山田脩人(月人)

静岡在住SE。執筆活動しています。 ・エブリスタ(https://estar.jp/u…

山田脩人(月人)

静岡在住SE。執筆活動しています。 ・エブリスタ(https://estar.jp/users/30536035) ・ブクログ(https://booklog.jp/users/stym1122)

最近の記事

文学トリマー #毎週ショートショートnote

「今回は521文字か」 髭を撫で付けながら男はモニターに出力された結果を見て呟く。 習慣になった毎週ショートショートの執筆作業だが、ここからが腕の見せどころだ。 多種多様な作家が参加するこの企画の主なルールは、毎週発表されるテーマと文字数制限。テーマに則して粗く文章を組み立てた後で、制限に合わせて文字を削るのが男の普段のやり方だ。その工程は、さながら文学トリマーといったところか。 今回は100文字近く削らないといけない。さあて、と男は作業に取り掛かる。 「この『無精髭を触って

    • 記憶冷凍 毎週ショートショートnote

      冷凍庫から試験管を取り出すと、博士はほくそ笑んだ。 それは博士が若かりし頃の数少ない女性との蜜月の記憶を保存したものだ。記憶は液状で薄桃色をしていた。研究の末に手にした記憶冷凍の技術を今から味わうのだ。 それを飲み干すと、目を瞑り集中する。頭の中で記憶が再生される。 「ぐふふ」 殆どを研究に捧げた人生が報われる。映像のように何度もリフレインできる。博士の口角が緩んだ瞬間だった。 「ぐ、ぐえ。なんだこの臭い」 記憶の中に立ち込める悪臭。腐臭だった。 「こんな記憶はなかったはずじ

      • 放課後ランプ #毎週ショートショートnote

        「あった!」 僕の手にあるのは「放課後ランプ」 学校の七不思議の一つだ。外見はアラビアンナイトに登場するランプだ。 いわく、ランプは所有者の願いを叶えてくれる。 皆が噂だと笑ったが、僕は研究に研究を重ね、ついに今日ランプを手にした。 願い事は決まっていた。僕は呟く 「ランプ、僕を高校1年生の春の林間学校まで時間を戻してくれ」 そこから全てが狂った。学年イチの美女、佐伯さんと付き合えるチャンスだったのに、幼馴染の木村と付き合うことを選択してしまったのだ。 木村も悪い子ではない

        • トラネキサム酸笑顔 #毎週ショートショートnote

          「トラネキサム酸の止血作用の機序はプラスミン阻害…」 「なんやねんそれ。寅さんケツ作業が机上でブラスバンド疎開?」 ぶつぶつとレポート用紙を解く田中につっこむ。薬学部は訳の分からない事を学んでいるようだ。 「ちゃうわ。なんやねんケツ作業て」 「そら尻トレや。SNSでおねーちゃん達が動画上げとるやん」 「アホ。俺が言ったのはトラネキサム酸や。出血に効くねん」 「やっぱケツやんけ。出ケツ言うてるがな」 「どこの世界に出ケツなんて症状があんねん」 「あるかもしれんぞ。センセ!ケツが

        文学トリマー #毎週ショートショートnote

          春ギター #毎週ショートショートnote

          「限りある一生。あと幾年の春が吹き抜けるか」 唸るように唄い上げた日々。桜の木の下。春によく映える青いギター。 思い出の公園にマンションが建つと知ったのは数年前。いつものようにギターを背負って公園に向かった日だ。いつも歌を聞いてくれるおじいさんが教えてくれた。その年のうちに着工するらしかった。 「残念だねえ。君の歌も今年で聞き納めか」 どこでだって歌うことはできた。でも、あの公園で私の歌を聴いてくれた人々は、私について来てはくれないのだと思った。 みんなあの場所が好きだっ

          春ギター #毎週ショートショートnote

          オバケレインコート #毎週ショートショートnote

          「ねえ聞いた?オバケレインコートの話」 「なんだそりゃ?怪談?」 「違う違う。ほら、ニュースでやってるじゃない。例の女子大生が何人か殺されちゃってる事件。あれの犯人よ」 「あの事件のことか。へぇ。そんなあだ名で呼ばれてるんだ」 「雨の日だけフラっと現れて、防犯カメラに映った姿がオレンジのレインコートだからそう呼ばれてるみたいよ」 「神出鬼没だからオバケってか」 「それもそうだけど、レインコートが体に対してすごく大きいからっていうのも理由みたい」 「ふーん。でも物騒だよな。被害

