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【翻訳記事】AIによる自動化が労働者にもたらす真の脅威とは

コリイ・ドクトロウによる以下の記事より翻訳。


AIを巡っていま過熱している話題よりずっと以前に、我々は誤解を招くようなストーリーにより自動化の恐怖を植え付けられてきた。覚えているだろうか?「トラック運転手はアメリカでもっともありふれた仕事だ。そして自動走行するトラックはまもなく登場する。ロボットが彼らの仕事を奪ってしまったとき、大勢いるアメリカのトラック運転手たちが怒れる暴徒へ変貌してしまうのを止める方法はあるだろうか?」といったストーリーを。

これは完全にナンセンスだった。まず、「トラック運転手」はアメリカにおいて特別ありふれた仕事というわけではない!労働統計局が、あらゆる貨物輸送車の運転手を単一の区分へと十把一絡げにまとめてしまっているだけだ。この誤ったカテゴリーでは、デリバリーの運転手も、引越業者も、宅配便も、全員が市民ラジオで気の利いたことを言いながら大型トラックを乗り回し、州間高速道路インターステイトをぶっ飛ばしていると考えられているかのようだ。

だが、自動化の脅威についてはどうだろうか?仮に、高速道路をデザインし直して大型トラック専用レーンを作り、そこに無人トラックを並ばせて長距離を走れるようにするとしたら、ありえる話だ。おめでとう、こうして発明されるのはクソみたいな失敗まみれの列車にすぎない。

「クソ列車AI」は、労働統計局が「トラック運転手」に誤区分する大多数の人々の仕事を脅かしたりしない。第一に、「クソ列車AI」は他の運転者で賑う通りを走るUPS(訳注:世界最大規模の貨物運送業者)の配達車を運転することはないだろう。たしかに、いくつかのロボットタクシー企業は街の自治体をだまくらかし、制御不能な殺人ロボットを使った実験に住民を巻き込んだりしている。その成り行きは捗々しいものではないが。

ロボットタクシーの夢を追いかけて1000億ドルを超える金がつぎ込まれた。その結果をもっとも寛大に表現するとしたら、「低賃金の運転手を1.5倍カネのかかるリモート運転手に入れ替えなければならない、テクノロジーの珍品」だ。

もしこの自動運転技術を完成できたとしても、デリバリー車を運転する「トラック運転手」にAIが取って代わることはないだろう(引越業者は言うに及ばず!)。UPSの宅配バンを運転するにあたって大変なのは、地点から地点へと動くことだけではない。宅配バンは、荷物を別の地点へと運んで・・・いるのだ。荷物を取り出して受付や縁側ポーチや別の宅配場所へ届けるために、ロボット車はすくなくとも一人の人間を必要とするだろう。ロボット車がドアに荷物をカタパルト射出して届けるといったことはありえなさそうだ。また、ドローンによる宅配も実現しそうにない。運べる荷物の種類が限られ、運べる状況はさらに限られるドローン宅配もまた、歴史に残る珍品のひとつとなる。

仮にUPSが運ぶ荷物が、軽量で、こわれものでなく、長方形のものしかなく、遮るもののない広い裏庭にしか届けないのだとしたら、問題はない。おめでとう、世界でもっとも使い勝手の悪い配送サービスの発明だ!

というわけで、大型トラックの運転手がロボットに職を奪われるのを心配する必要はたぶんなさそうだ。「クソ列車」を我々の技術で制御できるかすら不透明だし、仮にできたとして、AI自動化によるトラック運転手の失業というストーリーには別の問題がある。それは、「トラック運転手」はすでに・・・アメリカで最悪の仕事のひとつであるということだ。

トラック運転手として働くことのクソみたいな酷さについては、誇張するのが難しいほどだ。自らの労働力を"業務請負人コントラクター"という誤った分類に仕分けることで労働法の適用を免れようとする雇用主によって、トラック運転手たちは虐待的な借金苦に陥れられている。いかなる労働法も適用されず、トラック運転手たちは考えうる限りもっとも辛く、肉体的に過酷で、家庭を壊し、経済的に不安定な存在になることを強いられるのだ。

何年もトラックを運転しても稼いだ金はほとんどすべて(雇用関係にあることを認めない)雇用主に吸い上げられ、自分が運転するトラックの不当に金利の高いローン返済に充てられるなどといったこともあり得る。それから、雇用主によるシフト調整のせいでローンを払い損ねるといったこともある。すると雇用主は運転手のトラックを差し押さえ、すでに返済したはずの何十万ドルもの借金を押しつけ続け、運転手を貧しくさせるのだ。

雇用主は、運転手が荷積みや発送を待つ何時間分もの(あるいは何日分もの!)給料を支払うことなく働かせたりする。安全性を無視した長時間の運転をさせ、もしそれで事故を起こしたら、決められたぶんの休息を取らなかったとして運転手に罰金を求めるのだ。

いま現在、こうしたトラック運転手がAIに取って代わられるようなことは起こっていない。けれど、それはAIが彼らの仕事に影響を及ぼしたりしないという意味ではない。商業車の運転手はアメリカでもっとも厳重に監視されている労働者のひとつであるからだ。Amazonからの荷物を運ぶ運転手(Amazonは彼らを業務請負人として誤って区分している)は、眼球の動きをAIに監視されている。

カーニバル・クルーズやディズニーといった優良企業のカスタマーサービスのコールセンター業務を行うArise社で働く在宅労働者たち(主に黒人と女性で占められる)は、AIに声をモニタリングされている。そこで働く人たちはやんちゃな子供やペットの声を背景に仕事をすることになり、もし彼らを黙らせられなかったら、金を払って彼らを躾けるという契約を呑むことになる。

