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ゴール裏「右派」とゴール裏「左派」 ~応援的スペクトルを考える~

1. 人前で話してはいけない「タブー」

 今年も気づけばあっという間に12月、師走です。毎週末の楽しみ、Jリーグ観戦も、シーズンオフとなりいったんお休み。寝起き一発目にスマートフォンに表示される移籍のニュースで目を覚ます、ストーブリーグの季節のはじまりです。

 そんな年の瀬に突入した昨今ですが、年末といえば、やはり増えるのは「お酒の席」ではないでしょうか。流行り病の蔓延も一旦は落ち着きをみせ、今年は気の置けない小さな仲間同士で、一年を振り返ることができそうな、そんな気配です。

 ところで、日本には古来から「酒の席で話題にするべきではない、3大タブー」というものがあります。


 「政治・宗教・野球」です。


 これらの話題は、「好き」「嫌い」という「趣味嗜好」の範囲を超えて、個々の「主義・信条」が乗ってくるため、揉め事の種になりやすい――。そのような話題であるため、特に本音が出やすい酒の席では、これらの話題は避けましょうという、先人のありがたいお言葉です。


 しかし、Jリーグファンである私は、こうも思うのです。


 「『サッカーの応援』もこの『タブー』に含めるべきでは?」


 たびたび起こる「ブーイングは善か悪か」論争を筆頭に、「応援の旗が邪魔で試合が見えない」、「自由席なのに、暗黙の了解として応援団が最前列を取るのが納得できない」など、サッカーを応援していると、とにかく考え方の相違による論争が絶えないのです。

 当然、「どちらが間違っている」ということはありません。論争とは、人と人との正義のぶつかり合いなのです。

 故にこれらの論争は、今日に至るまで決着をみないまま、時に問題として現れては、立ち消えることを繰り返しています。


 そう考えると、サッカーの応援席とは、主義信条を持った個々人ないしグループの集合体――まさに小さな「国会」のようなものなのかもしれません。

 各々のサッカーの応援に対するスタンスも、ある種政治思想と同じようなもの。ひとりひとりに「政治的立ち位置」ならぬ「応援的立ち位置」があるのです。



2. 応援的スペクトル

 「政治的スペクトル」という言葉があります。政治的立ち位置の分布を、モデルとして表したものです。

 政治的スペクトルの分かりやすい例としては、保守陣営を「右派」、革新陣営を「左派」と表現した、一軸的なものがあります。
 

 フランス革命後の国民議会で、王党派が議長席から見て右側の席に、民主派が左側の席に座ったことを語源とするこの言葉。現代では個々の政治的立ち位置も複雑化しているため、必ずしもこの構造に単純化することはできませんが、一般的な表現として現在でも度々耳にします。

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(図:一軸型の政治的スペクトル)


 「右派」「左派」という横軸に、「自由主義」と「全体主義」の縦軸を加えた、二軸型の図もよくみられる構図です。

 極端な例を挙げます。第二次世界大戦中の枢軸国に代表される「ファシズム」は、国という権威を守るために極端に個人の権利を制限したという点で、「右派・全体主義」の代表例。

 それとは逆に、資本主義の国において体制を変更し、個人の自由を制限して、国民全体が平等に豊かになることを目指した姿が、いわゆる「共産主義」。

 縦軸を正の方向に転じると、個人の自由を重んじるあまり、国による統制を必要としない状況を「アナキズム(無政府主義)」と呼び、クーデター等で政権が倒れた直後の国家で見られます。

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(図:二軸型の政治的スペクトル)


 以上はあくまで極端な例ですが、今の体制を守るのか、変えていくのか、個人が競争して豊かになる社会を目指すのか、あらゆる人が平等である社会を目指すのか。基本的に各自の政治的立ち位置は、おおむねこの平面の上に置くことができます。

 それでは、これをサッカーの応援に変換していきましょう。各方向の極端な例を挙げると、このような感じでしょうか。(あくまで「極端な例」です)

 ここでは「保守」側を「Jリーグに限らずスポーツ全般にみられる、古くからある応援に対する考え方」、「革新」側を「主に新興クラブに多くみられる、サッカーをコミュニケーションツールとする考え方」と位置付けました。

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(図:応援的スペクトル)

 

 ここでひとつ、どこでも構いません、サッカークラブを思い浮かべてみてください。そのクラブのサポーターの様子、応援を想像すると、各クラブをこの図のどこかに置くことができると思います。

 また、この「応援的スペクトル」は、個人の応援に対する考え方にも適応することができます。下図に私の例を記します。箇条書きで整理すると、私は「中道右派の自由主義者」といったところでしょうか。

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(図:私の現在の応援的立ち位置)

【右派的要素】
●サポーターは「クラブと共に戦う存在である」。それゆえ、時には厳しいメッセージも必要である。⇒クラブへの激励としてのブーイングは是とする
●クラブの継続性は当然大事だが、なるべく上のカテゴリを目指したい。⇒勝利至上主義
【左派的要素】
●他のサポーターとの交流は大事だが、合わない人・クラブがいるのは当然である。
【自由主義的要素】
●自分のクリエイティビティをサッカーの応援で活かしたい。
●趣味の範囲なので、スタジアムでは他者に迷惑を掛けない範囲で、個人の自由はある程度尊重されてほしい。



3. 「多様性」とは?

 前段で紹介した、「応援的スペクトル」を用いると、クラブや人によって、立ち位置がかなり異なることがわかります。また、観戦経験や人生経験が増えるにつれ、その立ち位置が変わることも、往々にしてあります。

 かくいう私も、「サポーターなりたて期(~2017年序盤)」「右傾化期(2017年中盤~2018年中盤)」など、時期によって自分の立ち位置は大いに変化しています。右に左にと振れた結果、今の立ち位置にたどり着いています。

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