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福島中央テレビが全国に届けた9年目の「3.11」 ネットの反応から見えたことは?

東日本大震災から9年――。福島中央テレビは今年、3.11に合わせてYahoo!ニュースとの初の連携企画を実施。地域の現状と9年間の変化、山積する課題を伝える3本の記事を配信しました。福島第一原子力発電所の事故の影響で、長らく避難区域に指定されていた双葉町、富岡町の両地域の今。そして福島産食材を「核食」として拒否し続ける台湾の現状。ローカル局ならではの深い視点は、大きな反響を呼びました。

これまでは福島県内と近隣地域に向けた情報発信を主としてきた福島中央テレビにとって、今回の連携企画はこれまでにない取り組み。果たして、今回の取り組みはどのような成果をもたらしたのか? そして、メディアにおいてインターネットの存在感がさらに増している中、ローカル局が担うべき今後の役割とは何か? 福島中央テレビ・メディアデザイン部の村上雅信さんに話を聞きました。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

話題性の高い3テーマをセレクトしたYahoo!ニュース連携企画

――この3月、Yahoo!ニュースとの初の連携企画として、3本の記事が配信されました。これらはどのような経緯から生まれたのでしょうか。

もともとは震災10年に向けて、宮城、岩手、福島の3県とYahoo!ニュースの連携企画として、震災を人々の記憶から薄れさせないよう、関連記事や動画をネット上でアーカイブ化しようというアイデアがありました。その先行的な取り組みとして、福島中央テレビが制作する福島ローカルの特集をネット記事化して、動画付きで全国に発信する企画を実施することとなりました。ローカル局の人員体制から、なかなかネット配信まで手が回らない実情がある中で、今後の被災3県との連携企画の実現に向けた足掛かりになったと感じています。

福島は原発事故を間近で経験した地域です。我々もこの9年、絶えず震災関連のトピックを追いかけ、事あるごとに全国放送へ提案してきました。しかし、そのすべてが全国の皆さんに届けられるわけではありません。2020年はとくに、富岡町や双葉町などでの避難指示の一部解除、さらに常磐線の開通といった大きな話題がありましたから、これはネットメディアの力を借りて発信するのにうってつけのタイミングであると考えました。

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――富岡町と双葉町。この2つの地域に密着したコンテンツは、ローカル局ならではの視点と深みを感じました。

避難指示の一部解除といっても、これは手放しで喜べる話題ではありません。そこには、避難指示区域からははずれても、すなわち人が住める環境になったわけではないという、深刻な矛盾があるからです。

常磐線の開通にしても、確かに明るい話題ではあるものの、本当の意味で復興を果たすには、除染や生活インフラの整備などそれよりも先にやらなければならない問題がないがしろにされている現実があります。そうした地域の実情を伝えることこそが、我々の役目だと考えています。

――本来は映像を主戦場とするチームにおいて、今回の3つの記事はどのように制作されたのでしょうか。

まず富岡町と双葉町のトピックに関しては、2020年3月8日に福島中央テレビが放送した震災特番の素材を、ネット記事用に切り出して再構成しています。同じく台湾の核食のトピックも、3月11日に放送されたニュース内の特集素材が元になっています。テキストベースのコンテンツ制作はたしかに門外漢ですが、報道デスクの経験があったことから出稿を担当させてもらえることになりました。

なお、この3つのテーマをセレクトしたのは、いずれも今年最も話題性の高いテーマであったことに加え、当事者の声をしっかりと拾うことができたコンテンツであったことが理由です。

「3.11」報道の課題とは?

――震災から9年が経ちます。これまでの報道を通して、どのような課題意識を持っていたのでしょうか。

復興に関する情報は、県外の人々にこそ知ってほしいという思いが常々ありました。しかし、全国放送の枠は限られているため、どうしてもこちらが望むすべてを届けることはできません。福島の本当の現状をいかにして伝えるかは、これまで絶えずつきまとってきた課題です。

――とくに今回のトピックの1つである台湾の「核食」問題については、今回の企画を通して多くの人々に驚きを与えました。

震災の記憶が少しずつ薄れていくにつれ、人々の放射能に関するイメージがある時点で固定化されてしまっていると感じます。特に放射能汚染に対する不安は、どれだけ福島県で農林水産物の検査を行い、科学的な安全性が証明されても払拭されないのが現実です。実際、消費者庁が毎年実施している福島県産食材に対する意識調査を見ても、ここ数年、国内での拒否反応は横ばいのまま減らない状況にあります。

福島の漁師や流通関係者はいまなお、風評被害と戦っています。我々としてはそうした事実を、台湾で福島県産食材が「核食」としていまだに拒絶されている問題と合わせて、より多くの人に認識してほしいと願っています。

――福島から、いま最も全国に知ってもらいたいことは何でしょう?

