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知財業界での大ピンチ 本当にあった知財的に怖い話し。

「弁理士の日記念ブログ企画2022」(https://benrishikoza.com/blog/benrishinohi2022/)のブログ記事です。

 十数年前の夏の終わりの夜、とある地方都市の良く言えば閑静な、悪く言えばさびれた商店街の片隅にある小さな中華料理店で食事をしていると、見知らぬ一人の酔っ払いの男が現れた。
 男は俺が特許調査の仕事をしていると知ると、自分が商標「〇〇ノート」の権利者だという話しを始めた。

「ところがな、平気で権利侵害する奴がいるんだ。」
「大変ですね。」
「✕✕の店に、マジックで表紙に〇〇ノートと書いたノートが置いてあった。だから特許庁の登録証を持って殴り込みに行ったんだ。それでも話しを聞いてくれなかった。」
 話しによると、来店した客が感想やメッセージを書くために店に置いたノートで、ノートの商品名を「〇〇ノート」として販売している様子はなさそうだ。

酔っ払いの話しだからと聞き流そうと思っていたが、何か嫌な予感がした俺は早く店を出たくなって、チャーハンをかきこんだ。
 
「商標を出願してほしい。」
 チューハイを飲みほした男が突然言い出した。

 オヤジギャグ系の商標を使用した商品を近くの神社で販売すると、その商品を買いに来る人が増えて、地域活性化に貢献できる。そのために商標出願したいという話しだった。
 神社の関係者ではなさそうだし、その商品を販売している事業者にも見えなかったし、オヤジギャグのネーミングの商品を販売すると地域活性化になる理由も俺にはよくわからなかった。

「商標を出願したい。タダで手続きをしてくれ。」
 男は再び言った。
「弁理士に頼んでください。」と俺は言った。
 俺は代理人になる資格はない。出願の代行はできないのだ。

「商標の出願は誰でも簡単にできるんだろ?」
「商標の出願は、書類を作成するだけではないし簡単ではありませんよ。商標をどのように使うか、指定商品や指定役務を検討しなければならないし。誰でもできることではないです。」
 指定商品や指定役務との関係で、登録されても出願人の仕事に向かない商標出願や権利行使しにくい商標になる場合がある。出願の相談は弁理士にしてくれないと困るのだ。

 仮に自分が商標の願書を作成するスキルがあったとしても、弁理士資格がなければ出願の依頼は断る。スキルがあることと、その仕事ができることは別の問題だ。例えば、車を運転するスキルがあったとしても、自動車免許がなければ公道で車の運転ができない。商標出願の仕事も、特許や意匠の出願の仕事も、同じように弁理士の資格がなければできないのだ。

「大丈夫。絶対にバレないから。」
「ダメです。」
 実は、無資格の人の氏名が公報の「代理人」の欄に書かれている公報は実在する。無資格の代理人は、自身の黒歴史を自ら世界中に公表するつもりらしい。

俺が出願の代行をしないことを知った酔っ払いの男は、俺をにらみつけながら携帯電話を取り出し、大声でどこかへ電話をかけた。
「話しが違うぞ!」
 ちょっと待て、話しってなんだ!?

 変な人を弁理士に押し付けるつもりはないけど、特許、意匠、商標の出願は必ず弁理士に依頼してください。


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