プロローグ 人はいつも自分中心に物事を考える。 ある人はそれを自分勝手だといい、またある人はそれを傲慢だという。 しかし、人間とはそういうものだ。 誰しも自己中心的な考えを持っており、その考え方は自分を守るためにある。 「あいつのこと嫌いだろ?俺が変わりに殺ってやるよ。」 ただし欲求に呑まれたり、使い方を間違えれば敵対視されることもある。 ここでは皆、他人の意思しか尊重してはならない。 知らない路地 気がつくと、狭い路地いた。 人一人分の隙間しかない狭い場所で
何かを考える訳でも無く、頭を空っぽにして。 思いついた単語を脳に並べて。 なにかになる訳でも無く、誰かのためになる訳でも無く。 ただそのままただ進むだけ。 何秒も、何日も、何年と。 思ったより、恐ろしいものなのかもしれない。
巣穴をでた。 丘に行きたかったが、行かせて貰えなかった。 茂みに潜んだ。 獲物を求めたが、何も来なかった。 遊びに行った。 追いかけっこしたが、追いつけなかった。 家に帰るとご飯があった。 その日の夕食は質素なものだった。 時計を見る、もうねる時間だ。 布団に潜る。不安と思考を枕元に置いて。 明日はどこに行こう。 外の世界から、誰かをさらってやろうか。
「なぁ柳田。人間ってさ、純粋な人とそうじゃない人っているじゃん?その違いってなんだと思う。」 半ば強制的に図書委員に選ばれた俺たちは、図書室で本にバーコードを貼っていた。 「今度は誰に恋したんだい。」 「なんでだよ!俺は三島先生一筋だ。」 「去年は他クラスの佐藤さんだっただろ。」 「あれは…優しいからちょっと好きになっただけだ!」 ほとんど人がいない図書室、入り口の隣にあるカウンターの奥で俺たちは作業をしていた。 外からは運動部と蝉の合唱が絶えず響き、夏の終わりに
どうしても思い出せないことがある。表の世界でのことだ。 自分は何もしていないと思った。 無実だと、叫んだ。 証明ができない。そんなことわかっていた。 けど、そもそも記憶がない。いや、記憶はあったはずだ。 もしかして自分で自分を言い聞かせてたのか? 雪とマシュマロ この街での仕事に慣れてきて、ある程度お金も溜まってきた。今住まわせてもらっている部屋はユリの好意で借りてる。そのおかげでずい随分安く済んでいるし、食費も自分と黒猫のキキの分だけだ。 (明日の休みちょっ
20歳になった僕へ 宇宙飛行士は楽しいですか?僕は今ならい事をがんばっています。サッカーは好きです。でもたまにめんどくさいです 。ちこくしたら怒られるし、あんまりシュートも決まらないです。本当はやめたいです。でも宇宙飛行士になるためにれんしゅうはがんばってます。そっちもがんばってください! (今とあんまり変わんねぇな。) 皆、ここで渡された手紙を読んで一喜一憂している。 「なぁ、お前なんて書いてた?」 「仕事頑張ってくださいだってさ。」 「子供の頃から真面目だなぁ
「ねえねえお父さん!」 無邪気な女の子は男にふさわしくない二人称で呼ぶ。 「だからお父さんじゃないの、お に い さ ん!!」 何度した会話だろう。彼女を拾って以来、俺の事をお父さんだと言いやがる。 「どっちでもいいじゃんそんなの。そんなのとより、おままごとしよ!」 「だーめ、明日も仕事なのー。」 1ヶ月ほど前の俺なら遊んでいた。子供の育てかたも知らなかった俺は、子供の言う通りにしてた。 この1ヶ月で思い知った。子供ってのは恐ろしい。 この子は大人しくて優しい
黒猫 狐面を買ってから役所に行き、手続きを済ませた。役所で黒仮面をつけていたら怪しまれるとユリから言われたので、普通の仮面も買っておいた。 ユリと名乗る白仮面の女の子は、寝床まで用意してくれると言ってくれた。誰も使ってない空き部屋がユリの住む路地の奥にあるらしい。断ったが、とりあえず見るだけと言われ、ユリの家に行くことになった。 「ここだよ。おじいちゃんが物置として買った部屋だから、遠慮しないでね。」 ユリの家はE18番の路地にある。ここに来て初めて入ったカフェ『ライク
プロローグ ここは間違っている、こんなことが起きていいはずがない。なんで俺が?そもそもなんで俺はここにいるんだ? 「許してくれよ、俺のとこには小さい子供がいるんだ…!資材を盗んだことは悪いと思っている、でも、でも…!」 「あぁ?お前がやったことに変わりはねぇだろ?俺もお前を殺したくて殺したいわけじゃないけどな〜?」 嘘をついている。こいつはずっと俺を嫌っていた。こいつが好意を持っている女が俺と仲良くなった時から。 「嘘つけ!お前は俺を殺したくて仕方なかった!ここでは
視界のどこかにいつも薬があった。 塗り薬、吸入器、目薬。飲み薬は台所にあった。 僕にとって、これはなんだろう。 体が楽になるもの。痛みを和らげるもの。辛さを忘れるもの。 こんなものなくたって、 僕にとって、これはどんな価値があるのだろう。
六年生 小学校で過ごす最後の一年。俺は彼女に恋をしたのかもしれない。 うちのクラスは、比較的活発で元気があるクラスだ。皆それぞれ個性があって、喧嘩などもなく、うまくやっていける人たちばかりだ。 一人を除いて。 彼女は学校に来ることが少なく、イベント事などは絶対来ない。 たまにクラスで授業を受けることもあるが大抵は午後になる頃には帰ってしまう。 いわゆる不登校というやつだ。 俺はあいつが嫌いだ。中途半端に学校に来て誰とも話さず帰っていく。雰囲気が悪くなる。 俺は