また、AIはギグワーカーアプリで働く人たちの行動を監視している。ストライキ中の職場に派遣されている労働者がピケを越えようとしなかった場合はAI上司がその労働者を解雇し、ロボットによるスト潰しを拒んだとして今後の仕事についてもブラックリストに入れられてしまう。

スティーヴン・グリーンハウスによるThe Guardian誌上の記事によると、AIが使われている職場では、不安定かつしばしば誤った区分に当てはめられた労働者たちがアルゴリズムによって監視され、裁定を下され、罰金を科されているのだという。

「組合」という言葉を含むメールを送ったとして懲罰を与えるロボットにせよ、トイレ休憩を取ったぶん給料を引いていくロボットにせよ、AIは人類への復讐のために職場へやってきたのだ。

これは最高に皮肉な話だ。AIの有益な活用のほとんどのケースにおいて、AIは労働者を置き換えるのではなく助ける・・・ために使われなければならないのに、職場では正反対の使われ方をされている。放射線科医がガンを発見するのにあたり、セカンドオピニオンを与えるという形でAIは助けてくれる。しかし、実際にはすでに検査済のスキャンを放射線科医に再検査させることで、彼らがスキャンする回数を減らす・・・ツールになってしまっている。

AIに関するセールストークは「AIツールを買って自分の価値と正確性を高めましょう」といったものではない。AIを導入するにあたってセールストークになるのは「AIを買って労働者をクビにし、コストを削減しましょう」なのだ。AIが人間に取って代わることがどれだけ難しいかを考えると、職を失う労働者にとっても、AIによる低水準のサービスを受ける消費者にとっても、これは全方位的に分が悪い取引だ。

AIを導入した企業に多額の利益をもたらし、なおかつAIが失敗を犯してもその企業にリスクがないというような活用の仕方は非常に限られている。その限られた例を挙げよう。詐欺だ。AIは詐欺をするのにとても便利なツールである!人に金を払って何百万種類ものフィッシングメールを作らせなくても、AIにやらせることができる。もしAIが低品質なフィッシングメールを作ったとしても問題ではない。高品質なフィッシングメールでさえ、受信者のほとんどは削除してしまうのだから。しかも、詐欺に用いるために無能なAIを買ったとしても、それでだれかに罰金を科せられることもなければ、取締役会を通じて辞職させるよう紙上で要求されるようなこともない。AIの利用にあたって、詐欺はローリスクハイリターンな環境なのだ。

もうひとつのAI活用例は、労働法に守られず、不安定な生活を送る労働者たちの管理だ。AIが労働者の賃金を不法に引き下げたり、自分や他者に労災を引き起こすほどの長時間労働を強いたり、労働者の眼球の動きを解雇理由にすると決めたりしても、こうした労働者たちに寄る辺はない。被雇用者を業務請負人であると偽ろうとするのは、まさにこのためである。処罰されることなく労働法規を犯せるからだ。

これはまだ皮肉とは呼べない。本当に皮肉なのは、企業がわざわざ総支出を増やしてまで行うAI活用が「クソ上司になること」だけ・・という点だ。マネージャーをクビにするために眼球運動を監視するAIを導入しようとする企業などない。マネージャー層は、AIが被雇用者を置き換えるのではなく強化してくれる唯一の場所だ。

AIによる監視ソフトウェアボスウェアは、この点においてテイラーイズムの諸形態と微妙に異なっている。テイラーイズムとは20世紀初頭に流行した"科学的管理法"で、雇用主の美的なフェチを満足させるために、マネジメントコンサルタントが労働者の姿勢や動作を規定するというものだった。

1900年代に起こったこの疑似科学的デタラメ人間工学は、屈辱的なだけでなく危険ですらあったのに、自動化にも至っていなかった。もしこれで生産性が向上したとして、それは「労働者を機械の歯車のように動かすことで彼らが歯車なのだという安心を得たい」という雇用主の真の目的に付随していたにすぎない。

どんなAIパニックも、AIが人々の生活を破壊しているという、現実的で、薄汚く、今ここで起こっている出来事から注意を逸らしてしまっている。AIが将来的にもたらすかもしれない大規模でまばゆい実存的危機という、ナンセンスでSFチックな主張を受け入れろとこれらのパニックが要求してくるためだ。

気の利く自動補完型のチャットボットが自我に目覚め、新しく手に入れた感性でもって人類をすべてペーパークリップに変えてしまう(訳注:ペーパークリップマキシマイザーのこと)などという「未知のリスク」はナンセンスだ。もっともらしい文章を生成する装置に言葉を追加したところでそれが超知能へと変貌したりしないのは、速い馬を選択的に交配させたところで自動車が生まれたりしないのと同じ理由による。

しかし、AIが人類を滅ぼす可能性がなくなったわけではない!大規模言語モデルのトレーニングおよび運用に関連する二酸化炭素の排出と水の消費は気候緊急事態を引き起こす大きな要因であり、既知の宇宙で人命を保ってくれる唯一の惑星(訳注:当然地球のことだ)における生活圏を脅かしている。

AIが人類を滅ぼすのと同じく、AIが働く人々を置き換えることもまたありえない。けれどAIはすでに、クソ上司が労働者を騙し、苦しめ、不具にし、死にすら追いやる力を強化しているのだ。年次報告書に記載する0.01%単位の数字を、なんとかしてほんの少しだけでも良く見せるために。

サイエンスフィクションは、我々が現在持っている技術に関する比喩を伝えるための便利で楽しい方法だ。しかし、未来に向けたロードマップというわけではない。私(訳注:コリイ・ドクトロウ)のようなSF作家が、地球を支配する人工生命体──すなわち有限責任会社──の便利なメタファーとしてAIを捉えているという事実は、人智を超えたAIが作られるべきであるということも、作れる・・・ということも意味してはいないのだ。

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