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地域に開かれた学びと、自らの意思で選択する未来を

2023年6月、茨城県久慈郡大子町に、地域おこし協力隊として着任した平石慶太(ひらいし・けいた)さん。

株式会社FoundingBaseに入社後、「教育によるまちづくり」の大子町拠点立ち上げに伴い、大子町へ移住。「大子清流高校魅力化コーディネーター」として、教育による地域活性化に挑戦しています。

今回は、そんな平石さんと松本美枝子マネージャーとの対談を実施しました。


子どもたちが輝く瞬間を作る!大子町での新たな挑戦

大子清流高校魅力化コーディネーター(大子町地域おこし協力隊)として、
教育による地域活性化に挑戦中の平石慶太さん

松本美枝子マネージャー(以下、松本。敬称略):平石さんは、「大子清流高校魅力化コーディネーター」の協力隊として、教育による地域活性化に挑戦中ですね。そもそも、教育を事業にしようと思った背景を教えていただけますか。

平石慶太さん(以下、平石。敬称略):高校生のころから、言葉に興味があったため、大学は文学部を志望しました。日本語について学んだのち、高校の教員になろうと思っていましたが、紆余曲折を経て大学院に進学。卒業後は、IT企業の営業職を経て、塾で国語の先生として働くなど、教育に携わってきました。

松本:なるほど。そのような経験から、株式会社FoundingBaseへ入社、そして大子町で「大子清流高校魅力化コーディネーター」に挑戦しようと思った理由は何でしょうか。

平石:子どもたちの成長は、日本の未来に大きく影響すると思います。さまざまな教育現場に携わってきたからこそ、教育の役割の重要性を感じていました。学校で勉強するだけでなく、学んだことを社会と結び付けたり、学校の枠を超えて挑戦したりして、子どもたちがもっと自由に輝ける場を作れないかと考えていたときに出会ったのが、株式会社FoundingBaseでした。当社はまちづくりの会社ですが、教育事業では、単に質の高い教育を提供するだけでなく、子どもたちの挑戦を地域の大人が応援できるようなまちづくりを目指しています。そして、大子町も地域とともに歩みながら学びを深め、自分たちの住む町にもっと誇りをもってもらえる教育を実現したいという思いを持っていました。当社と大子町、そして自分の教育への思いが重なったことが、今回の挑戦に繋がりました。

自ら未来を切り開いていく。
家でも学校でもない、第三の居場所

松本:平石さんの教育への思いが伝わってきました。さて、「大子清流高校魅力化コーディネーター」として着任し、7か月ほど経ちますが、現在はどんな活動をされているのでしょうか。

平石:主に、大子清流高校の総合的な探究の時間の見直しや高校内にある公営塾「ことのば」の運営を行っています。

2023年9月に大子清流高校内にオープンした公営塾「ことのば」。
一人一人の学力向上と地域を舞台にした生徒の挑戦をサポートしている

松本:ありがとうございます。まず、総合的な探究の時間についてお伺いできればと思います。既存の総合学習を見直さなければならない、その背景は何でしょうか。

平石:大子清流高校は、町内唯一の県立高校であるにも関わらず、生徒を募集しても、残念ながら長い間、定員割れの状態が続いていました。そこで、いわゆる科目ではない、総合的な探究の時間の授業内容の見直しを実施することで、大子清流高校ならではの魅力を高め、町内外に広めていくことになりました。

松本:実際に、どんな授業を行っていますか。

平石:子どもたちが自ら未来を切り開いていけるように、価値観を広げる「キャリア教育」などを行っています。大子町で地域と密着しながら仕事をしている方に講話をお願いし、両親や先生とは違う大人と関わることで、自ら将来を切り開いていけるよう、サポートしています。

松本:新たな世界に触れることで、価値観も広がりますね。続いて、大子清流高校内にある公営塾「ことのば」ではどんな授業を展開しているのでしょうか。

平石:公営塾「ことのば」は、学校の付加価値のような存在です。基本的には、進路の実現に向けて、学力支援や推薦入試のための小論文指導、面接指導などを行っています。そのほか、大子町の豊かな地域資源を生かした体験学習を導入しています。

松本:体験学習についても、やはり「ことのば」ならではの学習になりますか。

平石:そうですね。簡単に言うと、子どもたちの「やってみたい」を叶える学習です。現在は、大子清流高校の生徒が中高生向けの大子町ツアーを考えています。参加者に満足していただくためにも、大子町教育委員会の方にツアーをプレゼンテーションして、フィードバックをもらう機会を設けています。自ら「やってみたい」と思ったことを形にする大切さを学び、価値観を広げてほしいと思っています。

大子町ツアー実現に向けて、アイデアや課題点などを
プロジェクトコメントシートに落とし込んでいく生徒

松本:総合的な探究の時間も、「ことのば」での体験学習も、子どもたちの価値観を広げる点が共通していますね。ちなみに「ことのば」には、価値観を広げて、自ら何か「こと」を起こすといったような意味が込められているのでしょうか。

