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ロアーズ

Roah (1981)

 「エクソシスト」のエグゼクティブ・プロデューサーだったノエル・マーシャルが、稼いだお金をつぎ込んで制作・監督・主演した動物映画。共演はマーシャルの当時の妻ティッピ・ヘドレン(共同制作も)と彼女の実子メラニー・グリフィス、マーシャルの実子ジョンとジェリー。
 アフリカで猛獣と暮らすマーシャル(何の仕事をしているのか不明)のもとにヘドレンと子供たちがアメリカから会いにくるが、トラブルで妻子はマーシャルのいない猛獣だらけの家に。パニックですったもんだの挙句、みんな仲良くなるというお話。

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 妻子がライオンをはじめとする猛獣に囲まれるマーシャルの家は、実際はアフリカではなくLA郊外に設営された『牧場』。アフリカにはいないトラやピューマもいるので、人為的に集められた動物たちだとすぐわかります。クロヒョウはおもに南アジアでみられますが、アフリカにも超レアながら生息しているそうです。また噂によれば、乱暴者のライオン『トガール』は、チャーチ・オブ・サタンを興したアントン・ラヴェイが飼っていたんだとか。

 流血シーンもありますし、ハンターがライオンに食い殺されたりもしますけども、基本的にはお子様も安心して見られる極めてソフトなパニック映画です。

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 が……本作をカルト作たらしめているのは、多くの俳優・スタッフ(のちに「スピード」を監督して名を挙げる撮影監督のヤン・デ・ボンを含む)が大怪我を負っている事実があるから。グリフィスも整形手術が必要になるほどの怪我を負ったそうです。猛獣との絡みでは、妻子はもちろん、マーシャル自身もかなり怯えて腰が引けているのがわかります。猛獣たちはもちろん無邪気に甘えたりじゃれついたりスリスリしたりしているわけで、にゃんこ好きとしては目がハートになる至福のシーン連発なのですが、人間との体格差をみたとき、本能的な危機感をさすがに禁じ得ません。映画の本編ではなく、制作がいかに危険で過酷であったかのドキュメンタリーを見せられている気にすらなります。

 エンディングのメッセージから、マーシャルとヘドレンが真剣に野生動物保護を考えてこの映画を製作したんだろうな、と推察することは可能ですが、そのために家族やスタッフの生命をここまで危険にさらすのは、さすがに狂気の沙汰としか言えません。その狂気を、初めから終わりまでハイパー躁状態、台詞すら支離滅裂で脈絡のないマーシャルの演技が端的に示していると思います。とは言え、1人狂ったマーシャルが出演者やスタッフを巻き添えにした迷惑ムービーというわけでもない(少なくとも映画を見るかぎりにおいては)のが興味深いところです。デ・ボンも最後まで撮影監督をやりきっているわけですから。どこにそのモチベーションがあったのかはわかりませんけども。

 そんなわけで、大人になってから見るとちっともほのぼの映画じゃないじゃん、というのが私の感想なのですが、マーシャルを探すヘドレンが、部屋に入った途端に飛んできた小鳥にびっくりするという小ネタだけは微妙に笑いました。

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