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「スナックアキコ」のモデル猫

見よ、この目ヂカラ!
なにも悪いことはしていないのに、思わずごめんなさいと頭を下げたくなりませんか。

わたしがいま描いている「スナックアキコ」という漫画の主役猫、アキコママのモデルです。その名もアキコ。
餌を貰いにうちの玄関先に通っていた野良猫で、苦心惨憺の末捕獲し、不妊手術を施してのち、我が家に居座っている。

捕まえたのは手術が目的だったので、終わったら外へ逃がすつもりだった。アキコは通い猫だった一年の間に、産んだ子猫を連れてきたことが二度もあり、初めの三匹を生後二ヶ月ほどで皆失っている。しばらく姿を消したあとまたやって来て、数ヶ月後に再び三匹の子猫を産んだ。

わたしの目の前へ連れてきたときには、子猫にもう歯が生えており、さぞ痛いだろうにアキコは甲斐甲斐しく乳を与えていた。前回の子育てでも同じ光景を見ていたわたしは、三匹のやんちゃな子猫がいずれ車の行き交う道路に飛び出して、また命を落とすことになるかもしれないと考えた。そうなる可能性は高い。

アキコ捕獲作戦、決行。
夫が先に、アキコから見えない場所で遊んでいた子猫三匹を捕まえた。キャリーケースに入れた子猫を餌に、アキコを家の中へおびき寄せる。なんとか入ってくれた部屋の隅で、石のように動かないアキコ。どうにか二日後ケースに入れ、動物病院へ直行した。

子猫三匹はひと通りの検診後、すぐに里親を募集。いずれも運よく良縁に恵まれた。アキコは術後も絶飲食を続け、相貌ますます険しくなった。外へ離そうにも、まず体力を回復させてからでないと命が危ない。あれこれ工夫を凝らし、少しずつ飲み食いさせ、薬を混ぜるなどしてようやく落ち着いた頃に梅雨入りした。

雨の降り続く中に放り出すのは気の毒だと、梅雨が明けるのを待っていたら、今度は暑い夏の日差し。せめて朝晩涼しくなるまで、などと言っている間に、アキコはケージの中から媚を売るようになった。吊り上っていた細い目を丸く開き、尻尾を立て、わたしの顔を見上げて「ふるにゃ〜ん」などと鳴く。

ケージ生活が三ヶ月めになろうという日に、夫と相談してついにケージの扉を開け放した。ケージ越しに見知っていた先住猫二匹に近づいて嫌がられ、夫が近寄るとシャー!と威嚇していたが、予想していたよりもうんと早く、アキコは家猫のすべを身につけた。先住猫が出入りを覚えるのに一ヶ月かかったキャットドアをたった一日で習得し、ソファの端っこのクッションを早々と自分の寝床に決めたのである。

それから一年が過ぎた。アキコは生まれたときからこの家にいるような顔で大あくびをしている。自分がかつて丸くなっていた庭の芝生を、リビングの窓からぼんやり眺めるアキコの姿を見るにつけ、なんとも不思議な気持ちになる。
「あんた、去年のいま頃はその芝生に寝とったんやで」と声を掛けても、アキコはお愛想に「ふるにゃ〜ん」と鳴くばかり。

ちょっとその顔を一枚、と向けたカメラを、アキコがぐっと睨みつける。

最後まで読んでくださってありがとうございます。あなたにいいことありますように。