本間貴裕さんが考える、「自然に遊び、暮らす」ためのNESTING
「あなたが新しく家を建てるとしたら」をお題に、問いかけます。答え手は、借りものではない暮らし方を愛し、選ぶみなさん。
第2回目は、人と自然が共生する社会の実現を目指してつくられたライフスタイルブランド「SANU」ファウンダー、ブランドディレクターの本間貴裕さんです。
躍動と静寂がつながる、大自然を遊び尽くすアクティビティベース
Theme / After playing as much as you can in the open airKeyword / Freedom, Durable, Ease, Customizable, Property quality
Size / M
Person / Man(Partnership, Two children), age36, “SANU”Founder+Brand Director
Purpose / For outdoor activity base
夜の、森の、静寂の音が聞こえる
Story by Takahiro Honma
20代を終えて30歳をむかえた時、自分の人生は有限だと気付きました。圧倒的に美しくダイナミックな自然を有する地球と遊べるのは、多く見積もっても残り40年しかない。ならば都会の生活に疲れたタイミングで時折癒しや楽しみを目的とするのではなく、生活の一部として自然とともに生きていこう。そう決めました。
今は北海道の東川に移住しようと準備している最中ですが、それに加えて、もしセカンドハウスを建てるとしたら、山に登ったり、スノーボードをしたり、フライフィッシングをしたりして遊んだ後に帰るアクティビティーベースを建てたいですね。大好きな、八ヶ岳山麓周辺に。
そこではなにもしません。ただ、何もなく過ごすというのは僕の場合すこし物足りないもの。何もない時間がいい時間になるのは、その手前に負荷をかける時間があるからだとずっと思っているんです。ベースで過ごす前に、目一杯自然で遊ぶ。自然の中での遊びはどうしても少し危険を伴うものでドキドキしたり不安を感じたりすることも多いけれども、帰ればそこには安定した居場所がある。その緩急が魅力かな。
そのベースは静寂が場を支配していて、暗さがある。朝と夜がある。風が通り抜ける。自然の音が聞こえる。そんな場所になると思う。静かで落ち着いたところがすごく好きなもので。
自然換気ができて人工物の音がしない。完全なる静寂。聞こえるのは、森のざわめき、鳥や虫の鳴き声、雨や風の動きから生まれる音。で、照明のスイッチを消せば、ちゃんと真っ暗になる。照明をつけたとしても、空間のすみずみまで照らされるものじゃなくて、うす暗いくらいがちょうど良い。電球3つしかありません、みたいな。キッチンにひとつ、テーブルにひとつ、ベッドのところにひとつ。その、しんとした空間で、あちらとこちらの窓を開ければ、風の通り道ができる。
そうやって自然がもつ、根源的な時間の流れやリズムに則って暮らす方がよいインスピレーションが湧くはず。楽しいと思うんですよね。生活を便利にしていった結果、人はいろんなインスピレーションを喪失してしまった。いろいろと制限してあげる方が、実は心地よいのではと思います。
もちろん僕たちがその土地で暮らすことが、周辺の自然環境にとってよい方向につながるものでありたいし、そうあるべき。自分が生きることが環境にマイナスにならないことが、これからの時代の安心感にもつながるんじゃないかな。
アクティビティベースでありながら、そこでゆっくりとした時間を過ごせる。そして、僕が、時間をともにする友人や家族たちが、自然に対していい効果をもたらす。そこに家があることで。
その全てを達成したい。これは僕が関わるSANUにも通じる考えです。
Behind the Story
Takahiro Honma × Nesting
──仲間や家族、自然を愛する本間さんらしさのあふれる家を構想いただきました。
本間:自分の家について考えるとき、自分がほうきで掃ける範囲の家に住みたくて。必要最小限であり十分。ひとりでいても寂しくないくらいの広さで、でも友達が遊びに来たり、遊び盛りの子ども2人(6歳と9歳)を連れて数泊したりしてもストレスじゃないような。
こと家について言えば、やっぱり道具だと思っているから。いい意味で。だからまず丈夫で便利で快適で強く自然によいものであってほしい。それにプロダクトとしてだけではなく、背景含めた魅力があることも大前提。自分が愛せる躯体かどうかってことも。
自分が引っ越して新たな土地で暮らすことで、近くの海がすこし綺麗になったり、森が豊かになったり、泳げなかった川で泳げるようになったとか、そういうことにつながっていけたらと思うんですよね。
──「自然とともに生きることが人間を肯定することにつながる」。以前、そうおっしゃられていました。
本間:そうそう。人間って生きるのがなんでこんなに不安なんだろうってずっと考えてきたんですよね。生きることに根源的な不安を抱えている人がたくさんいる気がして。
