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不完全燃焼 第1話 「魔」

僕はネットに潜む「魔」だ。
名前はない。

ネットの中で美しいものを集め陳列することに執着する。
動力は「欲望」。

ネットの中で花開く美しい「結晶」を眺めては悦に浸るだけの、無害な「魔」。

無害で無力ゆえにネットの片隅で存在することを許されているのだろう。

ネットの世界は広大で、そこかしこに美しい「結晶」を見ることができる。

僕は透明になり切り、無害な存在として「結晶」を収集し、自分の中に整頓していく。

「清潔」「整頓」…いつか見たアニメ映画の中で、釜焚きとして働く異形が自分の仕事場に張り付けていた「標語」だ。

その仕事のあり様の美しさに僕は魅せられた。

それ以来「清潔」「整頓」は僕の心の命題になった。


最近僕は美しい結晶を手に入れた。

その結晶は内側に高い熱源の火種を宿し、凛とした光を周囲に漏らす、稀に見る強さと美しさを宿した「結晶」だった。

僕は考える。

この「結晶」の美しさの源は何なのだろうか…。

「結晶」は振動し、その振動は言葉を紡ぐ。

「私は昔から不幸だったかもしれない」
「かの有名な小説、藪の中のように捉え方を不幸にすることで生きがいを感じていた女は急に我に返ったようにそう思った」

芥川龍之介の名作「藪の中」の女に、自虐的な暗い炎を「結晶」は見出したらしい。

「蹴りながら優しさが回ってこないのは地球が回ってないからなのか?」
「私が回ってないからなのかと独特の論理を展開していた」

回ることが出来ないでいると、この「結晶」は自虐的に言うが、僕から見ればこの「結晶」の回転速度は、さながらパルサーのごとし。
その回転速度の速さから、周囲のやさしさを脅威の遠心力で吹き飛ばしているように見える。

「魔」は思う。

「結晶」の求める存在は、「結晶」の遠心力と拮抗できる自重の持ち主でなければならないと。

「魔」は思う。

重すぎれば「結晶」の重力に引かれてバラバラになるだろう。
軽すぎれば近づくことすらままならない。

「魔」は思う。

「結晶」の孤独は、その美しさ故のものだと。

「魔」は自分の中に新たな欲望が生まれるのを感じた。
この「結晶」に自分の声を刻みこみたい。
自分もまた、この「結晶」の様に美しくありたい。

「魔」は自身の欲望に潜む欺瞞と、その欺瞞がもたらす悲劇的な未来に気付きながらも、「結晶」の重力圏に足を踏み入れる決心をした。

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