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恋する生霊くんは応援したい【第二話】【note創作大賞2024】【漫画原作部門】



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シナリオ・本文 
第二霊 「お化け屋敷合戦」

 
○教室。ホームルーム中。
 
 ざわつく教室。凛は頬杖をつき、物思いに耽っていた。
 
凛(あれから三日かぁ……。梶くんの生霊、あれっきり視てないな。それに梶くんも私に話しかけてこないし……)
 
 ぷぅと頬を膨らまして少しだけ不貞腐れる凛。
 
凛(霊感少女ってことは内緒にしてね、とは言ったけど。話してこないで、とは言ってないのに──!)
 
【霊感少女は少しだけ御立腹であった】
 ちらりと竜之介へ視線を向ける凛。竜之介は真面目そうにホームルームの話を聞いているようだ。
 
凛(本当に、生霊になった時のこと覚えてないのかなぁ? あれが最初で最後……だったのかな?)
 
【というよりも、懐きはじめたと思っていた猫に「シャー」と言われたような敗北感に近い】
 ホームルームでは、担任が黒板の前で声を上げている。
 
女教師「ほーら! お前らよぉく聞けよぉ! 入学して一週間が過ぎた。まだ、打ち解けてないクラスメイトもいることだろう! そこでだ! 毎年恒例! 新入生歓迎会・お化け屋敷合戦の開幕だぁ!」
クラスメイト多数「お化け屋敷合戦〜???」
女教師「そうだ! 君たち新入生には、在校生主催の歓迎会にて、本校ご自慢のお化け屋敷に入ってもらう! ルールはこうだっ!」
 
 ルールその1。新入生はくじ引きで決まった男女のペアで在校生主催のお化け屋敷へ挑む。
 ルールその2。新入生はお化け屋敷にてお札を回収。2・3年の全クラス分、合計6枚のお札を集めるタイムを競う。
 ルールその3。タイムが早いペア上位10組には、本校ご自慢・毎日秒殺完売の『伝説の焼きそばパン』一週間分の食券が配られる。
 ルールその4。在校生は各クラス主催のお化け屋敷にて新入生を迎え撃つ。
 ルールその5。より多くの新入生を怖がらせたクラスが勝つ。そのため、お化け屋敷合戦という名前が由来している。なお、怖がっているかどうかの『最恐指数』は教師が決める。
 ルールその6。最恐指数のトップ値を叩き出したクラスの優勝。夏休みの宿題が免除される。
 
 対照的な二人の表情。
凛(お化け屋敷ぃぃぃ⁈)と、げんなり顔。
竜之介(お、お化け屋敷!)と、興奮気味。
凛(そんなことやったら、本物が紛れて来ちゃうじゃない!)
竜之介(俺、お化け屋敷って入ったことないんだよなぁ!)
 
 やる気満々の女教師は、拳を高く突き上げた。教室に興奮が満ちる。
 
女教師「伝説の焼きそばパン目指して、お前ら、しっかり親睦を深めてこいよぉぉぉ!」
クラスメイト多数「うおぉぉぉぉぉ!」
 
○夕方、夕焼け照らすグラウンドで整列する新入生。校舎全体がお化け屋敷に飾られている。
 
 竜之介と凛が隣同士で立っている。
 恥ずかしそうに頬を掻く、竜之介。
 凛はピシッと背筋を伸ばし、校長の話を聞いている。
 ずらっと並んだ新入生の前、朝礼台の上では優しそうなお爺さん校長先生が挨拶をしていた。
 
校長「よいですかぁ〜みなさん。隣に立っている異性があなたのペアです。力を合わせ、六枚のお札を回収し、ここに戻ってきてくださいねぇ〜!」
 
 竜之介は凛に横目に視線を送り、頬を赤らめる。視線を感じて、凛は竜之介を見つめ返す。
 
竜之介「あっ! その! く、栗宮さん、よ……よろすく」
竜之介(あぁぁぁ! 緊張して噛んじゃったぁ!)
凛「うん、よろしくね! 梶くん!」
 
 笑顔で応える凛。ますます緊張する竜之介。
 
校長「本校のお化け屋敷合戦は戦慄極まりないことで有名です」
竜之介(そうなのぉぉぉ?!)
校長「あまりの怖さに途中リタイアする生徒も出てくることでしょう」
竜之介(マジかよぉぉぉぉ!)
校長「その時は、各階に設けられているエスケープポイントに行ってください。そこでリタイア宣言が出来ます。が、リタイアするときはペア同士で、が原則です! お互いを尊重しながら、親睦を深めてくださいね!」
 
 凛には竜之介の百面相が、犬が尻尾を振ったり、尻尾をしゅんと垂らしているように見えている。思わずクスッと笑みがこぼれる凛。
 
凛(梶くんってやっぱり……犬みたい)
 
校長「それではぁ〜! 新入生歓迎会・お化け屋敷合戦、スタートでぇぇぇぇぇぇす!」
 
 ドンドン、開幕の花火が上がる。
 
○校舎、昇降口前。
 
 竜之介と凛の順番が回ってくる。
 凛の手にはマップが、竜之介の手にはタイマーと懐中電灯が握られている。
 
凛「えっと。この地図の目印のある教室に行けばいいんだよね?」
竜之介「それで、これが俺たちのタイムを測っている……と」
 
 竜之介はタイマーを首からぶら下げた。
 
竜之介「じゃ……、えっと、行きますか?」
 
 竜之介は冷や汗を垂らしながら、懐中電灯のスイッチを入れた。
 
竜之介(す……少しでも、栗宮さんに良いところを見せるぞ!!)
 
