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新型コロナを巡る報道、感染症専門医からどう見えた? 忽那賢志さんに聞くメディアの在り方

新型コロナウイルスが全世界で猛威を振るった2020年。感染症専門医として新型コロナに関する最新情報から医療現場の状況まで、幅広くYahoo!ニュース 個人でユーザーに発信し続けたオーサーの忽那賢志さんに2020年の「Yahoo!ニュース 個人」オーサーアワードが贈られました。

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オーサーアワードを受賞した忽那さん(写真右)

新型コロナを巡っては、さまざまな情報が飛び交い、「メディアの報道が不安をあおっている」「科学的根拠が薄い情報を拡散している」などメディアに対する批判も生まれました。その一方で、「新型」のウイルスであるがゆえに研究途上で不明な点も多く、有益な情報をより早く得たいという情報ニーズが高まる中で、メディアも試行錯誤しています。

国立国際医療研究センターに勤務し、最前線で新型コロナウイルス患者の診療にあたっている忽那さんは医師として昨今のメディアの新型コロナ報道をどう見たのでしょうか。また、情報を発信する側の立場から医療に関する記事を書く際に意識していることなどを伺いました。

100年に1度の感染症 最前線で治療にあたる忽那さんの生活とは

国内で初めて新型コロナの感染確認が発表されたのは1月16日。2月にはダイヤモンドプリンセス号で700人以上の感染者が確認され、その後瞬く間に全国的に感染者が増えていきました。

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Yahoo!ニュース プレイバック2020


――この1年間どのような生活を送っていましたか?
僕らも初めて診る感染症ですよね。治療薬もない中で重症化する人たちが次々に人工呼吸器やECMOにつながれて、3月上旬ぐらいまではずっと病院にいるような感じでした。

ダイヤモンドプリンセス号の症例が少し落ち着いてきて、3月上旬ぐらいから今度は東京都内で少しずつ症例が出てきたので、渡航者・接触者外来の患者さんの対応をやったり。1月下旬から4月上旬の緊急事態宣言ぐらいまでは、ずっとコロナのことで病院にこもりっきりという感じですかね。休んだりも多少はしていましたが、やっぱり休日もコロナ以外のことが考えられないというか。

――医療現場はどんな状態でしたか?
4月に緊急事態宣言が出て以降は症例は減り始めて、その頃からようやく東京都もいろいろな病院が患者さんを診るようになって、うちの病院(※1)の負担が減ってきました。

3月下旬から4月上旬は検査体制も整っておらず、PCR検査の件数も限られていました。軽症の人を診断できずに重症の人だけが優先的に診断されていたので、第1波は多分、第2波よりもっと大きな波だったんです。それを治療薬もないままに診療していたということで、やっぱり第1波のときはつらかったです。

※1 忽那さんの勤務する国立国際医療研究センターは、中国・武漢からのチャーター便の帰国者対応や、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」号の患者受け入れなど、発生直後からコロナ対策の最前線で感染者の治療にあたってきた。

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勤務中の忽那さん(左から3番目)

――新型コロナウイルスはいわゆる未知のウイルス。この感染症について感じたことは
今までもSARSが起こったり、2009年に新型インフルエンザが起こったりしていて、直近でもそういう感染症の流行はあったのでそのくらいかなと思っていたんです。

本当に100年に1度だと思うのですが、こんなに世界のいろいろなことを変えてしまうような感染症になるとは全く思っていませんでした。

「感染症は人の行動が大事」 啓発で行動を変えるために

医療の最前線で新型コロナの対応にあたっていた忽那さんですが、医師としても忙しい中Yahoo!ニュース 個人でことし1月から12月2日までに新型コロナに関する記事を計120本も執筆しています。

――どういう思いで記事を執筆していたのですか?
感染症を広げないという意味で、人の行動をいい方向に変えられるようにということが一番のモチベーション。私が書くことによって実際にどれぐらい変わるのかは分かりませんが、たくさんの方に読んでいただいているので、そういう意味ですごくやりがいがあります。

感染症は人から人に移る病気なので、人の行動がやっぱり大事なんです。その行動を啓発によって変えられる可能性があるだろうと思っています。

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――記事を執筆するにあたり意識しているポイントは
今のコロナの状況を伝えるということ。あとはコロナの新しく分かったことを難しくない内容でできる限り伝えるということを意識しています。また、科学的に正しいことを書こうというのはすごく意識しています。それがメディアのリテラシーにつながればいいなと。あとは、あまり極端にあおるような感じにはしないようにしています。コロナは皆さんもすごく関心のあることですし、これだけ世界を変えてしまって、生活に影響を受けている人も多いので、過剰に危険をあおるよりは事実を淡々と述べてという感じですかね。

