【映画感想】『コンクリート・ユートピア』 ★★★★☆ 4.5点

 地盤隆起による大災害により壊滅したソウル。偶然にも唯一倒壊を免れたファングンアパートでは、アパート住民と外部からの避難者の間で問題が生じ始めていた。そんな中、アパートで放火事件が発生するが、902号室のヨンタクの危険を顧みない消火活動によって事なきを得る。今後の生活のため、アパート住民たちは自治組織を結成し、臨時代表としてヨンタクを選出する。自治組織を結束したアパート住民たちは自身らの生存のため、避難住民の追放を始めとした冷酷な行動に手を染めていく。



 作中で明確な被害の規模は示されないものの、少なくとも韓国全土が壊滅する規模の大災害が発生し、外部からの救援がほぼ望めない状況下における人々の姿が描かれる本作。本作では孤立したアパートの住民たちが結束し、徐々に差別や略奪、殺人などに手を染めていく姿が描かれる。本作の特異な点は、これらの行動が人々が生存のために極めて民主的かつ合理的に行動した結果の帰着として描かれている点である。

 舞台となるファングンアパートは周囲の高層アパート全てが壊滅した中、奇跡的に倒壊を免れたことから、災害直後には多くの外部からの避難民を受け入れていたのだが、その後、アパート住民たちはこの避難民をすべて極寒の外に追い出してしまう。この行動はとても褒められたものではない非人道的な行為なのだが、限られた資源でアパート住民が生き延びさせるという観点から考えると、非常に合理的な決断とも言え、少なくとも狂気に駆られた行動などではない。

 また、アパート住民たちは後にアパート周辺地域の探索部隊を結成し、この探索部隊が周辺地域にわずかに残された食料を得るために略奪行為や殺人行為に及んでいくのだが、これも現代社会においては到底許される行為ではないが、極限状況下においては強くは責められない行為でもある。

 このように本作では極限状況下で孤立してしまったコミュニティが、避けがたく非人道的な集団に成り果ててしまう経緯を、実にロジカルに描いている。この人間の善性への深い諦めを根底に敷いた作劇はかなりシニカルであるとも言えるが、一方で過度な楽天性も悲観性も廃した本作の作劇は人間を描くという観点において誠実であるとも言えるだろう。



 本作では見渡す限りの全てが壊滅したソウルが描かれるが、この世界観を表現するに当たり、CGやセットを含めた全体の映像が非常に高いレベルで仕上げられている。基本的には倒壊を免れた巨大アパートが舞台となっている一方で、その周辺の壊滅的に倒壊した地域もしっかりと映し出されるため、世界観に広がりがあり、この絶望的な世界観に強い説得力が与えられている。

 冷静に本作の設定を振り返ると、大規模な地盤隆起がソウルの広範囲で起こるというかなり現実離れしたものなのだが、その災害の発生時の様子も迫力のCGでしっかりと真正面から描かれており、このシークエンスの映像レベルの高さはこの突飛な設定を力技で納得させるに足るクオリティのものとなっている。兎にも角にも全体を通して、現実に引き戻させる隙を与えないハイレベルな映像で作品全体がまとめられており、これにより作品全体を漂う絶望感がしっかりと演出されている。



 本作は極限状況下における人々の心理を巧みに描いた上質なエンターテインメント作品として仕上がっている一方で、偶然にも現在の日本の社会状況と強くリンクしてしまっている作品でもあるので、精神的に難しい人は今このタイミングでは観ないほうが良いだろう。

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