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【小説】連綿と続け No.59

夜空にはぼんやりと月が浮かび、
涼しい夜風が吹いている。

航は愛おしい人を連れて帰る幸せを
噛みしめながらゆっくりと歩いた。

自宅に着きベッドに降ろすと、
侑芽が目を覚ました。

侑芽)あっ、ごめんなさい……

目を擦りながら航に謝っている

航)ええから寝とれ

ベットに並んで腰掛け
ペットボトルの水を分け合って飲んだ。

侑芽)あ〜!美味し〜

航)ちょっこし飲み過ぎたのう

侑芽)素敵なお話を聞いていたら飲み過ぎちゃいましたね

航)たしかに。俺も初めて聞く話やった。なんや感動したわ

侑芽)もうあれドラマですよ!しかも美男美女ですし。すっごく憧れちゃいます!

航)俺達も、あんな風になれたらええな

そっぽを向きそう呟くと、
侑芽が航に抱きついた。

航)なんや急に……やっぱし酔うとるんか

侑芽がいつもより甘える。
困ったふりをしているが
本心では嬉しく思う航。

少し酔いが覚めたところで部屋着に着替え、
並んで歯磨きをしてからベッドに入った。

酔っているからきっとすぐに寝てしまうだろう

と航が思っていると、
仰向けになっている航の上に
侑芽が乗っかり抱きついた。

侑芽)少しだけこのまま……

首元に顔を埋める侑芽。
航はいつもより大胆な彼女に驚いている。

航)いつもこんくらい甘えてくれてもええんやけど……

上から唇を寄せ瞳を潤ませる侑芽が、
やけに大人びて見えドキっとさせられる。

普段はこんな雰囲気になっても、
航が侑芽に覆い被さるから、
その上下が入れ替わっているだけで
妙に気持ちが掻き立てられる。

何度も口付けを交わしているうちに、
段々と本気になり自然と腰が動いた。

気がつくと侑芽が
自分から服を脱ぎ捨てて素肌になっている。
それを下から見上げながら

航)俺のも脱がせて?

恥ずかしそうに航の服を脱がす侑芽。
互いにもう完全にその気になり、
吸い付くように口付け合う。

だが上にいる侑芽が
どうしたらよいかわからない
といった表情をしているから、
航の誘導で重なり合う。

酒の力といえど
普段は見せない女の顔をしているから
片時も目が離せない航。

突き上げるたびに感情が溢れ、
両手を繋ぎ波のように揺れた。

思いがけない彼女からの誘い。
その気が変わってしまわぬよう
夢中になって事を進めた。

だから初めて素肌のまま交わってしまい、
背徳感と独占欲が交互に押し寄せてくる

侑芽もまた同じような感情を持ちながらも、
もう止める事が出来ない。

互いにその時を噛み締めるようにして果てていった。

静寂に包まれた頃、
寄り添いながら横になっている。

航)今日は妙に大胆やな

侑芽)そういうこと言わないで……

タオルケットで顔を隠す侑芽と
からかいながら笑う航。
気づけば抱き合ったまま眠っていた。

翌日は2人とも休みで、
朝食を食べてからもまったりと過ごしている。

航)海でも見に行く?

侑芽)いいですね!海見たい!

航)ほんなら水着、着るが?

侑芽)着ませんってば!

はたから見れば幼稚なやり取りも、
今の二人には嬉々ききたる時間である。

井波からは車で1時間ほどの場所にある
高岡市の海岸に到着した。

ここは富山湾に面した景勝地、
雨晴あまはらし海岸だ。

義経一行が奥州に落ちのびる途中、
ここでにわか雨にあい
雨宿りをしたという伝説の地が残る。
今なお海岸には義経岩と名付けられた巨石がある。

侑芽)海だ〜!!

車を降りると侑芽がはしゃぐ。
昨夜のそれとは違い、
無邪気であどけない表情を見せている。

航)走ったらだちかん!

走り回る侑芽を捕まえた航。
そして海の向こうを指差した。

航)向こうに薄っすら見えとんが立山たてやまちゃ

侑芽)綺麗〜!ここからも見えるんですね!

少し霞んでいる立山連峰が
富山湾越しに見えた。

航)ほんで手前に岩が見えるやろ?松の木が生えとるんが女岩めいわ。その奥に見えるんが男岩おいわや。男と女の岩なが

侑芽)へぇ。私と航さんみたい!

航)俺達はもっとくっついとるやろ。しかも女の方がデカいし

侑芽)フフフ!そうでした

航)ほんで湾沿いに薄っすら見えとんが能登のとやちゃ

大半が石川県に属している能登半島である。
隣の氷見市はその付け根にあたりここからも近い。
だが能登半島はずいぶん遠いように思えた。

侑芽)能登、行ってみたいな〜

航)いつか行くけ

侑芽)はい!

海岸の岩場に腰掛け暫く富山湾を眺めていると、
航がゴソゴソとポケットをあさっている。

侑芽)……?

何かを取り出してから
真剣な眼差しを侑芽に向ける航。
侑芽も黙ったまま見つめ返す。

2人の背後では
氷見線の車両がカタンコトンと通り抜けてゆく。

航は大きく息を吐き
視線を遠くに向けた。

航)あのな……

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