――文章ももちろんですが、忽那さんの記事はグラフや表などもあり視覚的にもすごくわかりやすいです
文字だけ続いていると、自分だったらちょっと疲れる。インターネット上の記事では、表を途中で入れて見やすくするということがメリットだと思うので、そこは結構意識して、皆さんが分かりやすく読めるようにしています。

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忽那さんの記事「新型コロナの症状、経過、重症化のリスクと受診の目安」より

――忽那さんの記事によく出てくる漫画家の羽海野チカ先生の啓発ポスターはどういった経緯で描いてもらったんですか?
羽海野先生がTwitterで「私が昔読んでいたブログを書いていた人が今どうもコロナで頑張っているらしい」みたいなことを書かれていて、それが私のことだったんです。思い切ってTwitterのアカウントを作って「私はこういう者ですけれども」と言ったら「何か私にできることがありますか」と。私は「3月のライオン」が大好きなので、3姉妹の手洗いのポスターとかがあるといいですねと言ったら、すぐに描いてくださったんです。

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「3月のライオン」川本三姉妹と一緒に学ぼう、手の洗い方!(監修:忽那賢志)

新型コロナを巡る報道に覚えた違和感 メディアに求めることは

コロナ禍では、さまざまな情報が錯綜し「メディアの報道が不安をあおっている」「科学的根拠が薄い情報を拡散している」などといった声も上がりました。忽那さんも7月末、Yahoo!ニュース 個人で発信した記事のなかで「メディアにはしっかりと科学的吟味を行った上で、公益に資する放送を行っていただきたい」と報道の在り方に問題提起をされました。

――コロナ禍の報道は忽那さんの目にどう映りましたか?
今回はいろいろな報道があって、「ちょっとこれはないよね」というようなメディアが結構ありました。科学的根拠がないことを堂々と夜9時台、10時台のテレビ番組で取り上げたりだとか。情報そのものが吟味されずに、この人は肩書とかもちゃんとしている人だから多分間違っていないんだろうと思ってそのまま流されていることがありました。

視聴者の皆さんも今回は何を信じていいのか分からなくなったところがあると思います。そこでメディアが正しいことを本来は発信し続けるというのが大事だとは思うのですが、全てが全てそうはいっていないのでなかなか難しいです。

――メディアに求めることは
科学的に正しいかどうか。科学的にこれがどういうインパクトを持つのかということが分からないと、変な報道になってしまうと思うんです。だから、そういう科学的吟味ができるメディアになっていただきたいです。

またテレビ番組でも、流行が落ち着いている時期は、コロナのことは扱わなくなります。視聴率やスポンサーとの関係もあり難しいとは思いますが、視聴率うんぬんよりは必要な情報として流行状況に関わらず発信してもらうということは大事だと思います。

――テレビは確かに視聴率や限られた放送時間で情報を届けなければいけないので報道のバランスが難しそうですね。でもインターネットは情報発信における立ち位置がまた異なってきますよね
インターネットはそういう意味では必要な情報として置いておけば、必要な人がアクセスできるものです。常に情報をアップデートして発信しておけば、情報を求めている人には届けることができます。なので、新しい情報を定期的に書くことは大事。読まれていないときも、自分が必要だと思うことを発信できるので、そういう意味でYahoo!ニュース 個人のオーサーというのはすごくありがたいです。

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――メディア側ではなく、情報を摂取する側(ユーザー)が気をつけなければいけないことはありますか
正しい情報源を知っていただくことが大事だと思います。厚生労働省や内閣府などの情報はもちろん正しい情報ですのでそういうところを見るのが一番です。

――ただ、内閣府などの発表というのは一般の人にとっては文が硬くて難しかったりしますし、わざわざHPにまでいって情報をみるというハードルも高いように感じます
難しいんですけれども、自分はそこをかみ砕いて書くということを意識しています。あとは、Twitterなどでコロナの専門家、有識者たちがアカウントを作って情報発信をしたり、noteやブログみたいなものを書かれているので、そういうのもいいと思います。

――一般向けに難しい医学情報をわかりやすくして記事を執筆してくださっている忽那さんですが、今後はどのような発信をしていきたいですか?
元々は一般感染症の専門であるので、コロナ以外にもいろんな感染症に関して発信していきたいです。あとは、今年はコロナのことばかり書きましたけれども、これだけ感染症が世の中を変えてしまうということはないと思うんです。多分100年に1度ぐらいで。私は新興感染症の専門家なので、出会いと言うと不謹慎ですが、こういう出会いをすることはなかなかないので、啓発しながら歴史の証人として、どういう終わり方をするのか最後まで追っていきたいと思っています。

それを正しく発信していきたいということと、コロナはこういうもので、情報はこういうことが分かっていって、人々がどう受け止めてというのを記録として残したいです。

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