          オバケレインコート #毎週ショートショートnote

          深煎り入学式 #毎週ショートショートnote

          窓の外には満開の桜。その光景に目を細めた後マスターはコーヒーを差し出した。 「どうぞ。深煎りです」 「ありがとう」そう言うと老人は啜る。 「あぁ、美味しい」 マスターが破顔する。それはこの店自慢の一杯だ。 「4月になると学生がこぞって来るんですよ。ほら、すぐ近くの大学の新入生が」 「ほお。さぞ盛況なことだろう」 しかし、マスターは首を振る。 「若者には深煎りはウケが悪いようで。皆、SNSに投稿する写真だけ撮って、それっきりです」 「確かにこの苦味は歳を食ってからの方が味わい深

          深煎り入学式 #毎週ショートショートnote

          命乞いする蜘蛛 #毎週ショートショートnote

          「お侍様、どうか命だけは」 蜘蛛は両手を擦り合わせ祈るようにそう言った。 「ならぬ。主君に背くは武士にあるまじき所業。命を以て償う他なしだ」 侍は脇差を抜く。月明かりに刃紋がぬらりと光る。 「たしかに私が姫君が大切にしていた蝶を食ってしまいました。しかし、これではあんまりです」 「仕方のないことだ。くだんの一件で殿様は大層お怒り。償わねばならぬ」 そう言うと侍は脇差を構える。蜘蛛はぽろぽろと大粒の涙を溢した。侍が浪人だった頃からの付き合いだ。その思い出が頭を巡る。 「蜘蛛よ。

          命乞いする蜘蛛 #毎週ショートショートnote

          桜回線 #毎週ショートショートnote

          日本桜回線社。全国の桜の開花を管理するインフラ企業には一通の手紙が掲示されている。季節外れの冬桜が咲いた年に届いた手紙だ。 『日本桜回線社の皆様へ 以前にも手紙を送った者です。  先日、母が旅立ちました。春までは持たないだろうと宣告され、辛い闘病生活の中で窓の外に咲く桜を見ながら、母は安らかな最期を迎えました。先立った父との思い出である桜を一目見たいという願いが叶い、母はとても満足げでした。  季節外れの桜を咲かせるため方々への調整など、ご無理を聞いていただき大変感謝しており

          桜回線 #毎週ショートショートnote

          呪いの臭み #毎週ショートショートnote

          「よくここに来ました。皆さんは運がいい」 深夜2時。心霊スポット帰りに怪奇現象に見舞われた4人組が訪れたのは消臭寺。日本で唯一"呪いの臭いを嗅ぎ分けられる"力を持つ和尚がいる寺院。 「あの、実は」 背の高い男が切り出したのを遮り和尚は言う。 「皆まで言わずとも大丈夫。この中の誰かにかかった呪いを祓いましょう」 そう言うと和尚は先の男の臭いを嗅ぐ。 「ぐふっ」 咽せた。 「すみません、出がけに餃子を食べまして」 ニラとニンニクの臭いで呪いが分からない。やむを得ず隣の女性に移る。

          呪いの臭み #毎週ショートショートnote

          【第一回 あたらよ文学賞応募作品】 誘蛾灯

          第一回 あたらよ文学賞応募作品になります。 残念ながら2次選考落ちとなってしまいました。 また次回、力をつけて挑戦しようと思います。 誘蛾灯  ばちん、と短い音がした。誘蛾灯に誘われた虫が弾ける音。呆気ないくらいに一瞬で終わってしまった命ははらはらと隆弘の足元へと落ちた。ちょうど店の外の掃き掃除をしていた隆弘は、それをそのまま箒で掃くと腕時計に目を落とした。時刻は深夜の二時を過ぎた頃だった。 「国木くん、ちょっと」 そのだみ声に隆弘は振り返る。声の主は柿田だった。ふた回り

          【第一回 あたらよ文学賞応募作品】 誘蛾灯

          カフェ4分33秒 #毎週ショートショートnote

          からんからん。ドアベルをくぐって私は店内に入る。 遂に辿り着いた。都市伝説なんかじゃなかった。 「カフェ4分33秒」それがこの店の名前。どんな人でも人生でたった一度だけ訪れることができる。 滞在時間は4分33秒だけ。それがここのルール。 カウンターにはマスターが一人。私を一瞥したのも束の間、すぐにコーヒーが出される。品書きはこれだけ。 席に着きコーヒーを啜りながら店内を見渡す。出ていく者、入ってくる者、国籍人種を問わず老若男女さまざまだ。 この時の為に楽器を持ち込み演奏をす

          カフェ4分33秒 #毎週ショートショートnote