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「若者」に届くコンテンツに特別なことは必要ない 横断型チーム・ミレニアルプロジェクトの試行錯誤

Yahoo!ニュース編集部内に、若者向けの記事制作を手掛けるプロジェクトチームが発足したのは2018年のこと。ユーザーの中心層が30〜40代のYahoo!ニュースにとって、20代などの掘り起こしは、長年の課題でもありました。

ターゲット層の見直しやテーマの考え方、横断型チームで起きたコミュニケーションロスなどの様々な失敗を乗り越え、“ミレニアル世代へ読まれる”記事を発信しています。

その結果、プロジェクト発の記事が、コンテンツ分析サービス・チャートビートの発表する世界で最も注目を集めた記事「The Most Engaging Stories of 2019」上位100本のうち6本を占めるほど、大きな反響も。今回は、その試行錯誤から見えてきた、若者層に読まれる記事づくりやチーム運営にスポットを当てました。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

20代にとっての「あの人は今」は誰? “モヤモヤ”を持ち寄る週1の企画会議

プロジェクトが手掛けた記事は、「若者」に向けた特別なページへまとめて掲載されているわけではありません。媒体社やYahoo!ニュース 個人の記事と同じように、週1本ペースでYahoo!ニュースへ配信されています。

毎週の企画会議では、メンバーそれぞれが、最近モヤモヤしていること、疑問に感じていること、釈然としないことを会話の中で膨らませながら、企画を固めていくスタイルをとっています。

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手掛けてきた主な記事は、エンタメから社会問題までさまざま。「水嶋ヒロはいま何をしてるのか?――表舞台から姿を『消した』理由、バッシング、家族を語る」や「もう大食いできないジャイアント白田――全盛期は年収3000万円、『巨大食料庫』だったころ」、「感染者たたき、感染者の謝罪は自分たちの首を絞める 岩田教授に聞く『誰でも感染する』怖さ」などがあります。

なかでも、最初に手応えを感じたのが、“20代にとっての「あの人は今」”シリーズです。

「『あの人は今』というテーマ自体は、Yahoo!ニュース トピックスの編集者にとってはある意味、鉄板ネタなんです。それを20代向けにアレンジしました。水嶋ヒロさんの引退劇や、ジャイアント白田さんが第一線で活躍していた頃というのは、30~40代にとっては比較的最近のことに感じられても、20代にとっては懐かしく感じられるはず。テレビに出続けることや大きな舞台に立つことだけが『成功』じゃない。そんなメッセージも伝えられたらと考え、コンセプトを固めていきました」(Yahoo!ニューストピックス編集部・中上芳子さん)

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しかし、「ここまで大きな反響を得られるまでには、さまざまな紆余曲折があった」とも。その一つが、2019年10月にターゲットを20〜29歳までを含む「20代」から平成初期に生まれた「ミレニアル世代」へ刷新したことでした。これにより、若い世代を対象としながらも、30代以降を含めた幅広い層に支持されるヒット記事が、多数生まれるようになりました。

「ひとくちに20代と言っても、実際には20歳の大学生と29歳の会社員では関心の対象が全く異なります。プロジェクト発足当初はターゲットを20代と広くとっていたのですが、思うように狙った層の反響が得られないことも多く……。データ分析結果を交えながら、検討と検証を重ねた上で、Yahoo!ニュースのユーザー層とも比較的近い20代半ばから30歳までを指すミレニアル世代をターゲットとするのがベストであると判断しました」(中上さん)

社内横断型チームのゴールイメージを合わせる「13文字」

ミレニアルプロジェクトの課題は、チーム作りそのものにもありました。同プロジェクトには、ベテランだけではなくターゲットユーザーに近い20代のメンバーも参加。さらに、Yahoo!ニュース トピックス編集部で編成に関わる編集者、現場で取材に赴くYahoo!ニュース 特集で記事制作に携わる編集者、Yahoo!ニュース 個人で執筆する専門家とやりとりをする編集者、さらにデータの分析担当者と所属部署もばらばら。

普段は一緒に業務をする機会が少ないトピックス編成と編集のメンバーで構成された横断型のチームだからこそ、最初は意思疎通がうまくいかなかったそう。ときには、現場での取材・制作を進めるなかで徐々に意図がずれ、企画会議で決めた記事イメージと全く違うアウトプットになってしまうという「失敗」も。そこで、この課題を解決するために導入したのが「13文字の見出し」です。

「取り上げるテーマを決めたら、ユーザーに一番見せたい部分を『仮にYahoo!ニュース トピックスに取り上げるなら、どんな13文字の見出しをつけるか?』を議論するようにしました。これで各企画の切り口を整理したうえで、普段は編成を行う編集者も取材へ同行するなど、企画から制作の間で起こるずれが徐々に解消されていきました」(中上さん)

会議で編集者の企画案を聞き、普段はYahoo!ニュース トピックスを作成する編集者がその場で「仮の13文字」を出してみる。1企画に対して少なくとも20案は考えているそう。

