大河内愛加さんが考える、架空のアーカイブギャラリーとしてのNESTING
「あなたが新しく家を建てるとしたら」をお題に、問いかけます。答え手は、借りものではない暮らし方を愛し、選ぶみなさん。
第3回目は、日本とイタリアのデッドストックや伝統工芸品などの素材を組み合わせたファッションアイテムを展開する<renacnatta(レナクナッタ)>代表の大河内愛加さんです。
伝統工芸の技と価値を知るショールーム兼オフィススペース
Theme / Showroom for the authentic thing
Keyword / sophisticated, cultural, authentic, connect with local
Size / M
Person / Women (Partnership), age31, <renacnatta>Designer/DirectorPurpose / Showroom with the office
イタリアで知った、クラシック足るものづくり
Story by Aika Okochi
本物を知ること。これは私がディレクターとデザイナーを務める、日本の伝統技術とイタリアのデッドストックシルクを組み合わせて新しいものへと生まれ変わらせるファッションブランド<renacnatta>の柱とする思想でもあり、私自身の人生の哲学でもあります。
本物とはすなわち一過性のトレンドに消費されることなく、どんな年代の方にも長く愛用されるシンプルで普遍的な価値をもつもの。私はそう考えています。このありかたは15歳から一家で移り住んだイタリア・ミラノの文化観、価値観に大きく影響されました。その当時、私たち家族の暮らしは19世紀初頭に建てられたアパルトメントが拠点。街へと一歩踏み出せば3世紀から姿を大きく変えることなく残る教会や美術館が点在し、そこではルネッサンス絵画などの名画にあふれていました。
昔から姿を変えずに、数百、数千という長い歴史を経てなお確かに残ってきたものたち。そこに宿る普遍的な価値を生かし、文化や素材の歴史、職人の方々の想いを感じながら「文化を纏う」という選択肢を作りたい。そんな思いでブランドを運営しています。
もし私がNESTINGを活用するとしたら、その想いを伝え繋ぐためのコレクションをアーカイブギャラリーとするアイディアが浮かびます。2023年春にオープンする、京都の中心部のショールームと棲み分けて、過去作をお見せできるかと。
そこでは普段私たちがお付き合いのある職人の方々の想いが語られるインタビュー映像が流れていたり、製造の過程を細かく知っていただくための展示が常設されていたり。どんなに優れた伝統技術によって生み出されたものでも、詳しくその背景を知っているのと、そうでないのとでは手に取る人の感じる価値は全く異なるもの。この場に足を運んでいただくことで、新たな価値、私たちの提案する「本物」を感じてもらいたいです。そんな触発の場があったら面白そうですね。
ものづくりの裏側には人がいる。その人には代わりのきかない技があり、その技もまたたくさんの人間が伝え継いできた時間と知恵によって培われてきたものがあります。それらの価値を届ける場所がいつかできたら。そんな風に考える時間もまた面白く、夢が広がります。
Behind the Story
Aika Okochi × NESTING
──「家づくり」という概念から飛び出し、知ることを目的としたアーカイブギャラリーをご提案いただきました。確かにどれだけ文化的価値のある工芸品でも、その背景や技術力の高さを十分に理解できず、その価値がわからずじまいということはよくあります。
大河内:だからこそしっかりと伝えることが大事だと考えています。そうしてものづくりについて知ることで、「もの」自体に感じる価値も高まります。
私たちは日々、現場でさまざまなことを職人の方々から教えていただいているので、その生の声や、微に入り細に入りこだわる技の数々を、温度感を損ねることなく使い手となる皆さんにお届けすることも私たちの使命だと思っています。
──ものづくりの現場と、使い手をつなぐコネクションパイプのような役割でありたいと。
大河内:そうですね。多くの職人さんとお会いする中で、私自身さまざまな気づきがあります。最近ですとレザーに関する学びがありました。それまではレザーはあまりエコなアイテムではないと思っていましたが作り手の方のお話を聞き「必ずしもそうではない」と気付かされたんです。レザーは私たちが牛肉や牛乳を消費する限り生まれる、畜産物の副産物なのだと。丁寧に手入れをすれば一生使い続けることができます。だとすれば、すでにレザーとなった素材をきっちりと使うことも大切で、それがレザー素材に向き合うべき姿勢なのかなと。そういったことを、ものづくりを通じて伝えていきたいと思っています。