問題はまだまだ山積みですが、最も重要なのは福島第一原発がまだ廃炉になっていないことでしょう。いまこうしている間にも汚染水を浄化したあとの処理水は溜まり続けていて、敷地内に収まりきらない状態になっています。これを海に流すか否かが議論されているわけですが、果たしてこの処理水をどうするのか、難しい議論になることは避けられません。

福島第一原発を廃炉にできるのかどうか。そもそも廃炉にできなければ、すべての避難区域の全面解除も叶いませんからね。

報道メディアとしての、テレビとネットの違い

――今回の取り組みを通し、テレビとネットメディアにどのような違いを感じていますか。

テレビで放送するコンテンツの場合、導入はインパクトのある映像を流したり、あるいは取材対象者の語りから入ったりといった想定で構成を考えます。一方、ネットメディアではまず目に飛び込んでくるのは見出しです。その見出しの作り方や読み物としてのリズム感については、かなり気を配りました。

また、例えば8分程度のニュース番組の場合、インタビューは15~30秒程度に編集して放送するのが常です。その点、ネットメディアでは尺を気にすることなく、記者が現場で採録してきた言葉のすべてを伝えられるのは大きなメリットだと感じます。

――では逆に、ローカルテレビ局であることの強みをどのような点に感じますか。

今回の3.11のように、一つのテーマについて地元に密着して長年取材してきた蓄積が生かせるのは、やはり大きな強みでしょうね。そのローカルテレビ局が蓄積している取材をテレビの企画や番組だけにとどまらせず、ネットで発信することが重要だと感じています。昨年4月に創設されたメディアデザイン部は、放送では出しきれない情報をデジタルの分野でどれだけ有効に活用していけるかが大きなミッションとなっています。

例えば、2019年秋の台風19号の時には、テレビでは伝えきれない情報をネットでカバーする試みを行いました。買い物ができる店舗や災害ごみの受け付け場所など、被災者が求めている細かな生活情報の発信ほか、放送用に取材するヘリコプターからの空撮をネットでライブ配信も行いました。放送枠が限られたテレビ放送を、いつでも見られるネット配信で補うということにもなります。

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福島中央テレビ・メディアデザイン部の仕事風景

ローカル局だからこそ持ち得る情報が、結果的に多くの方のサポートに繋がり、我々としてもあらためてネットの利便性を実感しています。

コメント欄に見えた声

――今回のYahoo!ニュースとの連携企画の反響はいかがでしたか?

まず非常に多くの人に読んでいただけたことに、純粋にびっくりしています。ローカル局の夕方ニュース番組の視聴者層は、どうしても高年齢層に偏ってしまいますが、同じ内容のニュースでもYahoo!ニュースと連携させていただくことで、老若男女幅広い人たちにトピックを届けられ、コメント欄を通して普段は得られない声を拾うことができました。

たとえ批判的なコメントであったとしても、我々が提供したトピックがどう受け止められたのかを知る、貴重な意見として参考にさせていただきましたし、何より現場の記者が思わず唸るような意見も少なくありませんでした。

――現場の記者が唸るような意見とは、具体的にどのようなものですか?

とりわけ印象的なのは、避難指示が解除された双葉町について「人口0人の町」という表現を用いたところ、「1人も住んでいない地域になぜ税金を使うんだ」というコメントが多く見られたことです。

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震災から5年目くらいまでは、「どうにか人が戻れる町にしよう」という論調が中心でしたが、今回のコメント欄では、「地元の人でももう戻らないと言う人が少なくないのだから、これ以上の税金を投じるのはいかがなものか」といった意見が散見されたんです。

それらはおそらく、県外の方のコメントであると推察しますが、被災地に対する世論を知るきっかけになりました。きっと福島県民の中にも、そういったコメントから気付きを得た人が少なくないと思いますし、被災地として国にどう支援を求めていくか、自立して復興を成し遂げるかを考える材料になると感じました。地元局としては発信しにくい声だけに、こうしてコメント欄を通して世論が醸成されていくのは、個人的にも興味深い現象でした。

――今回の取り組みは、今後の福島中央テレビにどのような影響を与えるでしょうか。

私自身の体験を踏まえて言えば、批判の声は取材力を育む力になると思います。現場取材を経て、「もっと多くの情報が拾えたのではないか」、「違った角度からの意見も採録すべきだったのではないか」と後悔することは、記者であれば誰もが経験しているはず。その意味で、メディアは批判にさらされるべきというのが私の考えで、今回いただいたコメントも、必ず今後のニュース作りの糧になると確信しています。

来年は震災から10年の節目。こうしてYahoo!ニュースとの連携企画に取り組んだ経験も含め、来年はさらに進化した形でニュースをお届けできればと思います。

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