○校舎内、一階廊下。
 
「キャァァァァ!!」と何処かから誰かの叫び声が聞こえる。
 びくっ! と恐怖に大きく揺らした後ろ背中は竜之介のものだ。
【人生初のお化け屋敷、竜之介はビビり過ぎていた】
 隣を歩く凛は、涼しい顔をしている。
 
竜之介「っひぃ!!!」
凛「だ……大丈夫? 梶くん?」
竜之介「だ……だだだ、だだ、大丈夫です!!」
竜之介(うわぁぁ! めちゃくちゃ格好悪い! こんなんじゃ、栗宮さんに幻滅される!!)
 
 竜之介は小さく深呼吸をした。なんとか平常心を装い、凛へ言葉をかける。
 
竜之介「栗宮さんは……こういうの……平気そうだね?」
凛「お化け屋敷のこと? うん。作り物だってわかってるから、そんなに怖くはないかな」
凛(だって、本物の幽霊の方が100倍怖いもん‼︎)
竜之介「す……すごいなぁ。なんか俺だけ情けなくて……。恥ずかしいな……」
凛「そんなこと──!」
 
 話の途中、二人の目の前には最初の目的地である図書室の扉が立ちはだかった。
 ごくりと生唾を飲む竜之介。
 目の前に現れたのは、図書室とは思えない入り口だ。図書室の大きな扉の造りを生かし、模造紙などで古いお屋敷のような扉へと見た目を変えた扉。その隣には、ギリシャ調の柱まで立てられている。
 凛は思わず地図を二度見する。
 
凛「す……凄い! 図書室じゃないみたい。まるで本物の洋館……!」
 
 扉の上には『ヴァンパイア伯爵邸』と書かれている。
 
竜之介「ヴァンパイア……伯爵邸……」
 
 図書室の中から、他の生徒の悲鳴が聞こえてくる。
 
竜之介「ッ! い、いいい、行こうか?」
 
 コクリと頷く凛。
 竜之介が扉を開いた。
 ギィィィと不気味な音を立てる扉。開けた瞬間にスモークがブワッと立ち込める。
 
○図書室・ヴァンパイア伯爵邸。
 
 図書室という作りを利用して迷路のようになっている室内は、洋館のようにデザインされている。おどろおどろしい雰囲気は、スモークマシーンと気味の悪いBGMのせいだ。
 
凛「わぁ! スモークまで焚いてある! ねぇ、梶くん見て!」
 
 フェイクの蜘蛛の巣を潜りながら、凛が竜之介の方へ視線を向けると、彼は恐怖で顔色を真っ青にしていた。
 竜之介は、チワワのようにブルブルと小刻みに震えている。
【梶竜之介、15歳、男子高校生。今、この場に片想い相手がいなければ、彼は秒速で失神している】
 
凛「だ……大丈夫? リタイア……する?」
 
 凛の声にハッと我を取り戻し、竜之介はカラ元気に返事を返した。
 
竜之介「ううん! だっ、だだだだ! 大丈夫だよ!!」
凛(梶くん……全然大丈夫じゃなさそう)
竜之介(嘘です、今にも気を失いそうです。まさか、お化け屋敷がこんなに恐ろしいものだったなんて──!)
 
 へっぴり腰の竜之介は、凛と一緒に図書室内を先に進む。竜之介はおもちゃのコウモリに悲鳴を上げ、ぴちょんと水滴が天井から垂れてきては泡を吹き、本棚の影からゾンビが出てきては腰を抜かした。
 【竜之介は、まんまとカモになった】

図書室の脅かし役達(すげー奴が来た笑)
 
 お化け屋敷を進む二人。
 
竜之介「あれは!」
 ついに、お札の入った宝石箱を見つける二人。
 
凛「あ! あったよ! 梶くん!」
 恐る恐る宝石箱を開ける凛。札を見つけ、竜之介へと見せる。
 
 その時、二人の背後から本格メイクを施して完全なヴァンパイア姿になった脅し役が現れた。
 
ヴァンパイア役「その札が欲しければ、乙女の生き血を頂こうかァァァァ!!!」
竜之介「う! うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 
 竜之介は一際大きな悲鳴をあげるとそのままの流れで凛の手を取った。
 
凛「か! 梶くん⁈」
竜之介「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 栗宮さんに、手を出すなぁぁぁぁぁぁ!」
 
 走り逃げる竜之介をさらに脅かすために、次々に現れる洋風お化けの群れ。竜之介は涙目で走り続けた。
 凛の手を離すことなく走る竜之介。
 ドキドキ、と早くなる凛の鼓動。
 
凛(こ、こんなに怖がってるのに……! こんなに必死になって……! ま、守ってくれるの⁈)
 
 そんな竜之介の背中を見つめて、凛は、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
【栗宮凛は、ギャップに弱かった】
 
 竜之介に手を引かれながら、とくんとくんと凛の胸が熱くなっていく。

凛(あ、あれ? なんだろ? なんか、胸が変だよぉ!)
竜之介(お! お化け怖いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!)
 
【何かを察したお化け役達は思っていた。「もう付き合っちゃえよ」と。】


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