【映画感想】『劇場版SPYxFAMILY CODE: White』 ★★★☆☆ 3.2点

 人気テレビアニメ「SPYxFAMILY」のオリジナル劇場作品。スパイの父ロイド・フォージャー、殺し屋の母ヨル・フォージャー、超能力者の娘アーニャ・フォージャーの3人がそれぞれの素性を隠しながら疑似家族として暮らしていく姿を描くコメディ作品。本作では旅行に出かけたフォージャー家の面々がひょんなことから世界を揺るがす大事件に巻き込まれていく様が描かれる。



 昨今のジャンプアニメの映画化ラッシュの中、今や一大コンテンツとなった人気アニメ「SPYxFAMILY」の満を持しての劇場版となる本作。近年の漫画原作アニメの傾向としては、原作のエピソードをハイクオリティで映像化するというのがスタンダードであるが、本作は劇場用の完全オリジナル脚本の作品となっている。これが出来るのは、世界観の設定はしっかりしている一方で、大きな縦軸のストーリーは意外と希薄なこの作品の特殊性によるところであろう。



 原作「SPYxFAMILY」の作品としての特徴はコミカルさとロジカルさのバランスの良さだ。ロイドの高すぎるスパイ能力や、ヨルのあまりにも人間離れした身体能力で、冗談のようにサクサクと任務が進んでいく破天荒さと、それぞれの登場人物の思惑がチグハグに食い違いつつも最後はきれいにハートウォーミングな結末に決着するストーリーテリングの巧みさが絶妙に噛み合わさって、コミカルでポップなのに上品さやリッチさも兼ね備えている点が本作の強みである。

 それで言うと、劇場版である本作はこれらの要素のうちのロジカルさを若干かなぐり捨てているところがあり、原作におけるすれ違いの妙のようなものは薄い。というのも、原作ではロイドやヨルが互いの素性に気付かないように、作中の重大事件の渦中からどちらかがはじき出されるように巧妙に物語が組まれているのに対して、本作では物語の最終局面で訪れる重大局面にフォージャー家の3人が協力して立ち向かう構成になっているため、すれ違わせようがないのである。具体的には原作のエピソードであったならば、終盤の巨大空母には絶対にヨルは乗り込まないであろうし、ロイドとアーニャも絶対船内で鉢合わせはしないように物語が組まれるはずなのである。



 しかし、では作品の出来が悪いかと言われるとそんなことはない。本作の作品としての狙いは、明らかに子供も大人も安心して楽しめる正月ファミリー大作アニメ映画であり、ドラえもんやクレヨンしんちゃんや名探偵コナンが毎年興行しているアレの枠であるのは間違いない。であれば、そりゃあ、ロイドには敵と激しい頭脳戦を繰り広げてもらわなければならないし、ヨルさんには激しい作画でグリングリンに戦闘してもらわなければならないし、アーニャにはしっかりコメディリリーフを担当してもらわなければならないし、最後にはフォージャー家で一致団結して問題解決してもらわなかければならない。となれば、事件の中心には3人全員がしっかり揃ってもらわなければ困るのである。そこで変にロジックを優先して、ケレン味を欠くのは絶対に悪手だ。この作品の目指すところは、幅広い客層が気持ちよく楽しめる展開をてらいなくハイクオリティで提供して、「あ〜面白かった」と劇場を後にしてもらうことなのだ。であれば、大いなるカタルシスこそが絶対に優先されるべきであり、これを多少の強引さには目をつぶって敢行した本作のスタッフ陣の決断は絶対的に正しいのである。そして、そういった展開の粗さを内包しつつも、エンターテインメント大作としてしっかりきっちりと破綻なく物語をまとめた脚本の手腕は、取捨選択の潔さも含めて高く評価されてしかるべきである。



 先程例に上げたドラえもん、しんちゃん、コナンとは違い、本作「SPYxFAMILY」は年中無休で放送している作品ではないため、毎年公開の映画興行は難しいかもしれない。ただ、本劇場版は本作が劇場オリジナル作品をかなり自由度高くグイとねじ込める懐の広い作品であることをしっかりと示せた作品であったように思われる。ぜひしっかり本作で稼いで、日本の冬の新たな風物詩へと成長していってもらいたい。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?