説明したり、映像を止めたり、複数回再生したりしながら丁寧に解説するなど、内容を大きく変更しました。

画面を見ながら説明する中山アナウンサー
9月 上菅田特別支援学校での授業の様子

例えば、「決壊」という言葉。
辞典では「(堤防などが)切れてくずれること。また、きりくずすこと」とあります。

事前の打ち合わせで、映像を見せながら行った説明はこうです。

映像にあるように堤防が決壊すると、大量の水が一気に住宅街に流れ込みます。その流れは速く、大河川ほど被害が甚大になり、長期化する恐れがあります。

一方、実際の授業では以下のように表現しました。

映像のように、川と家がある場所を区切っているものがあります。堤防です。そのため、川の水は家のそばにはきません。
しかし、長い時間雨が降ったり、短くてもたくさん雨が降ったりすると川の水が増えます。あふれて、家の方にくることがあります。
さらに、増えた水の力で堤防が壊れてしまうこともあります。一か所でも壊れてしまうと、家のそばまで水がやってきます。しかも一気に、たくさん。水が流れ込んできた後に避難するのはとても難しいです。長い間、家から出られなくなる可能性もあります。
それが「決壊」、あるいは「堤防の決壊」の恐ろしさです。大きな川であればあるほど、影響が長く続く可能性があります。

防災教室の目的は、避難の大切さを理解してもらうこと。そして、もしものとき、身近な人たちに避難を促す仲間になってもらうこと。
そのためにも「知っているであろう」と熟語に頼りすぎることは最も避けなければならないと感じました。

生徒の熱を高めた寸劇

特別支援学校の先生方からは、もう一つ提案をいただきました。
“呼びかけ”を考えてもらう際に寸劇をとりいれるというものです。
先生が、避難しない人をユーモアを交えて演じることで、初めて接するアナウンサーに緊張しているかもしれない生徒を和ませることと、具体的な場面を設定することで呼びかけを考えやすくすることが狙いです。

寸劇の設定はこうです。
山のすぐそばに住んでいる先生。テレビやラジオでは「すぐに避難を」と呼びかけられていますが、「今までも大丈夫だったから平気でしょ」と言ってテレビを見ながらお茶を飲んでいるというものです。

先生:美味しいお茶が入ったからゆっくり飲もうっと。外は雨が激しく降っているけど…あ、茶柱が立ってる!いいことありそう。
雨、いつやむのかな。家のそばに崖があるけど、これまでも大丈夫だったから、今回も問題ないでしょう。雨もそのうちやむだろうし。
テレビでも見ようかな。ピッ。中山アナウンサーだ。

中山アナ:横浜市のみなさん、横浜市はいま経験したことのない大雨になっています。特に山や川のすぐそばに暮らしているみなさんは避難所や親戚・友人の家など安全が確保できる場所に避難してください。

先生:あれ~「のど自慢」の時間なのにまだニュースを放送してる。
避難、避難って言っているけど、本当にそんなに大変な状況なのかな。う~ん…いままでも大丈夫だったし、もう少し様子をみようかな。
お茶のおかわりでも飲もう。

寸劇の様子
避難せず、お茶を飲む人を演じる教諭

すると、それまで緊張気味だった生徒たちは次々に
「お茶飲んでる場合じゃないよ」「まずは外の様子を確認して」「ちゃんと逃げて」「危ないよ」「危険、いいから安全な場所へ」などと、
演じる先生に対して言葉を送っていました。

災害時の“呼びかけ”のあり方について取材するなかで、「災害時こそ、理由うんぬんよりも何をすればいいのかを端的に伝えてほしい」という要望をいただいたことがあります。
生徒たちの声かけは自然とそうなっていたことにも気づきがありました。

【生徒たちが考えた“呼びかけ”】

▼早くお茶を飲むのやめた方がいいですよ。山が崩れるかもしれない。危ないので早く避難したほうがいいですよ。早くしないとみんなが心配しちゃうと思いますよ。
▼崖があるからワンチャン(ワンチャンス)逃げて!ワンダフルな先生に(また)会いたいよ!大好きだよ。
▼(川のそばに住んでいる想定の先生に対して)悩んでいる間にもう危険な状態になっちゃったよ。車でほかの場所に避難するのではなく、早く家の中で一番高い階に避難して。


集合写真
上菅田特別支援学校の生徒と教諭のみなさん

なお、今回はギリギリまで避難をしようとしない相手を想定して“呼びかけ”を考えましたが、本来は早めに避難することが大切です。

障害がある人たちに向けた避難方法などの情報は『ハートネット』のサイトに詳しく記載がありますので、よろしければご覧ください。

大切な人を救う“呼びかけ”と、自分自身を守る“声出し”

身近な誰かを救う前に、まず自分自身を守るために自ら声を上げられるようになることの大切さに気づかされた機会がありました。
11月に愛知県立岡崎盲学校で開かれたイベントで実施した防災教室でのことです。

イベントの様子
盲学校で開かれたイベント「科学へジャンプin岡崎」

愛知・岐阜・三重・静岡の4県から20人が参加し、保護者らと相談しながら“呼びかけ”を考えました。

【児童・生徒が考えた“呼びかけ”】

▼川があふれるかもしれないから逃げて!強がってもカッコよくねーぞ!
▼流されて死んでしまうよ。助けられないかもしれない。大切な友達だから生きてほしい。もう一緒に話したり、遊んだりできなくなるよ。
▼川が氾濫して、家が流されるかもしれない!土砂、木、水が家の中に入ってくるかもしれない!床上・床下浸水するかもしれない!みんなそろって、また学校で遊びたいから助かって。みんな笑顔の日々を過ごせるように願うから。

