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記事を作る部門と掲載する部門、最適な関係は? 新聞記者がヤフーで考えたメディアの課題【毎日新聞→Yahoo!ニュース個人編集部・出向社員コラム】

 新聞の部数減が止まらない今、新聞社の活路はどこにあるのか。新聞社が直面する課題に対処するための手がかりを得ることをミッションに、昨年10月から1年間Yahoo!ニュース個人編集部に出向した毎日新聞の記者・待鳥航志さん。出向を通して感じた新聞社とヤフーの違い、メディアが抱える課題について振り返りました。

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出稿する部門が強い新聞と、掲載する部門が強いヤフー

 出向の1年を振り返ると、ニュースを届けるという共通の目的を持ちながら、新聞記者として取り組んできた仕事とのギャップを感じることがたびたびありました。ひと言で言えばそれは、記事を作るグループと、出来上がった記事をしかるべき場所に割り当てて掲載するグループの力関係が、ヤフーと新聞で大きく異なっていたことです(ヤフーと毎日新聞で呼び方に違いもありますが、この原稿では便宜的に、前者のグループを「制作サイド」、後者のグループを「編成サイド」と呼びます)。

 毎日新聞では編集局フロアに長い円卓が置かれ、どんな記事を出稿するか、記事をどのように扱うかを日々デスクたちが議論しています(現在はリモートで実施)。私が経験した職場でも、各出稿部のデスクが記事をレイアウトする側と「ケンカ」する場面をたびたび目にしました。ケンカが良いというわけではないのですが、それだけこだわって記事を作りこみ、紙面での扱われ方に対しても出稿部デスクは意見をぶつけていました。新聞社では制作サイドの発言権が強くあったということかもしれません。

 他方のヤフーでは、トピックスに何をどう掲載するかを決める編成サイドが強いという印象でした。ヤフーで経験した業務のさまざまな場面に、そう感じる時があります。

 コロナ特設ページの更新業務は、先述のように足りない内容を補うようにオーサーに記事執筆を提案するという、ある意味で「逆算」的に記事を作るフローによっても行われており、編成サイドの視点の強さを感じました。また普段のニュース個人業務で記事の「出稿連絡」を検討する際も、他の記事との兼ね合いやニュースの全体量を考慮するなど、編成サイドの視点で議論することが少なくありませんでした。ユーザーが何を求めているかを第一に考えるからこそ、編成サイドが強くなるのだと思います。逆に制作サイドが記事内容の重要さを訴えて編成サイドと議論する場面を目にする機会は日常的にはありませんでした。

「トピに載らないと読まれない」オーサーの指摘から考える課題

 このギャップには、ユーザーが何を求めているかを重視する「ユーザーファースト」のヤフーと、世の中で起きていることの何をどう伝えるべきかを重視する「現場ファースト」の新聞社の性質の違いが表れているようにも思います。とはいえ、新聞社はもっと読者が何を求めているか、つまりユーザー(読者)視点をより重視したほうがいいし、自戒を込めて申し上げるなら、逆にヤフーでは「何をどう伝えるべきか」を考える制作サイドに、より注力されてもいいのではないかと思いました。

 オーサーの方とお話した際に「ヤフーではトピに載らないとあまり読まれない」と意見をいただいたことがあります。実際にはトピに載らなくても読まれる記事があるにはありますが、確かに読まれるためにはトピ掲載を目指すことが最も効果的で、そういう意味ではニュース個人の記事はトピへの依存度が高いように思われます。

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Yahoo! JAPANのトップページに掲載されているYahoo!ニュース トピックス(赤枠内/PC/10月8日付)

 その一方で、この指摘を今振り返って思うのは、記事自体を「より読ませる内容に仕上げる」という編集的なフォローが必ずしも十分ではなかったということです(このオーサーの担当編集者だった私自身が負うことなので自戒が強いのですが……)。

 現在でも、依頼を受けたオーサーの記事に、読まれるための見出しを提案するなどの取り組みがあり、効果的にユーザーの関心を引き付けています。他方、関心を引くだけでなく、オーサーの思いや(取材を伴う記事であれば)現場の状況がより伝えられる構成や書きぶりを考えるなど、記事の質を高めることも、読ませるためのさらなる一歩になります。

 ニュース個人では毎月、社会課題を伝えたり、議論を喚起したりしている記事などを選んで表彰しており、この審査会では記事一つ一つを吟味して議論しています。このように記事の質を高めるための議論の場がさらに増えると、ニュース個人編集部内でも編集ノウハウがより一層蓄積し、記事の質をより高めることにも生かせると思います。

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Yahoo!ニュース個人編集部が毎月発表している月間MVA・MVC

 先述のようにニュース個人では基本的にオーサー自身が公開ボタンを持っているため、事前に編集の手が入る記事は多くはないです。それでも、地道にでも質の高い記事が集まるプラットフォームに育てていくことは、長期的には、トピを経由しないニュース個人へのアクセスを増やすことにもつながると思います。

「制作」と「編成」のバランスをどうとるか? メディアの課題

 制作サイドと、編成サイドの力関係のバランスをどうとるか。これは「現場や書き手の思いと、読者のニーズをどうつなげていくか」という、メディア業界が抱える根源的な問題でもあります。ここまで書いてきたように、新聞社はユーザー目線により寄り添っていくべきだと思いますし、ヤフーは制作サイドがもう少し重視されてもいいのではないかと思います。これらを総合するなら、1年の出向を経ていま思いを強くしているのは、「コンテンツをどうやって作り・どうやって届けるか」を巡って、「制作」と「編成」が対等な関係で議論できる場が、メディアには必要だということです(議論の場があったとしても、その立場が対等であることを担保することは簡単ではないと思います)。

 いずれにしても、メディアを取り巻く環境が変われば適切なバランスのとり方も変わってくるはずであり、私たちはその最適解を探り続ける必要があります。これから私はまた、まだまだ紙中心の職場に戻りますが、改めてこれからの新聞社がこのバランスをどうとるべきなのか、現場で考えていかなければならないと思います。

 ニュース個人での1年は、同僚の方々や貴重な経験に、大変に恵まれた時間でした。ユーザー視点や「制作」と「編成」のバランスなど、本稿で書いたことは、ヤフーで学び考えたことのほんの一部ではあるのですが、こうした経験をこれから記者としての仕事に還元し、現場ベースで実践に変えていきたいと思います。

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