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大地の声、深く息をためる

私は普段、石川県の金沢に住んでいます。北陸新幹線の開業とともに金沢は観光ブーム。若い世代から年配の方までいろんな方が旅先として選び、年間で1000万人を超える方がやってきます。聞くと、食や歴史、伝統やアートなど様々な魅力があるとか。 そんな金沢に生まれ住んで30年。普段とは違う日本の景色を求め、“はじめて”長崎へ行き、およそ1ヶ月滞在したお話4話目)です。

前回分(第3話)は、こちらよりご覧ください。

長崎市内から車で走ること1時間ちょっと。訪れたの島原半島雲仙。雲仙は、温泉(unzen)とも記され、温泉(onsen)の語源とも言われており、硫化水素とともに湯が湧き出す大地。普賢岳の名称でもわかるように、古くは修験道の地、仏門としての大地でもある。

そんな島原半島は、キリシタンによる仏教徒の弾圧、さらにはキリシタンの弾圧を経て、幕府の開墾と移民政策で人が集まった一つの多民族国家でもある。聞くところによると、方言も関西の言葉が混ざっていたり、熊本の言葉が混ざっていたりと地域によって少しずつ違うらしい。この地もまた、長崎の中にある異国の1つ。

おしどり池に落ちる夕陽 @東園

開けた海とは違い、山の日没は早い。雲仙には、幾重にもうねった道を進むとたどり着くが、雲仙温泉 東園から振り返って臨むおしどり池は、美しいパースを描き、山の合間から陽の光をこぼす。登って来た道の先に日が沈む情景に、胸がスッとする。

霧の雲仙

標高1400m級の山々に囲まれる雲仙。押し込められた空気は、濃々とその密度を高めていき、瞬く間に霧に包まれる。雲の仙郷とはこのことかと。天気の良い日もまた美しい山や星を見ることができるが、雲仙らしさを感じられるのは、この瞬間。

見えないが、見える。

人の感覚器官は様々あるけれど、視覚は多くの情報を得すぎている気がする。視界10mの世界は、視覚を奪う代わりに、様々な感覚を与えてくれる。音が耳の奥へと伝い、鼻先をなぞる匂いの粒。手指や頬を撫でる空気の重さや質感、舌先に触れる温度。自分の体が自然と溶け合っていくのを感じる。

この地に集まり、大地と対話し、悟りへの道を探した修験者の気持ちを感じた気もした。

消えゆく街灯、温泉神社の鳥居、道路標識
行く先を包む、薄くにぶく白い闇
温泉で蒸し野菜(好奇心から、超高濃度の硫化水素を覗き込んだせいで、この後目をやられry )

大地が呼吸する「地獄」

雲仙を案内してくれたのは、ネイチャーガイドの市来さん。雲仙の植生とともに、雲仙の歴史や食べ歩きを教えてくれた。

地獄は、様々な仏教の教えを説くものとして利用されていたみたい。あたりから湧き出す火山ガスは地球の息吹そのもの。雲仙では、急に地面が陥没し、ガスが吹き出すこともあるそう。電化製品は、硫化して青く錆れ、数年で壊れてしまう。日本各地に温泉があるとはいえ、大地の呼吸を、地球の息吹を、自然の鼓動を感じられるのは、数少ないように思う。

地獄の中には猫が棲みついている。温かい地面でまったりしながら、観光客に「のんびりしてけよ、まぁ、おれは構わないけどな」と言っているような気がする。

地獄に棲む猫の妖怪「にゃんこ」

雲仙はお茶の生産地としても有名だが、松尾カメラ時計店喫茶室では、お茶の体験ができる。重ための雲仙茶だけでなく、甘めの彼杵茶など、長崎のお茶を飲みくらべすることもできる。店主のアキさんが、ハーブなどを調合したお茶は体の中から温め、気をめぐらす。
呼吸を整え、体に息を溜め込み、ホッと息をつく。

不定休のため、営業は確認していくといい

3つの温泉で息をつく

島原半島は主に1つの火山から、3つの温泉が生み出されている。マグマ黙から吹き出す火山ガスが、地下水を温め、温泉が湧き出す。海に近く、マグマにもっとも近い小浜温泉は、塩化物泉で源泉温度は100度を超える。雲仙温泉は、白濁の硫黄泉で源泉温度は60度。半島の対岸の島原温泉は、ガスが地下水に溶け込んだ炭酸水素塩泉で、マグマから最も遠いため源泉温度は30度。

小浜温泉 伊勢屋

ここは食べておきたい雲仙メシ

雲仙に来たならぜひ食べて欲しいのは、芋で作る麺「六兵衛」。これは伝統料理らしく、短めで、ほろほろとちぎれてしまうほど優しい麺は、新しい食感。芋からできる麺といえば、馬鈴薯にそば粉を混ぜて作る盛岡冷麺が有名だけども、六兵衛は芋のみ。六兵衛茶屋千々石店で食べることができ、深みのあるスープと自家製の七味がすごく美味しい。「あ、これはスープを飲める」と思った時には、もう飲み終わってしまっているから気をつけて。

photographer
Hiroyuki Mera
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