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姪と父とのお別れ

 父が危篤になったので、東京から6歳と2歳の姪が帰って来ていた。彼女らは至って無邪気である。

 寝たきりで意識もあるのかどうか分からない父に「じいじ、だっこ」をせがむ2歳の姪。

 「じいじ、げんきになってね」「じいじかわいそう」「だいすきだよ、じいじ」と、6歳の姪。

 彼女らに永遠の別れを理解するのは、まだ難しいのだろう。

 病室の中で「きょうおそうしきようのくつをかってきたの」と、悪気もなく話す姪に、こちらは冷や汗が流れた。

 じいじは天使になるんだよ。ほら、頭に輪っかが見えると言うと、「ほんとだ、みえるー」と返す。ホンマかいな。

 葬儀は滞りなく進み、6歳の姪は神妙な顔でお焼香。2歳の姪は自分でしたかったので、少しぐずった。

 「じいじねてるー」と2歳の姪が父を指して言う。大人だけの葬儀は沈痛だが、子どもがいるとほっとする。

 出棺の際に「たのしかったー」などとはしゃぐ姪は、なかなかの大物だ。

 火葬場では、「さよならぼくたちのようちえん」の替え歌で、「さよならぼくたちのじいじ」を大きな声で披露した6歳の姪。なかなかの出来であった。

 お骨上げなどの生々しい所は見せないようにして、無事葬儀は終わった。2歳の姪はじいじの遺影に手を振っている。

 家に戻り、父を祭壇に飾る。毎朝コーヒーを供えるのが日課だ。少し飲んだから減ってるよ、と言うと、素直に信じる。

 東京へ帰る日、じいじの祭壇に手を合わせて「じいじ、またくるね」と約束した。

 彼女らにどれだけじいじの記憶があるのか分からない。写真でしか知らない存在になるのだろう。

 お正月に帰って来た時は、まっしぐらにじいじの元へ走って行った2歳の姪の成長を、何よりも楽しみにしていたのは父だった。

 写真の中の父は、いつも通りの笑顔を浮かべて私たちを見ている。

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