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〔ショートショート〕深煎り入学式

今日は久美の入学式。真新しい制服を着てダイニングに入ってきた久美は、何だか大人っぽい。
「お早う。コーヒー飲む?」
私が問うと、ニッコリ笑って答えた。
「うん、深煎りのブラックにしてね」
一瞬、私の手が止まる。あれ?この母親の記憶データによると、確か久美は浅煎りのラテが好きなはず…。

私はM星のスパイ。一時的に人間という器に入り込み、データを集めている。今回は3か月の予定で、既に2週間が過ぎた。夫は全く気が付いていないが、時々この娘は私を嫌な目つきで見ている。

「あら?浅煎りのラテは?」
平静を装い聞くと、
「もう高校生だし。ママも、もう好きな物を飲めば?」
ドキッ。この母親は久美と同じ浅煎りのラテが好きらしいが、私の好みは深煎りのブラックだ。もしかすると…この久美は、ライバルのV星かU星のスパイ?黙ったまま向かいの席に座り、二人で深煎りコーヒーを飲み干す。
「行こうか、ママ?」
「そうね」
私たちは薄く笑いながら入学式に向かった。
(完)




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