「13文字で的確に言い表せない記事は、そもそも主題が曖昧になりがちというのがYahoo!ニュース トピックス編集部の考え方。また、取材現場でライターとテーマを伝える際にも、トピックス編成と編集の理想的なゴールイメージが共有できると認識にズレが生じにくく、スムーズに記事づくりが行えるんです」(中上さん)

もちろん13文字を決めたからと言って、必ずYahoo!ニュース トピックスへ記事が掲載されるわけではありません。しかし、このゴールイメージの持ち方はまさにYahoo!ニュースならではノウハウと言えるでしょう。

「正直に言えば、最初はコミュニケーション上のトラブルがいくつもありました。けれど今では、普段は違う業務をしているメンバーが集まるというのは、『異なる武器を持ちよってチームを作る』ことに近いんです。だからこそ、1つの方向にまとまれば、より大きな力が発揮できるのだとも感じましたね」(Yahoo!ニュース 特集編集部・安藤智彦さん)

主語とテーマの掛け合わせで、ミレニアル世代を中心に他世代からも支持を得る

ミレニアルプロジェクトが抱えていたもう一つの課題が「どのような成果目標を設定するか」です。

「実際にこれまで、ミレニアル世代の高い支持を得ながらも、PV全体を見れば他の企画よりも読まれていない記事もありました。Yahoo!ニュースがマス向けのメディアであることを踏まえれば、このデータをどう評価するべきか。20代だけに読まれた記事を成功と定義するかどうかは、私たちとしても悩ましいところでした」(中上さん)

また反対に、ミレニアル世代に向けて制作した記事が、蓋を開けてみれば30~40代にばかり読まれていたというケースも。

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ウェブメディアが狙った層にピンポイントに記事を届けることの難しさについて、Yahoo!ニュースでデータ分析をするアナリストの桃井晴康さんは次のように考えています。

「やはりメディアとして、第一に数字(PV)が求められることは間違いありません。ただ、本当にPVだけを考えるなら、ユーザーの中心層である30〜40代をずっと追っていけばそれで十分ということになります。しかし、将来を見据えて若い世代を開拓するのがミレニアルプロジェクトの本来の目的。つまりは異なる世代のバランスを取りながら、いかにPVを取るかが大切なのだと思います」(桃井さん)

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そこでミレニアル世代にしっかりと読まれながら、他の世代にも読まれる企画づくりのために考えたのが、それぞれ別の世代の高い関心をもつ「取材相手」と「テーマ」をあえてかけ合わせることでした。

「まず主語として、ミレニアル世代の関心を惹く人物に登場してもらう。そして、企画の切り口には30代以降の心もしっかりと掴める内容をかけあわせるんです。例えば、ミレニアル世代に人気の俳優に対して次の作品についての『役者論』ではなく、30〜40代の女性の関心が高い『家族』について聞く。そうすれば、ミレニアル世代の興味を惹きつつ、そのテーマへの関心をもつ別世代にも届くのではないかと考えました」(中上さん)

冒頭で紹介した「水嶋ヒロはいま何をしてるのか?――表舞台から姿を『消した』理由、バッシング、家族を語る」にもこの考え方は応用されています。これはミレニアルプロジェクトにおいて一つの理想形と言えるでしょう。

同時に、企画の立て方だけではなく、もちろんボリュームや画像の使い方など、記事の書き方そのものへも細やかな工夫を重ねていきました。

「例えば、スマホの画面が文字だけで埋まらないよう、画像を2〜3パラグラフに1回ほどの高い頻度で挿入したり、記事として長くなり過ぎないよう配慮したりしています。やはり3000文字を超える記事は離脱率が高くなりますから。このあたりはミレニアルプロジェクト以外でも常に意識していることですね」(安藤さん)

こうした工夫と努力の積み重ねで、ミレニアル世代のアクセス数は、着実に上がってきているそうです。

プロジェクトの今後は? ミレニアル世代当事者が制作をリード

これからミレニアルプロジェクトが目指すのは、記事の本数を増やしていくこと。そして、エンタメだけではなく政治や経済など取り扱うジャンルも広げていくことです。そのためにも、ミレニアル世代の編集者の力に期待を寄せています。

「プロジェクトメンバーは20代から40代まで幅広いスタッフで構成されていますが、最近ではあえて20代のスタッフだけでテーマのセレクトから編集制作までのすべてを賄う記事の試作も進めているんです。それによってどのような記事が生まれ、実際にどのような反響が得られるのか、我々としても興味深いところですね」(安藤さん)

「上の世代が、『20代の間で今何が流行っているのか』という目線でテーマを探すと、結果として当事者の思いか離れた独りよがりな視点に陥りがちです。そうではなく、20代が漠然と興味を持っていることを掘り下げて、結果として幅広い層から共感され、読んでいただける記事を目指したいと思っています。若者向けの記事だからといって奇抜なことや、これまでYahoo!ニュースを利用してくれていた30代、40代を置いていく記事をつくる必要はないんです」(中上さん)

現在の20代は、将来のユーザー層の中心を担う世代かもしれません。それゆえ軽視することはできず、ミレニアルプロジェクトはまだまだ工夫と試行錯誤を続けていますYahoo!ニュースというメディアを未来に繋げるためにアップデートを続ける、ミレニアルプロジェクトの今後にぜひご注目を。

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