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明日の行動につながる良質の動画コンテンツを−−Yahoo!ニュースがドキュメンタリー制作支援をする理由

短編ドキュメンタリー映像の配信プラットフォーム、「Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム」。社会課題の深層に切り込んだ作品が多く公開されているこのプログラムでは、Yahoo!ニュースとの連携により、良質のドキュメンタリーを多くの人に届ける取り組みが行われています。

では、なぜヤフーは今、ドキュメンタリー映像の制作支援を行うのでしょうか? そして、ネットメディアにおけるドキュメンタリーの役割とは? 同プログラムのプロデューサーである金川雄策さん、そしてYahoo!ニュース トピックス編集部の高田裕樹さんに話を聞きました。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

制作資金や発表の場を提供する「Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム」

「2018年11月、『Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム』がスタートしました。ヤフーではそれ以前から、『Yahoo!ニュース 個人』という個人の書き手の方をサポートするニュースのプラットフォームを運用していました。映像分野においても同様に、クリエイターの発信サポートが行えないかというのが、立ち上げのきっかけになっています」(金川さん)

プログラム内には「おもしろ/ネタ」や「モノ/ガジェット」といったカテゴライズでテキストコンテンツも掲載されています。今回は、その中でもニュースとの親和性の高いドキュメンタリージャンルを運営するチームにお話を伺いました。

各作品の長さは10分、もしくは3分程度。移動中など日常の隙間時間に、気軽に視聴できる作品ばかりです。ヤフーがドキュメンタリー映像に着目したのには、次のような理由がありました。

「地上波のテレビ放送からは年々、ドキュメンタリーの枠が減っています。そうした現状に対し、クリエイターの皆さんから発表の場を求める声が多く聞かれていました。われわれとしても、『Yahoo!ニュース 個人』のようなテキストベースの記事とはまた異なる価値を持ったコンテンツ提供が可能なのではないかとの期待があり、ドキュメンタリー映像の発信と制作のサポートを行うことになりました」(同)

「Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム」がサポートするのは、審査を通過したクリエイターたち。「Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム」のプロデューサーが発掘、スカウトした人材や、あるいは他薦による人材が中心。プロデューサーは、作品づくりをどのようにサポートしているのでしょうか?

「たとえば複数のプロデューサーが企画内容や構成についての助言を行うほか、制作支援金、撮影機材の貸与、さらには取材音源の文字起こしや素材用の音楽ライブラリーの開放など、さまざまな面で支援をしています。重視しているのは、クリエイター自身のパッション。これまで実現の機会が得られなかった優れた企画を、できるだけいい形で世に送り出すために伴走するのが私たちの役割です」(同)

発表の場やコストなどの都合で、なかなか実現できないアイデアや企画は数多く存在します。

「そんな中から優れたコンテンツを掘り起こし、世に届けるのがプログラムの使命です。『MAKE DOCUMENTARY COLORFUL』をスローガンに掲げ、笑えたり泣けたり勉強になったりする、カラフルで多様なドキュメンタリーコンテンツを提供することを目指しています」(同)

10分の映像作品が全国から反響を呼ぶきっかけに

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左:金川雄策さん、右:高田裕樹さん

ヤフーがこうしたプラットフォームを担うことでクリエイターが得られる恩恵は、費用面だけではありません。Yahoo!ニュースと連携することで、より広い層に作品を届けられるのも特徴の一つ。Yahoo!ニュースでトピックス編集として働きながら、クリエイターズプログラムの業務を兼務する高田裕樹さんは、次のように語ります。

「プログラムの中で生み出された良質の作品を、少しでも多くの方に視聴していただくために、Yahoo!ニュースは効果的なプラットフォームです。Yahoo!ニュース トピックス掲載の検討が行われる際、媒体社様からいただく記事と同様に編集部の方針と照らし合わせて検討されています」(高田さん)

Yahoo!ニュースがこれまで培ってきた、“多くの人に届ける”ためのノウハウを、制作側にフィードバックすることも。

「世に届ける意義のあるコンテンツについては、企画段階から参加して、構成や演出について一緒にアイデアを出すこともあります。あるいは、完成した作品を見て、より効果的なアレンジや情報の補強を提案することもあります」(同)