平石:おっしゃる通りです。もともとの語源は「言の葉(ことのは)」で、心の中の種が育ち、それが枝となり、葉となって成長していくといった意味です。子どもたちの勉強や体験も、さまざまな学び(肥料)を与えることで、枝葉を広げるように自ら意志のある未来を選択してほしい、素直に「やってみたい」を形にして「こと」を起こす場にしてほしいという思いから「ことのば」と名付けました。自ら未来を切り開いた子どもたちが大人になったとき、次の世代を育てる可能性も生まれると思います。

松本:素晴らしいですね。お話を伺う中で思ったのが、「ことのば」は、家でも学校でもない第三の居場所、そんな存在ではないでしょうか。

平石:そうかもしれません。実は、大子町の教育委員会教育長とお話をする中で、「ことのば」を子どもたちの居場所にしたいという思いが私の中で生まれました。家でも学校でもなく、子どもたちにとって安心できる場所であってほしいです。そして、ここで恐れることなく、何か「こと」を起こして、挑戦してほしいですね。

町全体の教育に携わる一人でありたい

生徒の挑戦に寄り添う平石さん

松本:学校以外にそのような場所があるのは、とても大切ですね。塾に通う生徒さんにとって、平石さんはどんな存在だと思いますか。

平石:塾で授業をしているので、先生という立場が近いと思います。また、高校の中にある塾なので、高校であった出来事の相談を受けることも多いです。ですが、私自身は先生というよりも、町全体の教育に携わっている一人という認識でいます。

松本:それはやはり、株式会社FoundingBaseの社員が協力隊として大子町に関わるという形だからでしょうか。

平石:そうかもしれません。自治体や町に対して、個人と組織での関わり方は異なると思います。個人では限界がありますし、おそらくそれ相応の悩みがあるのだろうと感じています。そして、大きなプロジェクトになればなるほど、個人では限界があるのではないでしょうか。私の場合大枠は、教育による地域活性化です。それを会社として請け負い、高校の魅力化に挑戦しています。なので、当社のように組織として町に関わった方が、事業を動かしやすいのではないかと感じています。

松本:実際に大子町と関わってみて、どんな印象を持たれましたか。

平石:大子町は、町の観光資源も魅力的で、地域プレイヤーが多いと思います。また、お互いに協力できる環境が整っているので活動しやすいです。すでに大子町を拠点に活動する現役協力隊やOB、移住者などとも繋がっているので、いずれは総合的な探究の時間や公営塾に関わってもらえると嬉しいですね。

公営塾「ことのば」にあるホワイトボード。
大子町の魅力をSNSで発信するために、アイデア出しを実施

松本:子どもたちが、地域プレイヤーと関わることで、また新たな価値観も生まれそうです。実際に大子町で子どもたちと関わってみて、どんなときにやりがいを感じますか。

平石:子どもたちの表情が変わる瞬間を見れたときです。答えが分からず、悩んだり、苦しんだりしたとしても、分かった瞬間の笑顔や納得した表情に変化したとき、子どもたちと関わってきて良かったと感じます。

大子町にとって当たり前で、開かれた場所になる

松本:子どもたちの笑顔は、何よりの宝ですね。最後になりますが、今後の目標について教えていただけますか。

平石:子どもたちに対しては、やはり、それぞれが自分の意思で選択した進路を実現できるよう支援していきたいと思っています。大子清流高校は、大学や専門学校への進学、就職など進路が多岐にわたります。選択できる進路を実現させるために、学習支援をきちんと行っていきたいです。

松本:一人でも多くの生徒が意志ある選択を実現してほしいですね。「ことのば」については、どんな未来を思い描いていますか。

平石:大子町の中で「ことのば」がしっかりと認知され、日常の中で当たり前の場所になることを目指しています。また、町内の中学生にとって、大子清流高校への進学が常に選択肢として入ってほしいです。なので、高校についても地域に開かれた学校を目指しています。そして「ことのば」は、高校生を対象とした塾ですが、いずれは中学生にも広げていきたいと考えているので、町内の中学校へのアプローチを積極的に続けていけたらと思います。

松本:平石さんは「大子清流高校魅力化コーディネーター」でありながら、町全体の教育を考えていらっしゃるのだと思いました。まだまだ始まったばかりだと思いますが、これからも、子どもたちに寄り添いながら、教育の力で、大子町を盛り上げていってください。応援しています!

(撮影:松本美枝子)
(執筆:谷部文香)

Profile

平石慶太
神奈川県出身
茨城県大子町地域おこし協力隊
大子清流高校魅力化コーディネーター(株式会社FoundingBase 教育事業部 教育チーム)

松本美枝子
写真家、アーティスト
一般社団法人 自由と地図 代表理事、茨城県県北地域おこし協力隊マネージャー
常陸太田市で拠点「メゾン・ケンポク」を運営し、地域のネットワークを構築