ハイヒール
カッ!カッ!カッ!母のハイヒールが背中を押してくる。
田舎のバス停。
幼い茜の後から、赤い口紅、香水の香をさせて、母が急いで駆け出してくるのだが、足元のハイヒールの為、駆け足のような歩いているような速度だ。
お母さん。。早く。。バス行っちゃうよ。
あっ。やっと間に合ったね。お母さん。よかったね。
席空いてる、お母さん座る?
いいの?ありがとう茜。
お母さんがバスの席に座る。
お母さんは、椅子に座る時は綺麗に横に足を流してすわる。ハイヒールを履いた足は、とてもスッとして、周りの大人たちとは、別な空気を纏わせ、眼をひきつける。
ねぇ、お母さん、どうしてそんな風に足を遠くに置くの?
痛くない?
ううん。痛くないよ。
大人の女の人は、こうして椅子に座るだんだよ。
足が綺麗に見えるでしょ。
茜は母の足をみる。長くすべすべな感じの足。
横に流された綺麗な足。
バスの中の男の人達の中では。一際輝いていた。
大人になった茜が、「大人の女」を思うとき、
背中を押す、ハイヒールの音と、
椅子に座る時の流れた足を思い出す。
茜はハイヒールも、ミニスカートから伸びる足にも縁がなく、今まで過ごしているが、
この情景の中の女としての母が、嫌いだったせいかもしれない。
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