──素材や職人を尊重するものづくりであることから、<renacnatta>の服やアイテムの完成までに時間がかかることもあると聞いています。
大河内:私たちが手がけるアイテムは職人さんが素材から作るものばかりなので、一般的な服作りと比べると時間も手間も多分にかかります。そのため店舗での即売はなく、アイテム数を限定した在庫販売か受注生産がほとんどです。
しかしこの先、たとえばアーカイブギャラリーを設けるとしたら、<renacnatta>の服をいつでも手に取り、纏い、流行に左右されないベーシックさや上質さを体感いただくことができるようになるかもしれません。私たちが長く時間をかけてものづくりをする理由や意義、こだわりなどへの納得感も高まるのではないか。そうした、リアルな場所があることでお客様に知っていただけることも増えるのではないかと、想像するだけで期待が高まります。
ギャラリーに並ぶ私たちの服からだけではなく、空間全体でも「本物」を感じてもらえたら嬉しいので、壁の仕上げは京都の左官さんに漆喰を塗っていただくのもいいですね。地元木材の活用がNESTINGでは叶うので、地域の伝統工法などとの噛み合わせも良さそうです。ブランドコンセプトへの共感もあり、ギャラリーの横にオフィスを併設して、私たちのものづくりの思想哲学そのものを体感いただくことも考えられそうです。
──大河内さんは、かねてより家などの物件設計に関して思うところがあったとか。
大河内:そうですね。根本的な話ですが、物件の図面だけを見ても完成像がなかなかわかりにくいなと思ってきました。このモヤモヤをどうにかできないかと、自邸に関しては3Dデータが起こせる夫とともに自分達で仮想空間に妄想を詰め込んだ家をVRで作ったりもしました。
この実感を伴う感覚的な家づくりの延長線上にNESTINGがあるように感じます。まるでゲームのように家を作ることができると言いますか。こうした気軽さって大事ですよね。
──見積もりや工数を削減して、家や事務所を作る障壁を低くしたい。それは私たちの狙いでもあります。
大河内:家に関して言えば、最初のステップはモデルルームを見て回ることから始まります。ですがこの工程にこそ、とにかく時間がかかるものです。展示会場となるモデルルーム1軒あたりの所要時間は大体1時間程度。それだけの時間をかけても、「ここはなんか違うな」と感じれば、まるで同じことを別のショールームで何度も繰り返すことになります。膨大な時間がかかる割に、予算など現実的な話は聞けないこともあります。
それがNESTINGを活用することで平日の昼間や休日の隙間時間など、自分たちのタイミングで自宅やオフィスのパソコンの画面を操作するだけでだいたいの間取りや金額感がすぐにわかる。ハウスメーカーにアポイントを取ったり、パートナーと休日の予定を合わせたり、実地見学を繰り返したりしなくてもいい。この気軽さから、家づくりの最初の一歩をかろやかに踏み出せるように思います。
──はじめの一歩が億劫に感じられる。これは家づくりにしても、事務所やショールーム探しにしても、不動産の常ですね。
大河内: 不動産探しに限らず、個人的には「最初の障壁をできるだけ低くすること」それ自体にとても大きな意義があると思っています。私たちのブランド<renacnatta>においてもそうです。技術力のある職人さんとともに伝統工芸の技を織り込んだものづくりをしている、とつい大きな声で言いたくなりますが、「伝統」や「工芸」という言葉に対して反射的に心を閉ざしてしまう方もいらっしゃいます。「(伝統工芸というハードルの高さから)自分の纏うべきものではない」と思われたり、伝統工芸という言葉そのものの印象が先立って「古臭いもの」と感じられたりすることがありますから。ですからまずはその手前の綺麗さや可愛らしさなどビジュアル的なライトな訴求から入ってもらえたらいいですね。そして最終的に伝えたかったものをしっかりと捉えてもらえたら嬉しいです。私たちにとって本当に伝えたいものとは、伝統工芸の普遍的な価値についてですから。
そうしたことからも踏み出しやすい一歩目を提案することは重要だと、強く思います。
Writer:Yuria Koizumi
CG:studio anettai
Brand director:Genki Imamura(B&H)
Shooting Director:Ai Ushijima(B&H)
Photographer:Stefano Cometta(B&H)
Director:Koki Akiyoshi(VUILD)
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