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知らない土地に行くのが病的に好き


「こんなとこに来たからって、死のうとしてるわけじゃないからなー」

ドライブの果てにたどり着いた海岸で、いつか友達にそう言われた。

そこは漁師の集まる小さい町だった。海岸には船がいくつか停めてあったし、人影もちらっと見えたから、私はそんなこと微塵も考えなかったけど、
それまでの風景とは打って変って暗い場所に来たので、怖がらせないようにという配慮だったのかもしれない。

それとも、本当にそう思ったことがあったのか。
そうとは聞けず、鼻で少し笑って流すことしかできなかった。


知らない土地に行くのはどきどきするし、とても好きだ。

どきどき、というのは少し違う。

みぞみぞ......!そう、みぞみぞする。
いつかドラマ『カルテット』ですずめちゃん(満島ひかり)が言っていた、
何かが始まりそうな予感に心がざわつく時の音。


出張なんかに行って、余った時間でうろうろした時に何かに出会いたい。

帰り道、いつもと違う道を通ってみる。それだけでもいい。
見えなかった景色が見えてくると、一気に特別な世界が生まれる。


小学生の時、一度だけ通学路ではない道を通って帰ったことがあった。

まじめで親の言うことを何でも聞く子供だった私は、違う道を通って帰ったことがなぜかバレてこっぴどく叱られた後、二度と通学路以外の道を通ることはなかった。

だけどあの時の帰り道に感じたものが、今の今まで残っている。

一人きりで道を開拓するどきどき、高揚感、自由、挑戦、勇気。未知との遭遇へのわくわく。

簡単にそうさせてもらえなかったからこそ、大人になった今、人よりも新しい場所への渇望、感動を感じやすいのかもしれない。

あと、人の里帰りについて行ってプチ旅をしてみるとか。これも最高。
そこで幽かに覗き見ることができる他人の人生、ルーツ。
それを感じる楽しみは、なんとなく読書に似ている。


ドライブで連れていかれたその町も、友達の生まれ故郷だった。

死に場所に間違われる(?)海岸は、小さい頃の遊び場だったそうだし、今はもう更地になった元実家、おじいちゃん家、ライトアップされた橋が眺められる写真家スポット、思い出話と一緒に初めての場所をぐるぐる周った。


とても楽しい。

人は思っているよりも他人の人生に興味があるものだ。

知ってる人が育った知らない土地を好きになる。
自分だけでは開けない知見が広がるような気がして、好奇心が満たされる行為。

近い場所を「旅」するのも悪くない。

今夜の曲。年末好きだけど切なくなるな…

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