こうして呼びかけを考えてもらうことができて、ホッとしました。
私たちの教材は、映像を通して災害への理解を深めてもらうなど、見えることを前提につくられています。
見えない人も参加する中で、どのように防災教室を行えばいいか…最も準備に時間をかけたからです。

教材のアレンジなど、私たちにヒントをくれた人がいます。
イベントの実行委員・青柳まゆみさんです。愛知教育大学の准教授で、視覚障害教育や障害学生支援などの研究を行っています。

イベントで呼びかける
防災教室に参加する青柳まゆみ准教授

8月、青柳さんとの初めての打ち合わせで、ある指摘を受けました。

視覚に障害があると周囲の変化や異変に気がつきにくいため、災害時に避難が遅れてしまうなど難しさを抱えています。
周囲を助ける“呼びかけ”も大切ですが、視覚障害者はそれ以前に、自分に助けが必要なことを周りの人に伝えることができるかどうかが重要だと思います。

私たちの防災教室は、“呼びかけ”を考えることで命を守る仲間を増やすことに重きを置いています。しかし、障害のある人向けに行う場合は、自らを守るために知っておくべきことも同等に扱うべきではないかという問いかけでした。
この指摘に大きくうなずき、プログラムに取り込むことにしました。

参加した児童・生徒には、ひとりで初めて訪れた場所で大雨に遭遇したという想定で、周囲に助けを求める言葉も考えて発表してもらいました。
すると「助けて」と繰り返す、あるいは大きな声で叫ぶという回答が寄せられました。

その声を受けて、青柳さんは参加者にこう呼びかけました。

「助けてください」と伝えるのは大切ですね。
ただ、その声を聞いた人が「何をしたらいいんだろう」「どうお手伝いしたらいいのかな」と考えてしまったり、躊躇ちゅうちょしてしまったりすることがあるかもしれません。
だからこそ「どうしてほしいのか」まで伝えることで「それならできる」「思ったよりもやさしい内容なんだ」と感じてもらうことが大事だと思います。
これらを踏まえて、私なら「私は目が見えません(見えにくいです)。でも、歩けます。手をつないで(ひいて)ください」と言います。
とっさに声はなかなか出ないものです。
ぜひシミュレーションをしてください。そして、大きな災害が起きる前にリハーサルのつもりで、練習してみてください。

聞き入る参加者たち
「ぜひシミュレーションを」と参加者に呼びかける青柳さん

周囲に助けを求める声出しプログラムについて、子どもたちと一緒に参加した保護者のみなさんからはこのような声が寄せられました。

•周りの状況がわからず不特定多数の人がいる中で声を出すことを苦手としている子どももいる。学校でも同じような練習をすると聞いているが、知らない人が多く参加する場で練習する機会はあまりないと思うので有効だと感じた。
•ふだんの生活でも助けを求めることは重要。大きな横断歩道を渡る時や、バス停で時刻表を確認しなければならない時にも応用できると感じた。

さらに、日常生活の中で困っていることや、もう少し理解が広まってほしいと感じていることについても教えていただきました。

•周囲が騒がしいと状況把握に必死で、声を出す、言葉を考えるのが難しい時がある。黙っているのではなく、理解を優先していることを知って欲しい。
白杖はくじょうを持っている人というイメージが強いが使用していない人もいる。持っていないことで気がつかれずに助けてもらえないことがある。
•弱視の人の見えにくさは、健常の人達が考える“見えにくい”よりもずっと見えていない。例えば、床と階段が同じ色で、その場所が少し暗いと段差に気がつかず転んでしまうことがある。

私たちにアドバイスをしてくださった青柳さんからは
「こうしてご一緒したのも何かのご縁。視覚に障害がある人たちに向けた防災・減災のカリキュラムを一緒に考えていきたいですね」と声をかけていただきました。
新たに生まれたご縁を大切にしながら、さらに理解を深め、今後につなげていきたいと思います。

“きょうは”という限定の重み

「ハートネットTV」は、“当事者とともにつくる”ことを大切にしています。障害のある子どもたちに向けた防災教室の準備、実施に取り組んだこの半年余りで、その重要性を何度も再確認しました。

今回、多くの方々と言葉を交わしました。
その一つ一つが大切な気づきにつながっています。
中でも特に忘れられないのが、ろう学校で出会った生徒の言葉です。

きょうは・・・・、ゆっくり話していただいたので聞き取りやすかったです。

人工内耳や補聴器を使用している生徒に防災教室の感想を聞いた時に返ってきた答えです。
詳しく聞くと、ふだんの放送ではアナウンサーの言葉が聞き取りにくいと感じることがあるといいます。
それゆえの“きょうは”という限定でした。

複数の音が重なると、聞き取りにくくなることが影響している部分もあるということですが、言葉で情報を届ける私たちアナウンサーにとっては大変重い言葉でした。

相手をよく知り、強く意識しなければ私たちの言葉や情報が届かないことがある。
このことをしっかりと肝に銘じて、災害時の“呼びかけ”はもちろん、日々の放送に臨みたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

筆者

NHKアナウンサー 瀬田宙大

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