地域におけるサーキュラ―エコノミーの実践
2024年2月9日、国際社会経済研究所(IISE)が開催した「IISEフォーラム2024 ~知の共創で拓く、サステナブルな未来へ~」では、各テーマに沿ったブレイクアウトセッションを実施。「地域におけるサーキュラーエコノミーの実践」をテーマにパネルディスカッションを実施し、富山発のアルミニウム資源サーキュラーエコノミーモデル実装に向けた取り組みについて意見交換を行いました。
富山大学の先端技術が高純度のリサイクルアルミを実現 アルミ製造プロセスのCO₂排出量を97%も削減
西岡 アルミニウム(以下、アルミ)の製造プロセスでは大きな電力が使われます。ただし新たにアルミをつくるのではなく、リサイクルすることで、CO₂の排出量を97%も削減できます。さらにリサイクルするアルミを高品質なものにできれば、汎用性が高い素材として価値も高めることが可能です。これを実現する仕組みが富山で確立されつつあると伺いました。
柴柳 アルミのリサイクルと聞くと空き缶から空き缶が生まれるイメージかもしれませんが、例えば自動車のエンジンなど様々な用途で使われています。しかし、これらのアルミをリサイクルして使うのは簡単なことではありません。
なぜなら、エンジンに使うアルミには10%ほどのシリコンが添加されているからです。リサイクルアルミの品質を担保するためには、シリコンの割合を1%以下まで落とす必要があります。ところがアルミは一旦手に入れた自分以外の元素を手放すのを嫌がる金属なので分離が難しい。それでも私たちは、アルミが気持ちよくシリコンを手放す方法を発見して特許を出願しました。
現在はこの方法をベースに、第2、第3の方法の研究開発を行っています。アルミの原料を輸入に頼っている日本にとっては、アルミをリサイクルする仕組みを手に入れることは非常に重要です。
再生材利用はグローバルの要請 富山を支えるアルミ産業が新たな価値を創出する
西岡 なぜ富山発でこのような取り組みが行われているのでしょうか?
森 富山には、YKK APや三協立山といった大手アルミ建材メーカーの本社やマザー工場が存在します。これらの拠点周辺にはアルミ関連の事業者が集まっているため、アルミ産業は富山にとって基幹産業だといえます。また張田さんのように、社会貢献意欲が高い企業が多いことも影響していると思います。
張田 当社はアルミ合金系の種類ごとに選別するソーター機の開発に成功しています。この技術を使って、JR東海と日本車輌製造、日立製作所、三協立山と共同で、新幹線の廃棄車両のアルミを再利用し、新しい車両に利用するリサイクルシステムを構築しました。このシステム実現の最大の特徴は、新幹線の設計情報や素材情報などを企業間で共有すること。これからの循環は「個人戦」から「団体戦」の時代なのです。
西岡 この仕組みはどのような価値を生むと考えますか。
張田 サーキュラーエコノミーの資源的な循環とCO₂の話がわかりやすいと思います。資源循環をしっかりと行えば、カーボンフットプリントの計測につながるのは必然ですが、そこにインセンティブが与えられればマネタイズにつながるでしょう。
2030年には新車の生産にプラスチックの再生材を25%以上使わなければならない自動車リサイクルの規則案がEUで発表されました。こうした流れは自動車以外にも広がっていくと予想されます。国際規則や規格に対応するためにも、私たちが有する「アルミ合金などの素材を分類し、リサイクルする技術」が必要です。つまり、この技術がグローバルにおける事業機会を創出することにもつながるわけです。
仕組みの社会実装には市民の協力と納得が必須 オール富山の「団体戦」で世界に挑む!
森 現在、国内の中古車の多くは、海外に流れています。これはアルミという資源が海外に流出していることを意味します。住宅用の建材についても、解体時に丁寧に取り出してリサイクルに回っていればよいのですが、実際はそうではありません。だからこそ廃材などをきちんとリサイクルに回す仕組みを構築する必要があると考えています。
柴柳 現状のアルミ製品は、どこで、どういうふうにつくられたものか、わからないままに使っています。しかし素材によって大きく価値が異なるために問題が生じています。そのためデータサイエンスを活用して、アルミ製品の出所がすべてわかった状態にすることを実現しようと取り組んでいます。
現在の技術では原子レベルで素材を調べることができますから、その情報とAIを活用すれば、ある製品にどのような不具合が起こるかとの予測も可能です。将来的には、アルミに限らずすべての工業製品に「履歴」が付く世界を目指します。それを実現するプラットフォームを、NECと共同で開発中です。
西岡 今話されたプラットフォームの開発は、富山県高岡市に設けられた産官学の共創の場で取り組んでいます。では今後、このアルミリサイクルの仕組みが社会実装されていくには、どのようなことが必要でしょうか?
森 市民一人ひとりが、自分の暮らし方の中で循環経済についてしっかりと考えていくことが求められるのではないでしょうか。要するに、オール富山の「団体戦」で世界に挑む姿勢が必要不可欠だと思います。家電リサイクル法におけるデポジット制度のように、製品の購入の際にリサイクル費用をのせておく。すぐに皆さんの賛成を得るのは難しいと思いますが、実現できればきれいなカタチの資源循環経済を構築できるはずです。そして行政は市民の皆さんにきちんと説明して、説得していく役割を果たすべきだと考えます。
柴柳 まずは私たちが技術開発をしながら、一つひとつの課題を解決し、資源が循環する社会構造を富山にしっかりつくっていく。その過程で丁寧な教育を行い、若者たちが順次取り組みに参画することが求められると思います。そのうえで彼らが循環資源型の社会を実現する場として、富山というフィールドを提供していくのです。
循環資源型社会の実現は日本の勝ち筋になる
張田 いずれにしろ、産官学民が総力を結集することが重要です。まずは飲み終わったアルミ缶を指定された場所に持っていく役割を市民一人ひとりに果たしてもらいます。小さなことから、市民がアルミを選択する行動変容を促し、新しいアルミ製品の開発と共に拡張していくことにより、地域社会にアルミのストックと循環量が増えていくことで、資源の確保と省エネの実現をしていきます。このように社会を変革していくことが、日本の勝ち筋になると考えています。
森 リサイクルに関して第一義的に責任を負うのは市町村です。しかし廃棄物の対応は一律ではなく、厳格にプラスチックをリサイクルしている自治体もあれば、そうではない自治体もあるのが現状です。私の立場で言えば、家庭から出る資源を再利用するために、いかに全国的に統一した仕組みを構築するかも大きな課題だと改めて感じています。
西岡 今日は富山を起点にお話しいただきましたが、このテーマは日本全体、さらには世界にとってもメリットになる話だと思います。改めて皆さんと意見交換を行いながら、IISEとしても新しい価値を生み出していければと思います。
【アーカイブ動画・抄録を公開中】
国際社会経済研究所(IISE)では、当日のセッションの様子を収録したアーカイブ動画および抄録を公開中です。
アーカイブ動画
抄録
https://www.i-ise.com/jp/symposium/sym_iise-forum2024_ab_data/sym_iise-forum2024_04.pdf
https://www.i-ise.com/jp/information/symposium/2024/sym_iise-forum2024_ab.html