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【質問回答回】 そもそも天秤にのせるべきじゃないんだよ

今回は質問回答回ですが、質問箱に投稿されたものではなく、少し前に猫山が直接相談を受けたものです。

相談を受けたものの、口頭ではうまく回答をすることができず、自分としても消化不良なものとなりました。

ならば、文章で回答しよう。そう思ったわけです。


相談者の男性はアラサーで、けっこう歳の離れた彼女がいます。

当然結婚を考えますが、彼女はまだ若い。そして、彼女には目指したいものがある。

彼は経営者であり、年齢的にも子どもも欲しくなってきている。また、彼女には自分のビジネスに協力してほしいとも感じている。

そんな若者の悩みに、しっかりと回答することがおっさんの役割だと思うのです。


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君から相談があると言われた時は、正直ちょっと構えてしまった。

なんせ君は意欲的な若い経営者であり、勤勉で、常に会社や社員のことを考えている人だから。そんな人物からの相談は、低レベルなわけがない。

ハイレベルな経営の相談に応えられるほど、僕に力があるわけじゃない。20年以上、社畜をしてきただけの僕に、君にとって光明となるようなアドバイスなんかできるわけがないんだ。

「これは困ったなあ…」

かと言って逃げるわけにもいかず、腹を括って聞いてみれば、相談はとても意外なものだった。

君は、大切なものを両手に握りしめたまま、天秤の前で途方に暮れていた。

握りしめていたのは、彼女と、守るべき会社だった。

僕は、ますます天を仰ぎたくなった。

そんなの当然だ。まだ経営の話の方が良かった。その方が気楽に答えられただろう。

君が握りしめているものは、それぞれがとても価値があるものだった。それを、君は天秤にのせようとしている。

言うまでもなく、残酷な行為だ。そんなことをすべきじゃない。

でも、君を取り巻く環境からすれば、それは避け難い選択肢として濡れた布団のようにそこにある。なんとかしなければならないけれど、簡単にはいかないものとして横たわっている。

全てが丸く収まるようには見えない選択肢。その前提の中で、まし・・な選択肢を君に提示できるほど、僕は能力があるわけじゃない。

だから、その場ではうまく回答できなかった。

だから、こうして文章で君に回答しようと思う。

この回答は、明確なものとはならない。君が願うものとはならない、かもしれない。

でも、僕は人生の一つの真実を示したいと思う。

きっと、仕事と自らの役割に誠意をもって生きる君には受け入れられないものかもしれない。

でも、僕の話を聞いてほしい。

世界に70億ある内の1つの真実に過ぎないけど、この真実こそが君に送られるべきだと、僕は思ったんだ。



君の彼女は随分と若い。まだ可能性の入り口に立っている、そんな状態だ。

彼女にはまだまだ可能性が多く残されているけど、そろそろ可能性を狭めていく段階にある。それは彼女の悩みにもなっているかもね。

そんな彼女の選択を、君は尊重したいと言った。

それは普通のことだと思う。別に褒められることじゃない。

でも、君はずいぶん年上で、家庭がほしいと思っている。子どもだって欲しいと明言していた。おそらく結婚して家庭を持ち、子どもをもうけている同級生は少なくないだろう。そんな彼らを君は羨ましいと思って見ていたんじゃないかな。