でもそれってすごい単純な話で、人間が地球での役割を果たせていないからなんじゃないかなって。例えば学校の教室で、職場で、家庭で、自分が役に立っていると思えないと不安になるのと同じように。自分がどんな役割をもっているかってすげえ大事。これはなにも哲学的な話でもなく、生き延びるという種の観点からみたら実利的な話で。猿でも馬でも動物みんなそうで、それぞれの種が生きるコミュニティの中で、おのおのなにかしらの役割をもっている。それを最大限俯瞰して見たときに、地球に対して人間が、どんな役割を果たすかってすごく大事な気がしてる。なのにそれが今、完全に欠落しているから、人間が動けば動くほどに地球をぶっ壊すし、戦争をする。本来だったら、やっぱり人間の活動が地球の保存や回復に寄与すべきだと思うんです。
生きることそのものが難しかった時代には「生きたい、生き延びなきゃ」という欲求で生命活動を続けられたと思う。けれども、生きることがイージーになった現代で、生きる意味を考え直してしまうのが人間なのかなと。
──そこで先ほどおっしゃっていた「新たな土地に暮らすことが、その土地の自然環境に貢献できる(役立つ)」という話につながると。
本間:そうそうそう。それはもうなんでもそうですよね。服を着てもそうだし、人間が生きること、ひいては消費活動全てがそうだと思う。生きることで環境がよくなっていくことは、この先、マストとなる考えだから。
条件が同じで、環境によいホテルと悪いホテルがあれば、何も考えずに前者を選ぶ時代がきてる。それは家を建ててもそう。ビジネスとしてもカルチャーとしても生き方としても。そこらへんはすごく大事な部分。
──エシカルであることは、もう一部の誰かの特権的なものではない。
本間:2、30年前は、高級車に腕時計、別荘を所有して、タバコをポイ捨てするのが格好いい、みたいな憧れやドラマの演出もありましたが、今は違う。贅沢ではなく簡素で、調和のとれた「新しいかっこいい」を僕自身、作りたいと思ってます。そういう時代がくるんじゃないかな。もうきてるとも思うけれど。
──建築の世界でも、ヴァナキュラー建築という考えが今あらためて注目されています。
本間:そういうことが自然に叶うということも含めて、NestingはiPhoneみたいだと思いました。意図的に選択したわけではないけれども、結果的によいユーザー体験につながってるから。
iPhoneって、こと細かに説明したらiPhoneじゃなくなってしまう。なんとなく触るうちに感覚的に操作がわかって、その便利さに気づく。非常に複雑なものが究極な形でシンプリファイされている。で、突然現れたそれがスーパー便利で「実はこういうのものが欲しかったんだな、俺」って気付けるみたいな。その体験をもたらすプロダクトってずっと愛され続けますよね。
──iPhoneが取っ払った複雑さは、もしかしたら建築業界の、本来、施主が考えるべきだけれどもブラックボックス化されているややこしい専門分野と重なるかもしれません。
本間:そうそうそう。建築の世界って知っている人は知っているけれども、本当はハードストラクチャーとか法律関係とか図面とか工期とかいろんなものがめちゃくちゃ複雑にのっかってる。しかもその空間でどう過ごすかってソフトコンテンツもある。
家とかね、買ったこともないのに35年ローンを組んで、一緒に仕事をしたことのない設計士と工務店に任せるとか。たとえ良いものができても担当者が微妙だったとか、施工会社が手を抜いていたとかってめちゃくちゃ嫌な思い出になるじゃないですか。ガッカリ感も半端ないし。仕事でやる分にはバチバチ戦いますけど、それをプライベートでやるってハードルがめちゃくちゃ高いと思う。
その一連の流れを全部キュレーションしてるんだと思う、Nestingは。それでいて複雑と言わない勇気というか、「こんなに簡単なものを作りました」って。
空間設計に携わる僕が言うのもなんだけど、ゼロイチで家を新しく建てるのってけっこうしんどい。完全な自由は結構負荷になると思うから、制限された自由がなんだかんだで一番便利なんじゃないかなと思いますよ。
──本間さんの言うところの「自由」を、わたしたちも目指しているのかもしれません。
本間:「自由」っていろんな捉え方がある。たとえば所有することで、自分の心が軽くなるとか、わくわくすることもそうだよね。それを手に入れることで自分の行動原理や行動範囲が自由に広がっていくというような。新しく車を買ったら、いろんなところに行けるんだって思ったり、八ヶ岳の周辺に新たにセカンドハウスを建てることで釣りを始めてみようかな、スノーボードも置いてみようかな、と心が晴れていく感じがそれ。
一般的ななにかじゃなくて、自分の、自分にとっての心地よさと、「なにが欲しいのか」を考えた先にあるオリジナルが自由につながっていく。さっきも言ったけど、一定の枠組みの中で得られる自由が実用的で便利だし、そこで子どもに残したくなるような、自分のインスピレーション的にもいいものが生まれたらハッピーだと思うんですよね。
Writer:Yuria Koizumi
CG:studio anettai
Brand director:Genki Imamura(B&H)
Shooting Director:Ai Ushijima(B&H)
Photographer:Stefano Cometta(B&H)
Director:Koki Akiyoshi(VUILD)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?