見出し画像

ド文系にもおすすめしたい100冊分の価値がある暗号の世界 ーサイモン・シン『暗号解読』ー

サイモン・シン。
名前だけは知っていた。
あの有名な『フェルマーの最終定理』の人でしょう、と。
しかし、まったく読もうという気はしなかった。
なぜなら、僕はド文系の人間で、「最終定理」なんて言葉を出された日には、文字は目に入っても、頭には何も残ってはいない。できれば、見なかったことにしたいと思うくらいなのだ。

サイモン・シン。
きっと、難解なサイエンス系の、理系が好む感じの文章を書く人なのだろう。
つまり、僕には縁遠い人。
そう、思っていた。

しかし、僕は、そのサイモン・シンの『暗号解読』に手を出してしまった。
理由は、堀江貴文さんが、「100冊分の価値がある」とまで絶賛していたからだ。
あの堀江貴文がそこまで言うのか!と、俄然興味がわいてきた。
しかも、理系の知識はそこまで必要ないという。
それなら、一丁読んでみるか、と上下巻ある新潮文庫を購入した。

しかし、「暗号」かぁ。
買い揃えたはいいけれど、なかなか読む気にはならない。
なにせ、「暗号」なんて、正直、これっぽっちも興味がないのだから。

「暗号」言い換えれば、コード、もしくはパスワードだろう。
たしかに、日常的にインターネットでモノを購入したりする時には、パスワードが必要だ。
しかし、そういうことではないだろう。
なにせ、それを「解読」するのだから。
上巻の目次を読んでも「スコットランド女王メアリー」や「エニグマ」はなんとなく気になるけれど、「ブラックチェンバー」や「ヴィジュネル暗号」などの言葉は、読んだだけでもアレルギー反応を起こしそうなほど、理解不能だ。
はたして、読み切れるのだろうか。
不安でいっぱいになったが、とにかく読み始めた。

前置きが長くなったが、結論を書こう。
この本、めちゃくちゃ面白い。
そして、僕はこの本を読んでわかったのだ。
「世界は暗号でできている」と。
舞城王太郎の小説のタイトルっぽくなってしまったが、結構本気だ。
なぜ、そう思ったのか。
それは、歴史が「暗号作成者」と「暗号解読者」の激しい攻防によって、動いてきたからだ。

例えば、先ほどでてきた「スコットランド女王メアリー」は、暗号が解読されたことによって、エリザベス女王に処刑されることになる。
イングランドで幽閉されていたメアリーは、エリザベスの王位を狙うべく、外部の支援者と暗号でやりとりをして、エリザベスの暗殺を企てた。
しかし、暗殺の企てに気がついたエリザベスの首席国務卿フランシス・ウォルシンガムは、メアリーの暗号を解読し、メアリーの有罪を明らかにしようとした。
かくして、暗号はウォルシンガムによって解読され、ついにメアリーは処刑されるにいたったのだ。

暗号解読によって、一国の女王の命が奪われる。
もちろん、例はそれだけではない。
事前にペルシャ侵攻を暗号により伝えることができたおかげで、ギリシャはペルシャに勝ち、史上最も恐るべき暗号システム「エニグマ」が解読されたことにより、ナチスは連合軍に敗北した。
日本の暗号システム「パープル」も、もちろんアメリカに解読されていた。
山本五十六がソロモン諸島北部を視察するという日程まで含めたメッセージを解読していたアメリカは、Pー38戦闘機で彼を葬ることに成功した。

どうだろうか。
これでも、あなたは「暗号」によって、世界ができているということに異論があるだろうか。
しかし、さっきからの例って、「戦争」のことばっかりじゃない?
という疑問が当然あるだろう。
違うのだ。
この「暗号解読」というものが産んだ最大の発明。
それを、今、この文書を読んでいる誰もが使っている。

そう、コンピューターである。
エニグマを超える複雑な暗号機、ローレンツ暗号に対抗すべく生み出されたのが、現在のコンピューターの原型「コロッサス」だ。
暗号解読は国の極秘任務であったため、「コロッサス」自体は、戦争終結の時点で打ち壊され、関係者は固く口止めされた。
そのため、コンピューター発明の栄誉は、他の科学者のものとなった。
しかし、「暗号解読」のために産み出された技術が、現在にもつながるコンピューターテクノロジーを先駆けて生み出したことは驚きだ。
このあたりは、映画『イミテーションゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』という作品を観るとさらに理解が深まるのでおすすめしたい。
(※この映画では、エニグマを解読したアラン・チューリングの発明こそが、後のコンピューターの原型だったことになっている。説はいろいろあるのかもしれない。)

そして、今なお、「暗号作成者」と「暗号解読者」の攻防は終わっていない。
ついには、その次元は「量子物理学」の領域にまで、達している。
文系には、シュレディンガーの猫の例えでなんとなくわかる多次元宇宙とか、パラレルワールドとか、そういうSFの話だ。
しかし、現実にそのSFは、確かな技術として実現されようとしているのだ。
それは量子コンピュータと言われるらしいが、はっきり言って、この項目になってくると、完全に理解がおいつかなかった。
なんとなく、『シュタインズゲート』的なことかな……。
と、わかったような気にはなったが、多分、まったくわかっていない(笑)

ただ、確実に言えるのは、最初に書いたネットで買い物をする時に使っているパスワード。やはり、それは暗号なのだ。
そして、今その暗号は人類の歴史の積み重ねにより、安全に守られている。つまり、暗号作成者の技術の結晶が、我々の日常を守ってくれている。
しかし、いつか、その日常は暗号解読者によって、技術革新によって、破られる可能性がある。
それは、きっと遠い未来のことではないのだ。

兎にも角にも、この本は、確かに堀江貴文の言う通り、100冊分の価値がある!
一生に一度、ド文系でも読む価値のある本です。


この記事が参加している募集

私のイチオシ