心を寄せる相手がいて、相手も心を寄せてくれている。ならさっさと結婚して人生を進めていきたい。そう考えないわけがない。

でも、彼女のことを思い、彼女の可能性を狭める選択を突きつけることを避けようとしている。

普通に考えて、彼女が望む道を進んだ場合、結婚はともかく子どもは随分と先になるだろう。おそらくだけど、君がアラフォーになる頃に第一子となっても不思議じゃない。

今すぐにでも子どもが欲しいと望む君にとって、その事実は決して軽いものじゃない。複数の子どもが欲しいと思うなら尚更だろう。

そんな、決して口に出すわけにはいかない焦燥を飲み込んで、腹の底に隠しながら、彼女の選択を尊重しようとする君を尊敬する。

加えて、君は彼女に自分のビジネスのパートナーになって欲しいとも思っている。

でも、おそらく彼女はその道を、自ら好んでは選択しない。話を聞く限り、僕はそう予想する。彼女は自分なりのキャリアを目指したいと願うはずだ。

君が彼女をビジネスパートナーにしたいという気持ちは痛いほどわかる。僕が同じ立場でも、強めの選択肢として残さざるを得ない。


君は、ずいぶんと分が悪いゲームの只中にいる。そして、君が望む状態への勝ち筋はなかなか見えてこない。

もちろん「人生なんてそんなものだ」、そう言い切ることもできる。実際そんなものだ。

でも、それではなんの救いにもならない。そんな風に割り切るには、君はまだ若すぎる。

僕が君に伝えたいのは、明確でもなく、老成したものでもなく、現実的なものだ。

それは、「居心地の良いとは言えない隣人」と生きていくという、極めて現実的なメソッドだ。



君はずいぶんと勉強している。もちろん、経営全般についてだ。

それは財務や経理、資金繰りや投資だけでなく、労務関係、引いては心理についてまで幅広く思考を巡らせようとしている。それは見ていればわかる。

君は真面目で、誠実で、勤勉な経営者だ。だからこそ、悪癖に染まりやすいのかもしれない。


経営者の仕事は「決めること」だと言われる。これには僕も賛成だ。

経営者の仕事は、ヒト・モノ・カネ・情報を、どう入手し、どんな比率で保有し、どう運用するかを決定することだ。それだけだと言っていい。それが正しくできれば、会社は発展し続けていく。

決めるとは、可能性を絞ることだ。もちろんリスクヘッジとして他の可能性を残すことはあるが、基本的に決定とは、選択したもの以外を切り捨てることにほかならない。「選択と集中」とはそういうことだ。同時に全てを選択することはできない。

だから、経営の勉強をしていくと、自然と選択の訓練をすることになる。

日々の生活すべてにおいて、選択肢を吟味し、どれだけでも早く決断できるよう訓練することになる。

これは決して間違いじゃない。優秀な経営者たちは皆そうしている。そうでないと、好機を誰かに攫われてしまうのだから。日々の決断の訓練が、ビジネスの生存確率を高める。

しかし、それは愛する相手にも適用されるべきなのだろうか?


君は優秀な経営者であり、より優秀になろうとしている。それは口だけじゃなく、行動にも現れている。素晴らしいと思う。本当に。

でも、経営に対しあまりに誠実な君は、愛する人との関係性の中にも、それを適用しようとしているんじゃないかな。

つまり、現段階で答えを決めたがっている・・・・・・・・・・・

君の環境からして、仕方ないかもしれない。

でも、はっきり言って、それは言い訳に過ぎない。

君は、「答えを保留する」ことから逃げているんだ。


人はとびきり複雑な生き物だ。そして、常に一定の状態ではない。

歩む人生と、年齢と、それこそ体調やなんだかんだで、人の心はコロコロと変わっていく。何年も一定の人なんてほとんどいない。僕らは、自分でも呆れるくらいにふわふわしている。

だから、人間に対し、ビジネスのように明確な選択をしていくのは間違っている。人間は仕組み・・・じゃないんだ。

選択することもあるだろう。でも、それは常に、常に、暫定的なものだ。

君がおそらく好きではない言葉を使うならば、「その場しのぎの選択」ばかりになるということだ。

「そんなことで、幸せな人生を生きられる確率は上がらない」

君は、そう言うかもしれない。

でも、人は移ろいやすいという真実の前で、決めることにどれだけの価値があるだろう?

決めなくてもいいんだ。大事なことを後に回したっていいんだ。

人生は、夫婦は、家族は、ビジネスなんかじゃない。

明日にも死んでしまうかもしれない、儚いもの同士が寄り添っている状態は、そもそもが「その場しのぎ」なんだよ。

だから、決めずに一緒にいたって構わない。

選ばなければならない時が来て、そこで初めて考えたっていいんだ。

どうせそこで出た答えだって、暫定的なものに過ぎないのだから。

仮に、君が望むような選択を彼女がしてくれたとして、それがゴールだと思うだろうか?

聡明な君は、決してそうは考えないだろう。

ならば、いま選択することに、なんの価値があるだろうか?



ビジネスマインドは必要だ。それなくして会社は存続できない。君の研鑽は、必ず会社を光ある方へ向かわせるだろう。

でも、大切な人に対して、そのマインドは不要だ。

何も決めず、相手を受け入れ、状況に応じて選択をすれども、暫定的なものとして受け止めていく。その時その時、2人で良かれと思ってなんとなく決めていく。

白黒はっきりさせない選択に、経済合理性を感じることはないのかもしれない。

でも、信じ合う2人の間に、そもそも「経済」や「合理性」などという概念は不要だ。

そんなものを超えたところにこそ、連れ合う喜びと、確かな暖かさがあるんだ。

経済合理性のない、グレーな状態。

そんなモノにこそ、2人の人生を載せる価値があるとは思わないだろうか?


勇気を持とう。何もかも中途半端な状態を受け入れる勇気を。

信じよう。そうであっても、幸せな人生が過ごせるはずだと。

できる限り側にいて、自然の流れを待とう。互いが本当に相手を大切に思っているなら、必ず悪くない方に2人の人生は流れていく。

そう、信じて欲しい。

そう信じて、中途半端な状態という「居心地の良いとは言えない隣人」を受け入れて欲しい。



君たちの未来が光溢れることを祈っているよ。

そして友として、それを強く願っている。


どうか、春の日のような人生を。



猫山課長




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