ヤフーとクリエイターが二人三脚を組んで制作されたドキュメンタリー。今日までのおよそ2年半の間には、実に多彩な作品が登場しました。例えば、映画監督の太田信吾さんが撮った、『ホヤの最高に美味い食べ方とは? ~ほやほや屋店主・佐藤文行の挑戦~』という作品。

「これは福島原発事故の影響で禁輸措置がとられた東北のホヤを大量廃棄から救うため、ある飲食店の店主が、フードトラック事業を立ち上げ、ホヤの国内消費を盛り上げようとする様子を記録した作品です。Yahoo!ニュース トピックス経由で大きな話題を呼び、全国からホヤの買い取りオファーが殺到したほか、太田監督の手によってあらためてWOWOWでドキュメンタリー化されるなど、われわれにとっても印象的な作品でした」(金川さん)

また、ドキュメンタリー監督の岸田浩和さんが撮った『ベトナム人技能実習生を「幸せにする」――建設会社社長が掲げる「帰国後」の目標』も、Yahoo!ニュース トピックス経由で大きな反響があった作品。特にSNSでも好意的なリアクションが多く寄せられたと言います。

クリエイターが抱える小さなネタを、大きく育む機会を提供することは、まさしくクリエイターズプログラムが果たすべき役割の一つ。その意味で、上記の作品は理想的なモデルケースと言えるでしょう。

ネット上のドキュメンタリーだからこその工夫とは

ところで、テレビや映画と比較した場合、インターネットでドキュメンタリー作品を届けることにはどのような違いがあるのでしょうか。前職ではテレビの現場でニュース番組の編集に携わっていたという高田さんは、次のように語ります。

「やはりスマホやPCを通じて、どこからでも見られる利点は大きいです。でも、だからこそユーザーをいかに引き込むかという工夫が大切になります。私がとりわけ重要視しているのは冒頭の3カット。テレビの場合はリビングでたまたま番組が流れていることもありますが、ネットのドキュメンタリーはユーザーが能動的にアクセスするもの。導入部分でそれがどういう作品なのかを説明するよりも、興味を持ってもらうことを優先すべきだと思っています」

その反面、多種多様な映像が氾濫するネットでは、YouTubeや各種SNSなどのライバルも非常に多く、テレビと比べても激しい競争にさらされる現実があります。

「1つの作品を最後まで見てもらうためには、没入感が必要です。ネットは1人で見ることが多いメディアですからなおさらです。例えば、クリエイターズプログラムではナレーションの少ない作品が多いのも、できるだけ現場の生の声や音で構成することで臨場感を表現するためです」(金川さん)

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スマホで閲覧される場合、音声を聞けない状況になることも想定。すべての動画に字幕を入れている

では、ヤフーがこうした取り組みによってドキュメンタリーという分野をサポートする目的は何なのか? 最後にお2人それぞれの視点から、「Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム」の存在意義について語ってもらいました。

「クリエイターズプログラムはYahoo!ニュースと連動していますが、ニュースとドキュメンタリーは似て非なるものだと思っています。言うなれば、ニュースはインフォメーション、ドキュメンタリーはエモーションを伝えるもの。だからこそわれわれは、人々の心を動かして社会課題を解決するというミッションを掲げ、ドキュメンタリーだからできることを模索し続けています」(金川さん)

「Yahoo!ニュースにはプラットフォーマーとして、新聞社やテレビ局など媒体社様からいただくコンテンツだけではなく、一個人が思いや考えを発信する活動も支える役割があると考えています。現在も多くのクリエイターやジャーナリストの方にご参加いただいていますが、一人ひとりが持っている課題意識をしっかりと伝えるために、ドキュメンタリーという分野をサポートしていかなければならないと思います」(高田さん)

10分という短尺の作品は、ユーザーにとってもハードルが低く、ドキュメンタリーという分野に気軽に触れる好機となるはず。そして実際、クリエイターズプログラムのページには、他のメディアではあまり見かける機会のない社会課題を扱った作品が散見されます。

2020年3月からは、さまざまな社会課題の解決を目指すSDGs(持続可能な開発目標)についてドキュメンタリー作品を通じて知ってもらうため、大和証券グループ本社がスポンサーとなり、特集ページ「DOCS for SDGs」も立ち上げられました。

「Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム」から各種映画祭への出品へつながるケースも多く、わずか10分間の映像をきっかけに大きなムーブメントが起きることもあるでしょう。ぜひ、気になる作品をチェックしてみてください。

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